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機神漫遊記 ~異世界生まれの最終兵器~  作者: 十月隼
四章 機神と大会
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指令

 途端に跳ね上がる三人の魔力反応。理由は単純だ、以前のボクと同じように、出力を『本気』から『全力』に上げたんだから。

 本来ならマキナ族は『全力』を出すためには『マキナ族以外の第三者かつ、マキナ族が生きた兵器であることを知る登録者(レジスター)三名以上の同意』が必要だ。これは兵器として生まれる種族からこそ持つ一種の安全装置で、生み出された時点ですでに組み込まれるシステムだから例外はない。

 ただ、万が一だけどマキナ族が世界に広がるまでに『全力』を出さないと対処できないような事態が起きるかもしれない。そういった場合に備えて唯一用意された抜け道が『始祖指令(エクスオーダー)』。これの対象に指名されたマキナ族は、承諾することで以降五日間に渡って魔素反応炉(マナリアクター)の出力が制限される代わりに、その場で一時間だけ『全力』の行使が許される。

 ただし、これを発動する権利があるのは創造主のイルナばーちゃんと、始まりのマキナ族であるボクの二人。イルナばーちゃんが旅立った今、その名の通り始祖(エクス)のボクだけが発動権を持っている切り札だ。


「「呼出(アウェイク)虚空格納(ホロウガレージ)武装拡張(アセンブリエンハンス)機人装備(アドゥンマキナ)」」


 続けてヒエイとタチバナがシグレへの援護を一時中断し、全身に空間の歪みを纏って鎧を着込む。ボクの物とほとんど同じデザインのスタイリッシュな鎧なんだけど……それぞれ執事服とメイド服の上に装着したせいで妙にシュールだ。


武装変更(コールアセンブリ)魔法士(ウィザード)」「武装変更(コールアセンブリ)舞険士(ソーディアン)


 そんな外見には頓着した様子もなくそれぞれ武装を取り出す二人。ヒエイが選んだのは書物型の記写述機(メモリルーラー)『ワイズ』。ボクの持つルナワイズの同型――というかぶっちゃければ量産型の魔導器(クラフト)だ。先行試作型をさらに専用化したルナワイズと違ってややコンパクトになっているものの、機能って言う意味じゃほとんど変わりはない。

 同じようにタチバナが取り出した細身の長剣(ロングソード)『ティア』もスノウティアの量産型で、材料は当然剛性緋白金(ヒヒイロカネ)がメイン。ただし、タチバナの場合は刀身を少し短めに調整したのを両手に一本ずつの二刀流。時には逆手に持ったりもしてたっけ。


「タチバナ、シグレと一時交代を」

「行く」


 二人がそれぞれ一番得意とする武器を装備したところで短くやりとりを交わすと、ヒエイの放つ弾幕に先行するかのように悪魔へと突撃するタチバナ。出力の上がったシグレと殴り合っていた悪魔は横合いから斬りかかってきたタチバナに一瞬身体を切り裂かれ、すぐに再生したけど一瞬だけ硬直したところに後からきた弾幕を浴びて怒っているかのように聞こえる絶叫をほとばしらせる。


「シグレ、交代。装備」

「待ってましたー! 少しだけよろしく!」


 それだけ言い合うと、対抗するかのように撒き散らされる赤黒い魔力弾をかわしながらタチバナは前に、シグレは後ろに別れる。


呼出(アウェイク)虚空格納(ホロウガレージ)武装拡張(アセンブリエンハンス)機人装備(アドゥンマキナ)武装変更(コールアセンブリ)壊戦士(ベルセルク)堅砦士(ドレッドノート)!」


 前衛を替わってもらった隙に矢継ぎ早に口頭鍵(トリガー)術式登録(ショートカット)を唱えるシグレ。殴り合いの結果として見る影もなくなった侍女服の上からヴァルキリー風の鎧を纏い、さらには右手に量産型レインラースの可変戦斧『ラース』と、左手に同じく量産型サンラストの可変盾『ラスト』を装備した重武装モードに。


「お待たせ! 行くわよ!」


 素早くラストを塔盾(タワーシールド)並にまで展開したところで刃を赤熱させるラースを振りかざしながら突進するシグレ。その接近を察したタチバナがタイミングを合わせて入れ替わり、再びシグレが前衛に返り咲く。悪魔は短い間に斬りまくって翻弄してくれたタチバナを追いかけようとするも、シグレによって一度頭から地面ごと両断されるとあっさりターゲットを変更したようで、即座に再生するとシグレへと躍りかかった。

 けれど振り抜くはずの腕は簡単にラストに受け止められ、追撃の魔力弾は鎧に浮かんだ『障壁』が生成した魔力壁で散らされる。実はマキナ族の鎧にはデフォルトで『障壁』を初めとしたいくつかの魔導式(マギス)が刻まれている。どれも個人用に調整された術式だから味方を守ることにはなかなか使えないけど、その分効果はマシマシになってるからあれくらいの魔力弾なら抜かれることはない。

 そうして生成される魔力を装備と身体能力に全振りしたシグレが悪魔に張り付いて近接戦を引き受け、タチバナは『砲撃』を混ぜながら隙を見て斬りかかっていく遊撃に。少し離れた場所からヒエイが各種魔導式(マギス)を駆使して攻撃、牽制、陽動に加えて流れ弾の撃ち落としなんかを担当する。

 よし、三人の得意な戦法がちょうどバランスのいい組み合わせだったおかげで安定した状態に落ち着いてくれた。個人の戦闘技術は拙いけど、連携する訓練なら故郷でみっちりやってるからいくら相手が悪魔でも早々押し負けないだろう。


「任せるよ! そのまま削りながら押さえてて!」


 そこまで見届けたボクは一声かけて踵を返して駆け出した。別に三人に任せて逃げようってわけじゃない。反則臭い始祖指令(エクスオーダー)だけど、欠点――と言うか当然の仕様としてボクに対する効果は何もなかったりする。せっかくかけてある安全装置を兵器が自分で外しちゃえるようなら意味がないからね。

 だから、ボクが『全力』を出すためには登録者(レジスター)の――リクスたちの承認がどうしても必要だ。逃げろって言ったことを実行してくれてるなら合流に少し時間がかかるだろうけど、なるべく短時間で悪魔をどうにかするにはボクも最低限『全力』を出す必要がある。

 そんなわけで元いた客席を目指してるわけなんだけど……見間違いかな? パーティ仲間の三人が揃って客席から身を乗り出すようにしてるんだけど。うん、気のせいじゃないね。おかしいな、ちゃんと逃げろって言ったのに……。


「――こっちはいいから急いで一般人を避難させて!」


 湧いてくる苦笑をかみ殺し、悪魔VSマキナ族ズに手を出しあぐねていたプラチナランク二人の横を駆け抜けざまに指示を出しておく。すでに飛んでいった余波や流れ弾であちこち被害が出てるんだ。建物はこの際諦めるとしても、せめて人的被害はこれ以上出したくない。ここで手を出せずに様子をうかがっているくらいなら、ボクたち兵器が遠慮なく戦えるように避難誘導や流れ弾の迎撃に回ってもらった方が建設的だ。

 こんな子供の言うことを聞いてくれるか若干不安だったけど、『探査』の反応に一拍を置いてから客席の方へと向かっていってくれたのが映った。本心はどうか知らないけど、理解のある人たちで良かった。

 そうして派手な戦闘音を背中に聞きながら残りの距離を一気に駆けて、客席手前で思いっきり地面を蹴って跳躍。客席の縁に手をかけて、そのまま一息に飛び込んだ。


「ウル。あれはなんなの?」


 素早く避けて場所を空けてくれたシェリアの隣に着地すると、すぐにそんな言葉が飛んできた。厳しい目つきで睨む先には悪魔の醜悪な姿。まあ、初めてあんな物見たら誰だって正体を知りたいよね。


「あれは悪魔だよ、たぶんだけど。不死体(イモータル)の行き着く先、凝り固まった怨念が具現化した動く災害ってところかな。それよりみんな、なんでまだここにいるの? さっき逃げろって言ったよね?」


 答えながらもちょっと呆れ混じりに揶揄してみれば、シェリアの眉間にキュッと皺が寄った。


「友達を置いて逃げるわけがないわ」

「そうだよウル! 仲間を置いて逃げられるもんか!」

「俺はあんなやばそうな奴、ウルに任せておけばいいって言ったんだけどな……」


 不機嫌そうなシェリアがそう言う横から便乗するようにリクスもそう主張。それを聞いたボクはもう苦笑するしかなかった。なんせ、もう何度か似たようなやりとりをしてたはずなんだから。

 うん、そうだよね。キミたちはそういう人間なんだ。聞いただけで正気を削るような咆吼を浴びて、プラチナランクの人間でも迂闊に手を出せないような戦いを見て、けれどそこに仲間が残るって言うなら決して逃げ出さない。そういう信念をしっかりと持っている。

 いい加減、ボクもそのことを理解しておかないとね。二人の後ろでボソッと呟いたケレンは相変わらずだけど、それでも苦笑気味にこの場に残ってるんだから、みんな揃ってどうしようもないや。


「ボクとしては状況次第じゃきちんと逃げてくれてた方が嬉しいんだけど……今回は助かったよ、探す手間が省けた」

「探す手間……ってことは、何かおれ達にして欲しいことがあるのか?」

「なんでも言って。手を貸すわ」


 ボクの言葉を聞いたリクスが表情を引き締め、シェリアが真顔で握剣(カタール)の柄に手をかける。そんな二人を見たリクスは呆れたようにため息を吐きながらも長杖(ロッド)魔導器(クラフト)を担ぎ直した。いかにも『覚悟完了』って雰囲気で、これまでの戦いを見ていた上でひるみもせずに悪魔との戦闘に備えてるのは正直すごいなぁって思うけど、ボクが求めているのはそういうことじゃないんだよ。


「いやいや、さすがにあんなのと戦ってくれなんて言わないよ。ただ、ボクも『全力』じゃないと悪魔は倒し切れなさそうだからさ――機人誓約(プレッジモード)


 そう言って口頭鍵(トリガー)を紡いだボクの身体が緋色の紋様に彩られて発光する。


「 “我は我が身に課されし願いの元、危難に『全力』を以て当たるを必要と判断す。我が登録者(レジスター)に問う。我が判断を承認するや?”」

「承認するわ」

「えっ……あ。ああ、承認するよ!」

「承認するから、あいつを早いとこなんとかしてくれ」


 即座に察してくれたシェリアが答えるのを見て、一瞬キョトンとしたリクスもすぐに思い出してくれたらしく大急ぎで頷いた。続けてケレンの承認も得られた瞬間、意識の中で枷が外れる。


「ありがとう、みんな――出力変更(アウトプットシフト)戦術水準(レベルギア)! 呼出(アウェイク)虚空格納(ホロウガレージ)武装拡張(アセンブリエンハンス)機人装備(アドゥンマキナ)!」


 即座に魔素反応炉(マナリアクター)出力を上げて鎧一式を装備。このままシグレ達に合流……いや、今はまだ安定して押さえてくれてるから、ここはボクしか取れない手段で一気にダメージを与えた方がきっといい。


「シェリア、リクス、ケレン。これから大きいのを撃つから、巻き添えが出ないように他の人をなるべく避難させて欲しいんだ」

「……わかったわ」

「わかった、任せてくれ!」


 あれ? またごねられると思ったんだけど、今度はなぜか素直に聞いてくれたみたいだ。


「……いや、なんでそんな意外そうな顔してるんだ、ウル?」


 おっと、顔に出てたらしい。まあいいか、ついでに聞いておこう。


「だってまた逃げてって言ったも同然なんだし、また残るって言われるだろうなーって思ってたからさ」

「そりゃあ、さっきは単に逃げるようにって言っただけだったじゃないか。でも、今度はおれ達に果たして欲しい役目があるんだろう? なら、仲間として託された信頼には応えるのが当然じゃないか!」


 そんなことを胸を張って宣言するリクス。なるほどなるほど……さすがは好青年、繊細な線引きをしてるようだ。口を挟まないところを見ると、シェリアも似た考えなんだろうな。それなら今度から逃げて欲しい時は何か役割を押しつけることにしようっと。


「そうだね。任せたよ、みんな!」

「ええ」「ああ!」

「――やれやれ。避難が終わったら『豪炎』でも打ち上げて知らせてやるよ。その代わり、しくじるんじゃないぞ?」


 ボクの言葉に頷いてみせるシェリアとリクス。それを見て肩をすくめたケレンが最後に激励を残すと、頼れる仲間たちは駆けていった。役目を信じて任せられる仲間かぁ……うん、いいね。悪魔のことを任されたからにはボクも期待に応えなくっちゃ!



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