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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
四章 機神と大会
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機神

 前回の初日の総アクセス数が2,000を超えてて、思わず頬をつねりました。

 そうして前を見据えれば、悪魔の『核撃』はいよいよ臨界一歩手前のようだ。圧縮されまくった赤黒い球体の魔力量はおおよそボクが撃った『核撃』の倍。シグレたちが張った『障壁』だけじゃ心許ないけど、そこに正真正銘全力全開のボクが加われば――!

 今にも『核撃』を解放しそうな悪魔めがけてデウスの巨体を走らせた! 同時に意識は背中のマントへ。未だにどういう理屈なのかわからないんだけど、軟性緋白金(ヒヒイロカネ)の特性――マキナ族ならそこに魔導回路(サーキット)を描けるというのは変わらない。


「させないからね!」


 実質巨大化したためほんの数歩で『障壁』の前まで辿り着くと、魔力の壁に添えるように両腕を突き出して魔導式(マギス)を発動! いつもの体表面なんて比じゃない広大な描画面積一杯に可能な限りの強化を重ねた『障壁』を、シグレたちが維持してくれている分の上からさらに分厚いものを覆うように展開した。


 ――ゴロズゥッ!!


 直後に解放される悪魔の『核撃』。内側の空間を今度は赤黒い光が埋め尽くして押さえ込む『障壁』を食い破ろうと暴れ回る。一見したら悪魔の自爆にも見えるけど、同質の魔力同士だと相殺は起こらない。生身があるなら話は違ったろうけど、悪魔の実体は高密度の魔力だからほとんどなんの影響もないだろう。

 そしてボクの『核撃』は危なげなく押さえ込めていたシグレたちの『障壁』も、単純計算で倍の威力に見舞われて供給が追いつかないらしく、徐々に削られて薄くなっていっている。うん、やっぱり『奥の手』発動してから加勢して良かった。


「シグレ、ヒエイ、タチバナ! 限界が来たらそっちの分を放棄してボクと同調お願い!」

「はい!」「承知しました」「わかった」


 ボクの指示にそれぞれ承諾を返す三人。やがてとうとう相殺しきれなくなった赤黒い魔力によって内側の『障壁』が破られたところで術式を放棄して、一斉にボクの元へと駆け寄ってくる。


「ウル様、お願いします!」

「後をお任せいたします、王よ」

「始祖様頑張って」


 ボクの分だけになった『障壁』で悪魔の『核撃』と拮抗させている間に足下に集まったシグレたちは、それぞれ一言を添えながら全身に魔導回路(サーキット)を浮かべてデウスの足に手を添える。そうすればそこを接点として、三人の魔力がどんどんボクへと流れこんできた。

 これがマキナ族特有の性質の一つ、『同調』だ。この世界の魔力の特性として、同質なら混じり合い異質なら相殺し合う。だから本来なら誰かの魔力を別な人へと譲渡することは不可能で、無理矢理やろうとするなら性質を合わせるために気が遠くなりそうなほど莫大な術式を間に挟む必要がある。

 だけど、マキナ族にはその法則が当てはまらない。厳密に言えば一人一人ちゃんと違う性質の魔力を持っているんだけど、同じ規格の魔素反応炉(マナリアクター)から魔力を供給しているせいなのか、その魔力の性質は比較的簡単な術式を間に噛ませばあっさり同じにできるほどよく似通っているらしい。特に始祖たるボクの魔力に同調させるのが極めて簡単なんだとか。

 その性質を利用したのが『同調』の魔導式(マギス)とそれによる魔力の一点集中。本当なら一人の魔力と描画面積じゃ発動できないような魔導式(マギス)を使う時用にと編み出したんだけど、こういった状況でも使えるよね。

 というわけで、展開した『障壁』の術式をいじって追加供給される魔力を流し込んだ。途端に力強さを増す魔力の壁。元々の出力に加え、マキナ族の『全力』の魔力が三人分だ。これなら悪魔の『核撃』だって相殺しきれる!

 そんな信頼に見事に応えてくれたようで、しばらくすると展開した『障壁』への圧力が弱まり始めた。感覚的に相殺で消費される魔力が減ってきたわけだけど、むしろ本番はここからだ。『核撃』が荒れ狂っている間はいくら魔導回路(サーキット)を描こうが同種の魔力としてすぐに紛れるから発動できなかっただろうけど、濃度が下がればその制限もなくなる。そうなればまた『魔砲』だの『核撃』だのをばらまかれかねないから、ここから一気にたたみかけるのが最上だろう。


「――来い、アマテラス」


 余裕の出てきた魔力をデウスの背面へと回す。そうすればマントの下、刻み込まれた専用『亜空接続』の魔導式(マギス)が輝き、空間のひずみから姿を現した専用武装が装着された。

 その形を一言で表すなら『折りたたまれた金属の翼』が一番近いかな? デウスの背中を覆っているマントからはみ出すほどの大きさのそれは、背面との連結部分から二本の軸になる部分が生えていて、その内側に向かって何枚もの金属板が生えているように見える。

 続けてアマテラスに魔力を流せば変形機構が作動して、マントの下からそれこそ翼を開くように展開し始めた。同時に一定間隔で軸に配置されている可動部分も連動して直線だった軸を緩やかな曲線へと変えていき、鶴が丸く翼を広げたような形で停止する。

 直後、羽の部分に当たる金属板が一斉に展開して面積を拡張。これだけ見たら今にも飛び立ちそうな絵面だけど、残念ながらアマテラスは飛行ユニットとかじゃないんだよね。

 さて、下準備が整ったところで一気に行こうか!


「正念場だよ! 全力供給よろしくね!」


 ボクの言葉に対する気合いの入った三人の返事を聞きながら『障壁』の術式をさらに改変。徐々に低下していく『核撃』の圧力に合わせるようにその領域を狭めていく。

 そうして『核撃』の威力を殺しきった頃には、すっぽりと悪魔が収まる球体になっていた。当然悪魔は逃れようと暴れてるけど、実体はあれど根本的には魔力の塊。魔力を遮断するための『障壁』そのものの中じゃ溺れるように足掻くくらいしかできない。何度か魔力をほとばしらせてる感覚があったけど、魔導回路(サーキット)の描画程度で発生する魔力なんて出た瞬間にかき消せる。

 そこまでしてから再び背中の装備へ意識を向けて第二段階へ。そうすれば翼のように広がる金属板が軸を支点に揃って前へと傾いて、次いでその内側にびっしりと魔導回路(サーキット)を浮かび上がらせた。

 そして『障壁』への魔力供給を最低限にすると、残りを全部アマテラスへ回す。そうすれば刻まれた術式に従って全ての金属板からの交差点――ちょうどデウスの頭の前で急速に魔力が収束し始めた。

 そう、この『アマテラス』の持つ機能は飛行じゃなくて魔力の収束。要はサンダロアの砲身を展開した時に作動する機能と原理は一緒だ。それをただ単に大型化&大幅増加しただけなんだけど……サンダロアでも『核撃』が撃てる時点で威力はお察しだ。実際、収束開始から数分刻しか経ってないのに、その収束率は悪魔の『核撃』をとっくに超えていたりする。

 ただし、アマテラスへの魔力供給をした分だけ『障壁』は弱体化していた。最低限の供給だけじゃ完璧な拘束なんて無理な話で、今この瞬間ももがく悪魔によってガリガリと削られて行っている。まあそれでも、このままならアマテラスの収束が臨界に達する方が早いからなんの問題もないんだけどね。さすがに『奥の手』プラス『全力』三人分の魔力供給量だ。

 やがてかろうじて『障壁』が残る程度まで削られた時、とうとう準備が整った。ボクの目の前に、美しく虹色に煌めく破滅を秘めた球体がスタンバイ。このままぶっ放そうものならこの辺りどころか帝都そのものを更地に変えちゃうだろうから、最後の一工夫が必要だ。


「シグレ、ヒエイ、タチバナ、打ち上げよろしく!」

「「「はい!」」」


 ボクの言葉に必要のなくなった魔力供給を即座に中断して、三人は揃って『豪風』の魔導式(マギス)を起動した。対象は当然、悪魔。

 さすがの連携でまったく同時に発生した強烈な爆風は、タイミングを合わせて解除した『障壁』からまろび出た悪魔を間髪入れずに高々と空中に打ち上げる。支えも何もない空中で飛ぶことのできない悪魔は錐もみしながら急上昇していき、あっという間に闘技場よりもさらに高い位置へと運ばれていった。

 これでボクと悪魔の延長線上に一切の障害物はなし。いくらぶっ放しても直接巻き込む心配が要らなくなったわけだ。後は余波だけど、幸い周りは無事を諦めた闘技場で、今いるのは試合場のほぼ真ん中。観客席に人の姿はとっくになくて、ちょうどいい防壁になってくれそうだ。後は闘技場自体がどこまで耐えてくれるか……さすがに余波で倒壊はしないよね?


「――とりあえず、消し飛べっ!」


 思考は一瞬。わずかな不安を振り払うように気合い一声意識の中の引き金を引いた。

 直後、閃光と轟音がほとばしる! 解放された魔力は建物ですら飲み込めそうな極太の柱となって立ち上り、立ち塞がる大気の壁を苦もなく叩き破って悪魔の姿をあっさりと飲み込み、射線上にあった雲を吹き散らしながら空の彼方へ届けとばかりに伸びていく! 周辺では無理矢理押しのけられた空気が暴風となって荒れ狂い、すでにボロボロだった試合場や観客席をさらに蹂躙している。

 まさに天を突く虹色の柱が屹立していたのは、溜め込んだ魔力を吐き出しきるまでの十数分刻。徐々に細くなっていった末に余韻を残して消えた後には、文字通り綺麗さっぱり何も残っていなかった。


「……よーし、討伐完了っぽいね」


 デウスに備え付けの『探査』を起動して悪魔の痕跡を探ることしばらく。半径約三カウン――おおよそ五キロ以内にあのないはずの身の毛がよだつような魔力反応がまったく感じられないことを確かめて、やっと安堵の息を吐いた。さすがにあの魔力量を悪魔だけに一点集中とか無理な話だったからロスとか考えたら削りきれるか不安だったんだけど、どうやらなんとかなったらしい。


出力変更(アウトプットシフト)通常水準(レベルノーマル)


 危機的状況も去ったことだしと出力を『平常』まで落とせば、段階を踏んで徐々に落ち着いていく魔素反応炉(マナリアクター)。それが一定以下になった途端に視界がフッと途切れ、目を瞬いた時には狭くて真っ暗な場所にぽつねんと埋もれていた。前にデウスを使った試験運転は十三年前だったからちょっとの間戸惑ったけど、なんのことはない、供給される魔力が足りなくなって接続が切れただけだ。

 記憶を掘り起こしながら狭い空間でちょっとした操作を行えば、すぐに目の前がパカリと開いて外が見える。展開したデウスの胸部装甲から弾みを付けて飛び降りれば、後に残るのは純白に戻った装甲で佇む巨大な騎士といつものボクだ。


「あー……やっと一段落かぁ」

「お疲れ様です、ウル様!」「さすがのご活躍です、王」「始祖様お疲れ」


 意味はないけどなんとなしに伸びをしながら呟くボクに、笑顔満面のシグレたちがそう声をかけてくれた。ちなみに疲れることのないマキナ族だけど、労いの定型句ってことで『お疲れ様』は広めてある。


「うん、ありがとう。みんなも加勢してくれてありがとうね。ボクだけだったらもっと被害が出てたと思う」

「悪魔は怖かったけど、ウル様のお役に立てて嬉しいです!」

「ご謙遜を。我々としてもマキナ族としての使命を果たしたまでです」

「みんなも始祖様も守る!」


 そんな風にシグレたちとお互いに労うやりとりを交わしながら、ふと空を仰いだ。そうしたら透き通るような青空の中、ぽっかりと大きく綺麗な円形に抉られた不自然な形の雲が目に映る。

 ……いくら悪魔がヤバイからって、後先考えなさすぎたかなぁ。まだマキナ族に良いイメージを付けられてない状況で天変地異レベルの力を使うのはまずかったかもしれない。下手したら修復不能な悪評が付くかもだ。


「……でもまあ、仕方ないよね」


 けれどもボクはそう呟いて苦笑した。ちょっと後ろ向きな考えがよぎったけど、だからってそれを恐れて手を抜いたり何もしないのは守るための兵器としては本末転倒だ。だからやらかしたことに関しては一切後悔していない。

 幸い、とりあえずの保護者なガイウスおじさんは権力者。情報操作とかはたぶんお手の物だろうし、イメージアップ作戦なら協力を惜しまないつもりだ。あとは野となれ山となれ!

 そんな風に内心で若干ヤケになりながら、ひとまず撤収するためにもデウスを亜空間へと放り込んだ。



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