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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
五章 機神と故郷
115/197

合流

 投げるの忘れてました!m(><)m

「――お、すげぇ、三輪型だ! アーミル系か? かっけぇな!」


 しばらくしっかり整備された街道を走っていると、客席から妙にテンションの上がったケレンの声が聞こえてきた。口走ってることから察するに、どうやら三輪タイプの魔動車が走っているのを見つけたらしい。ざっと見える範囲にそれらしいのはないから、後ろかな?


「わ、本当だ。街で見かけるのよりもずっと大きいな」

「不整地用だからだろ。街中じゃ小回り優先だけど、山とか荒れ地とかだと図体はでかい方が断然安定するからな。いいねぇ、俺もいつかああいうので風を切るっていうのを体感してみたいぜ」

「うん、そうだな。おれ達もいつかきっと……」


 男の子勢のはしゃぎっぷりが伝わってくる会話からして、どうやらロマン溢れる形状らしい。何それとっても見てみたいんだけど!

 チラリと片側にしかないサイドミラーを確認してみたけど、どうやら死角になってるみたいで全然見あたらない。うーん、なんとか見えないもんかなぁ……。

 そんなわけで走行の支障にならない程度に軽く蛇行してみた結果、ほんの一瞬だけサイドミラーにその姿を捉えることに成功した。形は前の世界の記憶にあるトライクっていう三輪バイクが一番近いかな? ただしケレンとリクスの言葉にあったように、小型の魔動車くらいのサイズでタイヤも太くてゴツい。車体も要所にしか外装を付けてないからメカメカしい部分が剥き出しで、実にワイルドだ。まさに荒野を行くためのバイクって感じで、こう……グッと来るものがあるね! 二人が騒ぐのも解せる!

 ……ただまあ、あれってボクの見間違いかな?


「――あれ? なあケレン、あの三輪を運転してるのってさ……」

「ん、運転手がどうし……おいマジか、嘘だろ? なんであの人がこんな所に?」


 不意に幼馴染みのやりとりに困惑と驚愕を足して二で割ったような声が混ざった。どうやら二人ともボクと同じことに気づいたらしい。うん、ということはボクの見間違いじゃなかったのか。

 そしてどうやら向こうの方が速いようで、さして時間を置かずに併走しだしたトライクのライダーが魔動車の運転席に座るボクに気付き、こっちを見て凶悪な笑顔を浮かべた。


「いよぅ、ウル! こんな所で奇遇だな!」


 乗り物に合わせてるのかやたらゴツいゴーグルで顔の半分が覆われてるけど、見間違いようのないごわ髭傷だらけの顔(スカーフェイス)。ボクがプラチナランク臨険士(フェイサー)サマの実に白々しいセリフに思わず半眼を向けてしまったところで誰にも責められないだろう。


「……なんでこんな所でそんなのに乗ってるのさ、ロヴ?」


 なぜか嫌な予感がして聞き返してみれば、ロヴは泣く子も黙る笑顔を泣く子でなくても夢に見そうな笑顔に変えた。


「いやなに、ここんところ貯まった金を持て余し気味でよ。どうしたもんかって考えてたら、ふと装備の新調でもって思ってな!」

「へーそっかー。それならこんなへんぴな所じゃなくてレイベアの方がいいお店あるんじゃないの?」

「いやそれがよ、オレの知ってるヤツにとんでもねぇ魔導銃持ってるヤツがいてな。聞いた話じゃ『カラクリ』とかいう所で手に入れたらしいんだが、どうもそれがこの近くらしくてな!」


 嫌な予感、的中だった。そして今わかった、絶対確信犯だこれ。


「……ヘーソウナンダー」

「おう! オレも聞いたことのない所だからまずは探すところから始めねぇとな――そういえばウル、お前の故郷って確か『カラクリ』だって言ってたよな?」

「ソウダネー」

「そんでもってこの前、『故郷に帰るついでに依頼を受けた』っつってたよな」

「ソウダネー」

「ならお前、今まさに『カラクリ』に向かってるってことだよな?」

「……ねぇ、まだこの茶番続けるの?」


 嫌味か何かみたいにネチネチと絡まれとうとう絶えきれずにそう斬り返したところ、ロヴはまるで心外だとでも言わんばかりに目を見張って見せやがった。


「おいおい何言ってんだ、ウル? オレは装備を新調するために名工のいる場所を探して、出先でたまたま(・・・・)そこが故郷だって言ったことのある後輩と偶然(・・)会っただけ――」

「ばちぃ」


 その言い分があんまりにもわざとらしすぎてイラッときたから、こっそり起動させた『電撃』の魔導式(マギス)を指鉄砲から発射。ターゲットにした魔導トライクが一瞬ダウンして変な挙動になり、危うくスピンしかけたところで泡を食ったロヴのハンドル捌きで持ち直す。


「――っぶねぇな! おいウル、てめぇなにしやがるんだ!?」

「ちっ、そのまま横転してればよかったのに……」

「サラッと恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ! オレの愛車に何かあったらタダじゃおかねぇからな!?」


 ほほう、愛車と申したか。ならもうちょっと威力上げてやればよかった。そしたらおシャカとまでは行かなくてもおもしろそうなロヴが見れたかも。

 ……ん? 愛車?


「……へぇ、さすがはプラチナランクの臨険士(フェイサー)様だね。そんなかっこいい魔動車なんか持てて羨ましいよ」

「お、なんだ、お前こいつの良さがわかるのか?」


 ひょっとしなくてもと思ってマシンをちょっと誉めてみれば案の定、コロッと態度を変えるロヴ。


「ざっと見た感じだけど、ボクの知ってる規格に合わない部品が結構あるよね。その辺は特注したの?」

「おうよ! 車輪はもちろん緩衝機構も最先端のヤツで、最近流行の変速機構はなんと八段式だ! 荒れ地だろうがなんだろうがものともせずに走破できるパワーとタフさを持ちながら、操縦桿は細かな動きに応えられる繊細さ! まさにオレの相棒にふさわしい最高の魔動車だぜ!」


 さらに水を向けてみれば嬉々として語り出すところ、相当入れ込んでるご様子。ご機嫌な様子で実に結構。さてと仕上げは――


「すごいね。速度も相当出るんでしょ? ここに来るまでどれくらいかかったの?」

「さすがに王都からだと遠いが、なぁに丸一昼夜飛ばせば――」


 そこまで言ってからやっと気づいたらしく慌てて口をつぐんだようだけど、残念ながらもうすでに後の祭だ。


「へぇ、休暇ならのんびり走らせればいいのに、わざわざ徹夜までして来たんだ」


 そう言いながらニッコリ笑ってみせれば、ロヴは高速で顔を背けた。けれど動揺を隠しきれずに視線はあらぬ方をさまよい、トライクの進路が不安定に揺れている。

 これはたぶんだけど、レイベアの駅でシェリアが気付いた謎の視線もロヴで間違いないと思う。ロヴがのぞき込んだ依頼の概要にはどっち方面に行くかくらいしか書いてなかったから、確定でボクたちが訪れる場所を把握するために隠れて様子を見てたんじゃないかな? 魔導列車なら出発時間で北回りか南回りかはわかるし、あとは切符の数でも確認すればどこまで行くかはすぐに導き出せる。


「で、そこまで必死になって追いかけてきたのに、わざとらしい茶番を押し通そうとしたのはなんでかな?」

「……そいつは、まあ……」

「なーんでーかなー?」


 どうにかはぐらかそうって雰囲気が満々なロヴを問い詰めてみれば、ようやく観念したのか渋々といった様子で口を開く。


「……そりゃ、あれだ。オレみたいな強面がお前みたいな綺麗どころを追っかけてきたとか思われたら……ほら、あれだからな」

「え、それ今更?」


 そして思わず漏れた一言を聞いた瞬間、ロヴがまなじりをつり上げた。


「おい、そりゃどういう意味だ!?」

「いや、どういう意味って言われてもそのまんまとしか言いようがないんだけど」


 これでも一応は新米臨険士(フェイサー)だ。同業の先輩達とだってそれなりに話すことはあるけど、会うたびに絡んでくるような相手となると、同じパーティのリクスたちを除けばロヴしかいない。そのせいか、すでに『あのロヴ・ヴェスパーは、実は少女趣味』なんて噂がまことしやかに流れていたりする。ちょくちょく顔をさらしたりもしてたから、ボクが美少女顔なのはレイベアの臨険士(フェイサー)組合(ギルド)じゃ普通に知れ渡ってるみたいだしね。

 ちなみに、この噂を仕入れてきたのは『暁の誓い』の情報担当ことケレンだったりする。からかい気味に教えられたのが食事中で、もし生身だったら喉に詰まった食べ物で大変なことになるところだったよ。その後は妙に殺気立つシェリアを宥めるのに必死で食事どころじゃなくなったんだよね。

 ……まあ噂なんて『知らぬは本人ばかりなり』っていうのが相場だって決まってるけど。実際ボクもその時まで知らなかったわけだし。


「……おい、どこのどいつがそんなデマ流しやがったんだ?」


 だから親切心でそのことを教えてあげたら、額にくっきり青筋を立ててお怒りのロヴ。まあ自分が知らない間にロリコン扱いされてたら激オコ待ったなしだよね、普通なら。


「さあね。ボクもケレンから聞いただけだし、ケレンだって誰かからの又聞きだと思うよ」

「よーし決めた。レイベアに戻ったら掃除だ、徹底的にな」


 据わった目つきでそんなことを宣言するロヴ。うん、それ絶対一般的に言う『掃除』じゃないよね? とばっちりを食うのもイヤだし、レイベアに戻ってもしばらくは組合(ギルド)に顔出すのはやめておこうっと。


「そんなわけだから今更取り繕ったって意味ないだろうし、ボクとしても素直にお願いされた方がよっぽど便宜を図ろうって気になるんだけどなー?」

「……ったく、そうかよ。ならウル、お前が使ってる魔導銃、あれと同系統のが欲しいんだが、都合してくれるよう頼めねぇか?」

「いいよー」


 どうにも苦い顔ながら改まってちゃんと頼んできたからきちんと返事をすれば、なぜかトライクの上で力が抜けたようにガックリと姿勢を崩すロヴ。


「軽ぃなおい! それでいいのかよ!?」

「こう見えてロヴのこと結構気に入ってるんだよね、ボク。まあ今はガイウスおじさんにも許可をもらわなきゃダメなんだけど、おじさんならプラチナランクの臨険士(フェイサー)が相手ってことで大丈夫でしょ。ボクからも口添えはするからさ」


 実際、目の前でわりととんでもないことばかりやらかしてるボクに対して、初めて会った時から変わらない態度で接してくれてるのがロヴだ。例え戦闘民族で山賊顔で、おっさんって呼んだらすぐ怒って少女趣味疑惑があろうと、ボクにとって『親しい人』枠に入っていることには変わりないんだから。

 だから、多少(・・)の融通くらいは利かせてあげるよ?

 そんなボクの思いを察したのか、ロヴは実に珍妙な顔でボクを見てくる。まあ普段は邪険に扱ってくる相手がいきなりそんなこと言ってきたらそんな顔するよね。解せる。

 ……ああそうか、あくまで偶然を装おうとしたのはそのせいもあるわけか。嫌われてると思ってる相手に何か頼んだところで、いい返事がもらえる確率を考えれば多少強引に行くしかないって思ってもしかたないかな? 以降さらに嫌われる可能性を考えてたのか、ちょっと聞いてみたい気もするね。


「……まぁ、お前がいいっつうんなら遠慮なく世話になるからな、オレは」

「まあお代は払ってもらうけどね」

「んなとこだろうと思ったわ!」


 サラッと付け加えてあげると即座に返ってくる怒号に、意地の悪い笑みを浮かべてやる。とってもいい反応ありがとうございます。


「――それにしても、お前はどう思ってんだよ」

「ん? 何が?」


 急な話題転換について行けなくて聞き返したら、苛立たしげに舌打ちされた。解せぬ。


「噂じゃオレがお前を狙ってるってことになってんだろ? 貞操の危機とか感じねぇのか?」

「いやいや、ロヴの普段の態度のどこから色気を感じろって?」


 まっとうな子供や女の人なら近づいてきた途端に逃げ出す悪人面で、なんの遠慮会釈もなく豪快な絡み方をしてくるような相手にときめく要素があるなら是非とも教えてもらいたいところだ。荒々しくも漢らしいっていうのに耐性がないご令嬢とかならワンチャンあるかもしれないけど。


「そもそもボク、性別女じゃないし」

「はぁ!? その見てくれでか!? うっそだろお前!」


 ついでに事実を暴露してみればこの反応。やっぱりというか、ロヴもボクのことを女の子と見ていたらしい。それにしては絡み方が体育会系だったと思うけど。


「ロヴこそどうなの? 色々言ってるけど、ホントはボクに欲情とかしちゃってる変態なわけ?」


 そっちの話を聞かれたついでに正真正銘の少女趣味かと疑惑を向けてみれば、いかにも心外と言いたげに盛大なしかめっ面を披露するロヴ。


「だーれがお前みたいなちんちくりんに惚れるかってんだ。こちとらすこぶる付きの美女が向こうから言い寄ってくる立場だぞ? 女じゃないってわかったんならなおさらだわ」

「へぇ、さすがはプラチナランク様だね。そんな顔でも女の人に大人気だなんて」

「抜かしてくれるじゃねぇか、見かけ詐欺の化け物さんよ。お前の外見に騙される連中が今から気の毒になってくるぜ」

「あ、人のこと化け物なんてひっどーい」

「お前以上に化け物って言葉が合う奴もそうそういねぇだろう。その細っこい身体にどんだけ隠し球詰め込んだら気が済むんだ、ああ?」

「ボクはただのマキナ族ですぅ。そしてそんなボクと対等以上に戦えるロヴの方がよっぽど化け物ですぅ」

「ハッ、オレごときで化け物なんて百年早ぇわ。ゴドファの野郎やバルの爺に言わせたら、オレなんざやんちゃな若造らしいぜ?」

「怖っ、プラチナランク思った以上に怖っ!」


 そんな風にロヴの好みだのプラチナランクの底知れなさだのを話題にしつつ、ボクたちは目的地を目指してのんびりと魔動車を走らせていった。



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