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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
五章 機神と故郷
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宿泊

 更新遅れました。引っ越しでバタバタしてたせいですので、次からは大丈夫……なはず。

「――この辺が居住区……まあ、普段みんなが寝起きする場所だね」


 昼食を終えたあと、魔動車に乗せたままだった荷物を取りに戻ってそのままエレベーターで居住区画までやってきた。色々と案内するにあたってまずは寝泊まりするところをってわけだ。そうしておけば時間が余った時とかに部屋でのんびりしてもらえるしね。

 ちなみに、お昼はお好み焼きだった。大いに張り切ったタチバナ指導の元、お屋敷の奉公で手に入れた料理スキルを惜しみなく投入したらしい一品は、半年前と比べれば一段とおいしくなっていた。どうやらタネを目の前で焼き上げるって調理方法が珍しかったらしくて最初はお客様勢が戸惑ってたけど、一口食べたあとは普通に好評だったね。

 そこはよかったんだけど……料理人側が五人がかりだったもんだから量がすごいことになってたんだよね。ガイウスおじさんやジュナスさんは当然のこと、職業柄よく食べるリクスたちですら音を上げるレベルで、なんだかんだでお気に召したらしく誰よりもかっ食らっていたロヴですら最終的にはギブアップしたほどだ。ボク? マキナ族の特性上、誰よりも容量が小さいんだから真っ先に諦めたよ。

 まあ、余った分は外で学んだ成果の一つとしてあとで他のみんなにも振る舞うことにするって話だから、数日なら保存もしとけるし、なんだかんだで消費はしきれるでしょ。

 とりあえず、エレベーター前のホールでそこから四方八方に伸びる通路を指し示しながら主賓に尋ねることにする。


「今はまだ空きの方が多いから、ある程度なら要望にも応えられるよ。部屋割りどうする、ガイウスおじさん?」

「ならば私とジュナスには続き部屋、ないしは隣接する部屋を。護衛の方は各自の望むように」

「あれ、いいの? 護衛も近くの部屋にしないで」

「お前のような者が数十人といる地で何に備える必要があるというのだ?」

「まあ、それもそうだね」


 もしもカラクリを攻め落とそうと思ったら軍隊の一つや二つじゃ全然足りないし、そもそも秘密基地だから知らないとまず見つからないし、唯一マキナ族自身が攻撃する可能性もあり得ないしね。


「わかった。部屋は大きい方がいい? なんだったらイルナばーちゃんが使ってた部屋が――」

「その部屋以外で頼む、切に」


 ふと思いついた提案に対しては即答――というか途中で遮ってまでの返事があった。表情もおじさんにしては珍しく心底嫌そうで、イルナばーちゃんの部屋に対して何かよっぽど思うところがあるらしい。いやまあ、確かに一番広い部屋を埋め尽くす勢いで工具だの魔導器(クラフト)だのが広がってるから間違っちゃいないけどさ。イルナばーちゃんが旅立ってから掃除はしても片付けはしないように言ってあるし、たぶんそのままだろうからぶっちゃけお客様を泊めるような部屋でもないか。


「ガイウスおじさんはこう言ってるけど他のみんなはどうする?」

「その前に聞いとくが、お前の部屋もここにあんのか?」


 とりあえずそれぞれ希望を聞いてみようと声をかければ、なぜかそんなことを確認してくるロヴ。


「そうだけど?」

「そんじゃ、その近くで頼まぁ」


 そして肯定するなりなんの躊躇いもなくそう言ってきた。なにゆえ? ハッ、まさか――


「まさか、ボクのこと襲うつもり?」

「おい、そのかってぇ頭かち割るぞ、あぁ?」


 ついいつものように茶化したところ、途端に青筋を浮かべて、口の端を痙攣させながら笑みを浮かべるロヴ。あ、ヤバイ、これたぶんガチの怒り方だ。昨日のロリコン疑惑蔓延中って話がよっぽど腹に据えかねてるらしい。


「まあ冗談はおいといて、べつにいいけどわざわざ指定する理由を聞いてもいい?」

「ったく……簡単な話だよ。お前族長かなんかなんだろ? ならその住処の近くの方が上等だと思っただけだよ」


 なるほど、確かにお城とかお屋敷とかでも偉い人の部屋とかはわりとまとまってることが多いよね。かくいうカラクリも区画ごとにある程度部屋の広さを決めてるし、ボクの部屋がある辺りは広めのレイアウトになってるから、あながち間違っちゃいないか。


「そういうことなら了解だよ。せっかくだし、リクスたちもそっちの方にする?」

「ああ、ウルに任せるよ」

「異議なーし」


 こっちは特に希望とかはないらしく、すんなりと決まるパーティの男組。まあこの二人に関してはわりと『ゆっくり休めればなんでもいい』ってところがあるから予想はしてた。あとはシェリアだけど――あ、そうだ。


「じゃあもう宿の部屋割りと同じでいいかな? あ、シェリアはボクの部屋に泊まる? ちょっと散らかってると思うけど、もう一人泊まるくらいならすぐに用意できるし」


 そんな風に提案してみれば、シェリアは珍しく虚を突かれたかのような顔で目を瞬かせた。


「……いいのかしら?」

「友達でしょ? 全然いいよ!」

「……じゃあ、お願いするわ」


 よし、合法的に二人っきりになれる条件を達成! まあボクの部屋に泊まらなくてもシェリアなら個室希望だろうし、寝る前にでも訪ねれば状況的には変わらないだろうけど、ボクの部屋なら防音とか色々手を加えてあるからより気兼ねなく話せるしね。

 そして何より友達を自分の部屋に泊められる! こっそり憧れてたシチュエーションが実現できそうでテンションが否応なく上がっていく!


「それじゃ、こっちだよ!」


 弾む足取りを抑えつつ少し奥まった区画へとご案内。それぞれの要望に近い部屋を紹介した後、シェリアを伴って久しぶりの自室に帰還だ。


「――で、ここがボクの部屋!」


 肩越しにシェリアを振り返りながら、『ウル』ってネームプレートが付いている扉の脇に付いているパネルに手を置いて魔力を流す。そうすれば連動する魔導器(クラフト)によってスーッと扉がスライドして開いた。秘密基地なら自動ドアだよねってことで頑張って組み上げた自慢の半自動扉だ。カラクリの部屋の扉はだいたいこの方式を採用してて、ちゃんとロックもできるところがポイント。

 で、目にはいるのは懐かしのマイルーム。一人で使うには十分以上の空間に備え付けのベッドや収納、机と椅子のセットは他の部屋とほとんど変わらない。まあ、置けるところにごちゃごちゃと並べた魔導器(クラフト)が特徴といえば特徴かな?

 ちなみにここにあるの全部、ボクが趣味で作ったヤツだったりする。色々と試行錯誤したり、実用性度外視でとりあえず作ってみたって感じの作品で、正式に研究したヤツとかイルナばーちゃんと一緒に作ったヤツはちゃんと分けて倉庫に保管してあるよ。


「さ、入って入って! 荷物はとりあえずベッドの上にでも置いといてくれたらいいから。あ、その辺のものは蹴飛ばしちゃっても大丈夫だから安心してね!」

「……すごい部屋ね」


 ウキウキ気分で招き入れれば、部屋の中をぐるりと見回したシェリア。その目がどこか呆れたような雰囲気をかもし出してる。これはもしや、ボクを片付けのできないダメな子って思ってたり? チッチッチ、それは甘いよ?

 一見散らかってるように見えるけど、ベッドとか棚とかはちゃんと見えてて使えるようにしてあるし、動線も作業スペースもしっかりと確保してるし、実のところ床置きってだけで物自体はきっちり並べてどこに何があるかわかりやすくしてあるのだ! まあもう一つベッドを置いたりするのはちょっと厳しいかもだけど、当時は友達を泊めることを想定してなかったからシカタナイヨネ。


「ここにいる間は自分の部屋だと思って好きに使ってくれていいからね。場所が足りなそうだったら整理するから遠慮しないで」

「……わかったわ」


 とりあえず、言った通りに担いでいた自分の荷物をベッドに置くシェリア。うん、もう一個運び入れるのは面倒だし、ベッドはそのままシェリアに使ってもらおうっと。

 自分の荷物を適当なスペースに収めながらさらなる空間確保のための段取りを組み立てていると、シェリアが入った時点で閉じていた扉が外からノックされた。


「――ウル、入っていいかな?」


 続いて聞こえてきた声はリクスのもの。どうやら荷物を置いてすぐにこっちに来たみたいだ。一応シェリアの方も確認してみるけど、ベッドに腰掛けて座り心地を確かめてるだから問題ないだろう。


「いいよー。開け方は同じ要領だから」


 さすがに個人の魔力を認証する魔導式(マギス)は扉に組み込むには規模が大きくなりすぎたから断念して、ロックはぶっちゃけかんぬきをかける感じの物理的なヤツだ。しかも今まで身内しかいなかったから、今日に至るまで一度も使ったことがないという事実があったり。

 それはさておき、許可を出してから一拍を置いて扉がスライドし、お馴染みの二人が姿を現した。


「お邪魔す――うわぁ……」

「うっわ、向こうもすごかったがこっちも別方向にすごいな」


 そして扉をくぐったところで一瞬硬直し、キョロキョロと中を見回しながらのご入室。まあ、散らかってるように見えることは知ってるからもういいけど……。


「向こうも? そっちの部屋、なんかすごいところあったっけ?」


 ちょっと広めなだけでカラクリじゃ一般的な部屋をあてがった記憶しかないから首を傾げると、リクスはなんとも言いがたい顔になり、ケレンはやれやれとでも言いたげに首を振ってみせる。


「いやいや、扉はまあおいとくとしても、基本石造りっぽいところに魔物の毛皮の敷物だの布団だの頭の剥製だのとか組み合わせが野性的なのに、よく見たら細かいレリーフが彫ってあったり貴金属使って飾り付けてあったり、そのくせ当然のように日用魔導器(クラフト)が並んでたりって、様式むちゃくちゃじゃねーか。混沌としすぎだろ」


 あー、なるほど。確かに部屋の家具とか飾りとかは『使えればいいか』って手に入りやすい素材でわりと適当にした覚えがあるや。特に装飾とかアルテの役名持ちの子が練習がてらかなり節操成しにやってくれてたから、むちゃくちゃっていうのはあながち間違ってないね。魔導器(クラフト)に関してはむしろイルナばーちゃんが嬉々として色々量産して置いてたなぁ。


「まあ、その辺はマキナ族様式って事で気にしないでくれたら。文化に関してはまだ発展途上なところがあるから、その内落ち着くと思うよ」

「いやまあ、それはいいんだが――」

「おう、ウル! 早速だが魔導銃の口利き頼むぜ!」


 途中、閉じたばかりの扉がまた急に開いたかと思うと、ズカズカと遠慮の欠片もなく入ってくるプラチナランク様。入り口に立ちつくしていたリクスとケレンの間を割って、ついでに自分の要求を前面に押し出すという唯我独尊ぶりが実にしっくりくるような凶悪笑顔全開だ。


「ちょっとロヴ、人の部屋に入るなら一言断りを入れるのが礼儀でしょ」

「かてぇこと言うなよ! そんで職人はどこにいるんだ? お前ここの頭なんだろ? ちゃちゃっと一言かけりゃあどうにでもなんだろ?」


 ……なんか、浮かれてるのか話聞く気が全然感じられないんだけど、これ。いろんな意味でご機嫌状態じゃん。そんなに欲しかったのか、マキナ族謹製魔導銃(ラフシリーズ)

 うん、なんかウザくてキモイから予定繰り上げるか。


「あーはいはい。じゃあちょっと準備とかあるから移動するよ」

「そうこなくっちゃな! さあさっさと行くぞ!」


 そう言ったら即座に回れ右して部屋を出て行くロヴ。よし、ちょっと反省を促す意味合いも込めて厳しめのコースでいくとしよう。

 そう心に決めて部屋の整理を保留にし、ロヴの異様なハイテンションに引き気味の仲間たちに声をかけた。


「あ、みんなも来る? そのまま訓練もできると思うけど」

「行くわ」

「え? あ、じゃあおれも行くよ」

「なんで魔導銃の製作依頼から訓練に繋がるんだよ……いやまあ行くけどよ」


 そんなこんなでみんなと一緒に部屋を出たところ、ちょうど向こうからガイウスおじさんとジュナスさんがやってくるのに出くわした。今回は使用人枠のシグレ、ヒエイ、タチバナも一緒だ。ちなみにコハクはお昼ご飯が終わった段階で通常シフトに戻ってる。


「む、どこかに行くのか、ウル?」

「あーうん、ちょっとロヴがうるさいからそっちを先に終わらそうかと」

「そうか。こちらとしても早速あの婆さまの遺産を見聞できればと思っていたのだがな」


 なるほど。確かにガイウスおじさんの目的はそれなんだし、量が量だから早い内から始めたくもなるよね。


「それならヒエイたちも置き場所は知ってるから、案内してもらうといいよ。ヒエイ、エクスの名において深奥製造区画の解放許可を出すよ。案内よろしくね。人手がいるようなら招集していいから」

「仰せのままに、王」


 とりあえず三人の中では一番しっかり者のヒエイに深奥製造区画――まあ、単にイルナばーちゃんが占拠してた辺りのことなんだけど、普段は必要以上に立ち入らないように言いつけてる場所へ入る許可を出しておく。

 ……あ、でもそのまま三人を連れて行くのはちょっとまずいかな? タチバナには夕食の準備も任せたいし、シグレはこっちに付き合って欲しいし。


「ガイウスおじさん、ちょっと人員入れ替えてもいいかな?」

「唐突だな。理由は?」

「せっかく帰ってきたんだし、研修の成果を里に広めてもらいたいなって思って。ダメかな?」

「……まあ、構わぬであろう」

「ありがと、おじさん」


 無事に許可も下りたところで三人に向かって指示を出す。


「じゃあヒエイはそのままボクの代行って事で、ガイウスおじさんを案内してね。いっぱいあるから時間はかかると思うけど、頼んだよ」

「はっ! 王のご期待に添って見せます!」

「タチバナはコハクを呼んできてもらえるかな? できればもう一人連れてきてヒエイに合流するように伝えて欲しいんだ。それが終わったらワルクのみんなに習ったことを教えながら晩ご飯の準備。お願いできる?」

「わかった、始祖様」

「シグレはバルトの子たちを招集してくれるかな? 場所は第一訓練所で。試練ついでに戦闘技術っていう物を見せたいんだ。もちろん、シグレにも参加してもらうからね」

「はーい、ウル様! すぐに行ってきます!」


 そうしてすぐさま行動に移る三人。よし、こっちはこれで――おっとそうだった、忘れてた。

 振り返ってパーティ仲間プラスロヴを確認。うん、訓練するって言ったからかシェリアはちゃんと武器を持ってきてるけど、リクスとケレンは丸腰だ。目的地に着いたからって武装を置いてくるのは臨険士(フェイサー)としてどうなのかなー。ロヴは普通に剣も魔導銃も装備中なのに。


「二人とも、訓練するなら武器がいるでしょ? 自分の得物持って来て」

「あ、そうか。ちょっと待ってててくれ、すぐに取ってくる!」

「おいおい訓練だろ? 実戦用の得物なんているのか?」

「あいにく安全な武器なんていらなかったから置いてないんだよね。まあ、相手はボクたちマキナ族になるし、遠慮はいらないよ?」

「うーわ、そいつは是非とも遠慮したいぜ」


 すぐさま自分の部屋へと駆けていくリクスの後を、なんだかんだ言いながらも追いかけるように続くケレン。部屋割り的にはすぐそこだし、武器を取ってくるくらいならそんなにかからないでしょ。


「おいウル、早いとこ行こうぜ?」


 そんな風に待ちきれないって気持ちがだだ漏れの声で催促してくるロヴ。さすがに行き先もわからず独走することはなかったみたいだけど、その様子はごちそうを目の前にお預けを食らってるみたいだ。いい歳して子供か。


「二人が戻ってきたらすぐに行くよ。まあ、今の内に覚悟だけはしといてね」

「おう、なんだか知らんが任せておけって!」


 そしてボクの言葉に対して風に胸を叩いて請け負うロヴ。ロクに考えもせず即答する辺り、欲に目がくらんでるようにしか見えないけど……言質は取ったからね?


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