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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
五章 機神と故郷
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試練

 ギャリッといびつな音を響かせて、金属片が宙を舞う。


「あ――! うぅ、参りましたぁ……」

「――ッハァ、ハァ……おいぃ、ウルぅ」


 動作の隙を見事に突かれたシグレは痛恨の表情を浮かべたけど、きちんとルールに従って負けを宣言。対して勝利をもぎ取ったロヴは、力の乗らない恨み声でボクの方を睨み付けてくる……けど、その顔からはいつもの凶悪さが――うん、ほんのちょっぴり薄れて見える。加えて玉のような汗を浮かべて肩で息をしているところを見るに、わりと余裕のないご様子。


「やーロヴ、これで四人抜きだね。シグレまで突破するなんて、さすがだって誉めてあげてもいいよ?」

「クソがっ……聞いてねぇぞ、こんなん……」


 だから恨めしげな視線をまるっと無視してニッコリ応じてあげれば、無駄だとわかったのか苦々しげに一言吐き捨てると息を整えることに集中するロヴ。はっはっは、ざまぁないね。

 今ボクたちがいる場所は第一訓練所――要はカラクリで一番大きなフリースペースだ。広大な地下空間は優秀な身体能力を持つマキナ族がチームを組んで暴れても十分な余裕があるため、もっぱら戦闘訓練に利用されている。

 そんなところに部屋から直行した目的は当然バトルなわけで、それを言ったら「話が違う」ってロヴが盛大に文句を言ってきた。まあ魔導銃を作るって思ってたんだろうから気持ちはわかるよ。

 でもまあ、ボクの方だってそう簡単にイルナばーちゃんが作り上げた武器を外に出すわけにはいかない。なんせ『誰も傷つけたくないけれど、守るためには力が必要』っていう二律背反をどうにかするために、マキナ族っていう意志を持つ兵器を生み出すような人だ。隠居前は武器としての魔導器(クラフト)を一切作らなかったという筋金入りで、今ある武装だって原則的にマキナ族専用って形で作り上げられたものだったりする。

 だけどマキナ族が外の世界に出ていけば、遠くない内にその武器を欲しがるような人が出てくるのは火を見るよりも明らかだった。現に今回、ロヴが突撃してきたしね。

 それを見越しながらも妙案が浮かばず頭を悩ませていたイルナばーちゃんだったけど、そこにボクが一つの案を持ってきた。それがズバリ、『武器を授ける試練の設置』。うん、前の世界の記憶からオマージュしたよ。

 その根底にあるのは一定の実力がなければ――なんてことじゃなくて、『手に入れるのにものすごく苦労した物なら手放さずに使ってくれそう』っていう人間の心理に期待した単純な打算だ。一応補助的にセーフティをかける用意もしてあるけど、それだって完璧じゃないだろうし、認めた相手がずっと使ってくれるのが一番だからね。

 そういうことで、すでに『カラクリに招けるほどに信用できる人か判断する』っていう第一段階をクリアしていたロヴには、第二段階として設定した『マキナ族からの試練』に挑んでもらったというわけだ。わざわざ内情を話す必要もないから『そういう掟だ』ってことでゴリ押しして、実に不満げながらも一応は納得してくれたのでなんの問題もない。

 で、肝心の試練の内容は題して『情け無用組み手五人抜き』。まあ単に招集した戦闘が得意なバルトの役名持ちマキナ族を含めた中から五人に勝てばいいってこと。それでもさすがに体力無限の戦闘兵器相手だとムリゲーすぎるから、出力は『平常』のみでネックレスみたいにぶら下げた的を壊せば勝ちって事にしてある。で、ロヴはつい今し方四人目をクリアしたってわけだ。


「それじゃ、最後の相手はボクだよ」

「……だと思ったぜ、ハァ……ちぃとばかり、休憩しないか?」

「別にいいけど、その場合はまた最初からやり直してもらうよ? 連戦してもらうことに意味があるからね、この試練」

「……おーしわかったちくしょうめ。このままきっちり決めてやるよ!」


 ニッコリ笑ってルールの捕捉をしてあげると、なんとか落ち着かせたらしい息をまた荒げ、魔導銃を肩に担ぎつつ長剣(ロングソード)を突きつけてくるロヴ。セリフがわりとやけっぱちに聞こえるのは気のせいじゃないと思うんだ。

 それもそのはず、すでに試練開始から五時間は過ぎてる。地下だからわからないけど太陽はとっくに沈んでる頃合いで、その間中ずっと激しい戦闘を繰り広げてたんだから、これで疲れもしないのはマキナ族くらいだろう。現に横でずっと一緒に訓練していたシェリアは珍しくぐったり気味だし、リクスなんて大の字に転がってグロッキー。あんまり動かないケレンですら青い顔で四つんばい状態だ。うん、ゴメン、久しぶりに帰ってきたからって知らないうちに張り切っちゃったみたいだ。

 ……ま、まあそれはさておき、今はロヴの試練だ。用意してある的形ネックレスを首に提げ、右手にはスノウティア、左手に最小形態のサンラストでリクススタイル。『探査』の魔導式(マギス)は観戦がてらとっくに起動済み。よし、準備はオッケー。今し方負けたばかりのシグレと入れ替わるようにしてロヴの前に立つ。


「じゃあシグレ、開始の合図お願いね」

「わかりました! ロヴさんも準備いい?」

「おう、もうちょっとばかり待って――」

「それじゃ始め!」


 あんなこと言いながらも見苦しく時間稼ぎしようとしたロヴをバッサリ無視して告げられる開始の合図。うん、グッジョブだよシグレ! あの子のことだから何も考えてなかった可能性が高いけど!

 そして始まったからには遠慮するつもりは一切ない。だからロヴが何か言いたげにシグレに目を向けているのを幸いに、魔力を足に集中させて思いっきり地面を蹴った。

 もともとそんなに離れてなかったから一瞬で間合いはゼロ。そのまま直前までよそ見していたロヴにスノウティアで思いっきり斬りつけるけど、それをわかってたとでも言いたげに長剣(ロングソード)ががっちり阻む。相変わらず、背中どころか全身に目がついてるみたいな超反応だ。

 まあだからって手を緩める理由にもならないから、そのままどんどん攻撃を続行。マキナ族の身体能力は当然として、臨険士(フェイサー)として身に着けた戦闘技術も全力稼働だ。対するロヴはどうやらここまでの疲労が効いてるみたいで、これまで戦った中でも明らかに防戦気味だ。ふっふっふ、このまま押し切ってやる!

 なんて内心ほくそ笑んだのが悪かったのか、ふとした瞬間に銃口が目の前を横切った瞬間に発光。間髪入れずに飛んできた魔力弾がもろに顔面に直撃した。

 これが一般人なら頭に風穴があいてるのに容赦ない――なんてことは今は言えない。試練を始めるって決まった時点でマキナ族についての情報は解禁済みだ。でないとフェアじゃないしね。現にさっきまでもマキナ族のみんなに対して何の躊躇もなくぶっ放してたし、何ならしっかりと体のあちこち斬撃跡を残していってたし。

 ちなみに、マキナ族の持つもろもろの特性を聞いたロヴは「そういうことか」って呆れながらもあっさり納得してくれた。さすが、自分が化け物クラスだと似たような相手を受け入れてくれるのも早いや。

 だからロヴも魔導銃程度の魔力攻撃じゃこちとらびくともしないってことはわかってるはず。当然ボクの方にもダメージは皆無だけど――視界は一瞬、確かに塞がれた。常時『探査』を起動してるとはいえ、マキナ族も普段は普通に視覚に頼って生活してるわけで、不意打ちで目くらましされたら意識を切り替えるのにどうしたってラグが出る。

 本来はしっかり『探査』で動きに注意を払ってるからまず不意打ちは通じないはずなのに、本当にいつの間にかスルリと滑り込ませてくるのがロヴの怖いところだ。現にシグレ達もこの手管で敗北ないしは不利な体勢に追い込まれてた。

 まあそれでもどこかで来るとあらかじめわかってれば対策も打てるわけで、銃口が光った瞬間にはこっそり待機させていた『電撃』の魔動式(マギス)を起動させ、視界を防がれたのとほぼ同時に全身から放電した。保険用だから範囲は狭いし威力も大したことないけど、それでも至近にいる相手をちょっと痺れさせるには十分。

 視界が戻る間にすぐ近くで軽い舌打ちが聞こえたから見事に目論見をつぶせたことを確信しつつ、そのまま全身を駆使しての白兵戦を続行だ。ふっふっふ、ちょっとでも距離があればともかく、こうも近くで絶え間なく斬り合ってればさっきみたいなトリックはそうそう仕込めまい。あとはこのまま無尽蔵のスタミナに任せてロヴが疲れ果てるまで押し切ってやる!

 ――そう盤石の攻略法に勝利を確信した瞬間だった。

 何度目かもうわからない攻撃を防がれて、無理なく引き戻そうとしたスノウティアが不意に強烈な衝撃を受けて弾かれた。意味不明すぎる突然の出来事に目を見開きながら、とっさに衝撃が飛んできた方に目を向ければ、ロヴの持つ長剣(ロングソード)の柄本に銃口らしき小さな穴が。

 はぁ!? なにそれ!?

 頭を埋め尽くす驚愕を意識する暇もあればこそ、ギリギリ取り落としはしなかったものの、予想外すぎる力をいなしきれず大きく腕が開いた。すかさず差し込まれた銃口はサンラストの内側に潜り込んだかと思う間もなく発砲。とっさに捻って避けようとしたけれど、首からぶら下がってるだけの的はその動きについてこれず、魔力弾はその端っこを、だけど確かに撃ち抜いていた。


「ああああぁぁっ!?」


 思わず上げた悲鳴に、すぐそこにあるロヴの顔がしてやったりとばかりにニヤリとゆがむ。くそぅ、めちゃくちゃ腹立つ!

 いっそこのまま殴ってやろうかとも思ったけど、ロヴが勝利条件を満たした時点で戦闘は終了だ。いくらムカついても約束を破るなんてマキナ族には許されないから、しぶしぶ構えを解いて力を抜いた。うう、今度こそロヴに勝てると思ったのにぃ……。


「ハァッ、ハアァッ……あークソッ、隠し玉まで晒さにゃならねぇとは……お前やり合うたびに厄介さ増してんじゃねぇよ、ったく……」

「しっかり勝ったくせに……嫌味? しかもボクが最速終了かもしれないし」


 荒い息を懸命に整えながらもそうのたまってくれたロヴに、ついつい恨めしげな眼を向けてしまう。正確に測ったわけじゃないけど、体感でも三十分経ってないことはわかる。下手したら試練の人員で一番戦闘時間が短かったかもしれないのだ。これでも一応マキナ族の長で、一番戦闘経験が蓄積できてたからこそ最後の関門って感じで出て行ったのに、結果はこのざまだ。周りはバルトの子たちが見学してるっていうのに、穴があったら入りたい気分を今ものすごく実感している。


「バッカヤロウ、お前相手するのにこれ以上時間かけてられっか。さすがにオレの身がもたねぇわ」


 けど、そうしたらロヴがこれでもかって具合に苦い顔を浮かべて心底嫌そうに言った。さすがにプラチナで化け物な戦闘民族も、マキナ族との五連戦はきつかったらしい。そして発言から察するに、疲労の溜まった状態で最大戦力のボクと長期戦なんかしたくなかったから、今まで欠片も匂わせなかった隠し玉まで使って速攻で決着をつけにきたようで……うん、まあ、そこまで評価してくれてるなら素直に褒められてあげてもいいんだよ? ふふん。

 蛇足だけど、視界の端じゃようやく身体を起こせるくらいには回復したらしいリクスとケレンが、その気持ちはわかると言わんばかりに何度も頷いてた。うん、そっちは調子に乗ってホントにゴメン。

 それにまあこの試練、実はバランス調整とか全然考えてないぶっつけ本番で、今回初の挑戦者ってことでテストプレイも兼ねてたんだよね。一人目の子がわりとあっさりやられちゃった時は簡単すぎたかなーって思ったんだけど、そこはさすがマキナ族、二人目は前の子の戦闘を参考にしたようで、かなり善戦してくれたんだ。

 それで三十分くらい余裕があったから、その間に次の子をボクとシグレ、ついでにリクスたちも交えて促成の戦闘訓練をやってみた。おかげで大健闘してくれて所要時間が一時間半くらいに。そして後の時間は四人目としてレイベアにいる時からちょくちょく模擬戦してたシグレが頑張ってくれたわけである。

 ……それにしても、ロヴだってよくもあんなに粘れるもんだね。挑戦者の方の敗北条件は特に設定してなかったせいもあるんだろうけど、シグレたちだって行動不能にする気満々で積極的に打ちかかって行ってたっていうのに、しのぎきった上に勝利条件かっさらっていくんだもん。やっぱりプラチナランクは化け物だ。

 そして今後戦闘技術を学んだマキナ族の戦力はどんどん上昇していくことが予想されるから、この形式も見直しが必要だね。かと言って本来の目的として相応の苦労をしてもらわなきゃだし、勝ち抜きを三戦ぐらいにしておいて、もうちょっとインターバルをとってあげるのがいいかな?


「――っはぁ……何にせよ、だ。お前の出した試練とやらは突破してやったぞ。これで魔導銃を都合してくれんだよな?」

「きちんと試練を正面突破してくれたんだから、文句のつけようもないね」

「おっし、久しぶりに死ぬ気でやった甲斐があったってもんだ! 男に二言はねぇぞ?」

「はいはいわかってるよ。マキナ族は嘘つかない。今日の内に手配しとくから調整とか含めて諸々明日になるけどね」


 期待させたところに試練を突き付けたからか、やけにしつこく念押ししてくるロヴ。さすがにこれ以上焦らすほど鬼畜じゃないから言質をあげると、凶悪面に喜色満面で子供みたいに喜びだした。うん、強面が大歓喜とか誰得の絵面だろう。



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