挑戦
記念すべき100話目の投稿! これからも頑張りますので、どうかよろしくお願いします!
「出力変更・――」
「おっとぉ、させると思ってんのか!?」
術式登録を口にした瞬間、ロヴの攻撃が勢いを増した。まあそりゃ前回パワーアップしてみせた時にバッチリ聞いてたんだから、それを覚えてたら相手が強くなる前に阻止するのは当然だよね。放っておいたら余計やっかいなことになるのに放置するようなヤツはただのバカだと思う。様式美? 現実を見ようか。
「――戦闘水準!」
ただまあ、多少圧が増したからって乱れるような息がないボクは防御に集中することでその数舜を難なくしのぎきり、結びと共に魔素反応炉からの魔力供給が上昇。ほとんど服の下に隠れているから見えないだろうけど、それでも素顔を晒している顔はうっすら緋色に染まっていることだろう。
「ちっ、そう簡単にはいかねぇか! 上等だ!」
「――呼出・虚空格納、武装変更・壊戦士!」
ロヴの悪態を聞き流しつつ『探査』を破棄し、タイミングを見計らって術式登録を結ぶ。そうすれば振り抜いた先で右手の周りに空間の歪みが出現、スノウティアを落として引き戻しざまに亜空間からレインラースを抜き打った! 『本気』状態の今、ボクの最重量近接武装は慣性の手応えを残しつつも片手での扱いに応え、豪速をもってロヴへと襲いかかる!
「――っとぉ!?」
〈出ました! ウル選手お得意の虚空から現れる巨大武装! しかもなんということでしょうか、前回前々回の試合では両手で扱っていたそれを、こともなげに片手で振るっています!〉
さすがにいきなりレインラースを受ける心構えはできていなかったのか、驚いたような声と共に素早く飛び退って避けるロヴ。その隙にサンラストの機構に魔力を流して盾を展開、ガチャリと動いて一瞬で小盾サイズから帆盾サイズへ。序盤じゃナイトラフをメインに使ってたせいでちょっと空気だったけど、ここからはガンガン使っていくからね。
「呼出・周辺精査――さあ、ここからが本番だよ!」
牽制にナイトラフで射撃しながら最後に術式登録で『探査』の魔導式を再展開して準備完了! カランとスノウティアの転がる音を合図に、表情を引き締めたロヴへと突撃する!
「前よか重装備じゃねぇか!」
どう考えても嬉しそうにしか聞こえない文句を乗せて魔力弾が飛んでくるけど、避けるなんてまだるっこしい真似はせずにサンラストを前に掲げて全部受け止めた。だてに盾なわけじゃなく、魔力弾程度なら雨を弾く傘みたいに当たったそばから弾き散らしていく。
「――せいっ!」
あっという間に開いていた距離を詰め直すとレインラースを右から左へ横薙ぎに振るう。対するロヴは一瞬で身体を沈めつつ、レインラースに長剣をあてがって上へと逸らす。叩きつけての逸らしならブースト中の腕力で強引に押し切る自信があったんだけど、そっとあてがってからグッと押し上げられる感じで力のベクトル自体をずらされたようで、かがめたロヴの身体のすぐ上を通過するコースに。
そして低い姿勢のまま至近距離から魔導銃を向けてくるロヴ。狙いは右の脇腹で、レインラースを右から振り抜いている関係でサンラストを割り込ませるにも姿勢が悪い。
だからドンッと地面を蹴って身体を宙に浮かせつつレインラースを振る勢いに合わせて身体を横に捻った。そのすぐ下を魔力弾がかすめていくのを捉えながら身体を半回転、サンラストの裏拳バッシュをロヴの上から叩きつけるようにお見舞いする。
けれどさすがはロヴ。魔導銃をぶっ放した次の瞬間には跳ねるように後ろへと飛び退っていた。一蹴りのくせに三ピスカ以上跳んだんじゃないかな? やっぱり人外じみてるや。
そしてついでとばかりに空中で身動きの取れないボクに向かって容赦のない銃撃の追加。ホント、子供相手に全く容赦ないね。
仕方がないのでサンラストに刻まれている『障壁』の魔導式を起動。魔導式まで全力で使ったら一方的な展開になるってわかってたから縛りにしてたんだけど、これはサンラストっていう魔導器に標準装備されてる機能だからセーフだ。
そんなわけでロヴの銃弾は到達するはるか手前で光の壁に阻まれてあっさりと四散した。『全力』なら魔導兵器の大砲すら余裕で防げるんだから、『本気』でも銃弾くらいならわけはない。目を剥くロヴへなんとはなしにニヤッと笑い返しつつ、姿勢を整えて無事着地。
〈ウル選手、重量武器を扱っているとは思えないほどの身のこなし! ヴェスパー選手も負けずと華麗な動きを見せますが……目の錯覚でしょうか? いえ、突如ウル選手を守るように魔力障壁が展開! ヴェスパー選手の銃撃をあっさりと散らしました!〉
そのまま『障壁』を展開しつつ一歩踏み込もうとして、それより先に魔力壁の内側に躊躇なく飛び込んできたロヴが魔導銃を二連射。クイックドロウと言っても間違いないほど間隔のない一発目は顔に向かってきたからサンラストで受けたけど、二発目の向かう先は何もない足下。この状況で外した? さすがに早撃ちすぎてロヴでも狙いが定まらなかった――いやちょっと待ってまずい!
慌てて動きを修正しようとしたけどわずかに遅く、踏み込みのために出した足は直前に魔力弾によって砕かれた地面を踏み抜いてしまった。偶然じゃない、ロヴのヤツ、あの一瞬で狙ってやってる!
思っていた場所で踏ん張りが効かなかった身体がぐらりとかしぐけど、なんとかギリギリで予見できたからすぐに立て直した。それはほんの瞬きの間の停滞――だけど、ボクの目の前にいるのはプラチナランクの戦闘民族。
「――っらぁ!」
たった一瞬の隙にレインラースの内側、長剣の間合いに踏み込んできたロブが振る横薙ぎの一閃をサンラストで受け止めた――かと思ったらお腹に銃口が押し当てられて、間髪入れずに引き金が引かれる。崩れた体勢を整えたと思ったら剣を防がされた直後、零距離からの一切のタイムラグがない一撃。さすがのボクでも避けるヒマなんてなかった。
腹部に衝撃。強引にレインラースを振るえば、ロヴは追撃に拘泥することなくあっさりと距離を取った。けれどその顔はまだ真剣そのもので、一撃入れたからって露ほども油断することなくボクのことを警戒している。それに応えるべくすぐさま次の攻撃へ……って行きたいところなんだけど。
視線をロヴから外してお腹を見た。さっきもろに一撃を食らった場所のシャツに穴が空いているけど、覗く素肌に傷はない。当然だ。マキナ族の身体は魔力駆動。本来なら銃弾程度の魔力密度の攻撃は何もしなくてもダメージはない。
だけど、普通の人間なら間違いなく重傷だ。かろうじて致命傷じゃないだろうけど、少なくとも戦闘続行は困難。しかも相手がロヴじゃあ、こっちにハンデがある状態だとまず勝ち目がない。つまりは、実質的な行動不能な負傷ということだ。
〈おおっと、どうしたことでしょう? 再度の交錯があってからウル選手、急に動きを止めました!〉
「ちっくしょー、悔しいなぁ……」
戸惑い気味の実況を耳にしながら棒立ちになって空を仰いだ。ついさっき『これからが本番だー!』ってドヤッたばかりなのにこの結果だ。正直穴があったら入りたいくらいに恥ずかしい。生身の身体なら顔が赤くなってそうだ。あ、今ちょうど全身もれなく火照ってるように見えるか。まあそうだったらそうだったで今ごろ大惨事だろうけど。
……それにしても、プラチナランクくらいになると一瞬が本当に命取りになるんだね。前とは違ってロヴも結構本気で避けてるように見えたから押しまくれば行けるんじゃないかって思ってたけど、やっぱり駆け引きとか咄嗟の機転とか対応力とか、後はそれを生かすための判断力とか、まだまだ足りない物が多いや。それでも戦闘技術を身につけて差が詰まった実感はあるから、これからも頑張っていけばいつかロヴにも勝てそうだ。うん、ファイトだボク!
――となると、後は……。
「……おい、何をボーッと突っ立ってんだよウル? 腹の傷か? お前ならまだそのくらいじゃ――」
「呼出・虚空格納、武装変更・魔法士」
いぶかしげに尋ねてくるロヴは無視して再び『探査』を破棄しつつナイトラフをその場で手放すと、術式登録を唱えてルナワイズを引っ張り出した。それと同時に問いかけを中断して跳びかかってくるロヴ。まあ、相手が新しい動きを見せたのなら何かされる前に攻撃してきて当然だよね。
肩口を狙って振り下ろされる長剣は充分以上に鋭いけど、真っ正面から来てるからボクなら見えてるし対応することも余裕だ。たぶん、ロヴからしても避けられたり防がれたりするのが前提の攻撃で、そこから次へと繋げるつもりなんだろう。
だけど、ボクはそれを無視して微動だにしない。そうすれば吸い込まれるように服を切り裂いて肩に食い込み――
「んなっ――!?」
ガキンと音を立ててちょうど肩胛骨にあたる剛性緋白金であっさりと止まり、ロヴを二重の意味で驚愕させた。一つは対処できるはずの攻撃に何も反応しなかったことで。もう一つは骨すらあっさり断ち切りそうな一撃が異常な金属音で止められたことで。
こんな状況になったらボクなら確実に混乱して動きが止まりそうだけど、そこはさすがと言うべきか、驚愕を顔に貼り付けたままにもかかわらず一瞬の遅滞もなく飛び離れて距離を取るロヴ。その間にボクは一度レインラースをズシャリと地面に突き刺すと、ルナワイズから伸びる接続鎖を悠々と首に装着してホルダーごと腰から吊るした。
〈――な、何が起ったのでしょうか!? ウル選手、ヴェスパー選手の袈裟斬りを無防備に受けたようですが、一切痛痒を受けてるように見えません! ウル選手の身体が鋼鉄になったとでも言うのでしょうか!?〉
お、上手いこと言うね、実況の人。まあ硬質化とかじゃなくて元から超頑丈な金属でできてるわけだけど。
ボクの中でだけだけど、試合は負けた。上には上がいるってことを痛感したけど、同時に覚えた戦闘技術が全くの無駄じゃないことも確認できた。機工の身体だからってちょっと諦めてた成長の余地が十二分にあって、マキナ族でも『人間として強くなれる』ことを実感できた。これ以上試合に出れないのは残念だけど、武闘大会に出たボクの目的はほぼほぼ達成されている。だから最後に一つだけ、どうしても確認しておきたいことがあった。
――人間の英雄に対して、ボクが『兵器』としてどこまで通用するのか。
レインラースを引き抜いて装備は万全、出力も『本気』状態からスタート。魔導式も全解禁で縛りも制限もなし。例え身体を貫かれようが手足を斬り跳ばされようが動ける限りは戦い続ける――これからボクはそんな真性の『兵器』としてロヴに挑ませてもらう。
「ゴメンね、ロヴ。もう少しだけ付き合って欲しいな」
それだけ言ってニッコリ笑ってみせるとスッと左腕を持ち上げ、サンラストの影で作った指鉄砲をロヴへと照準。
「――ばちぃ」
選択した魔導式は『雷撃』、魔導回路の展開は一瞬。発射と同時に着弾する激しい電流が指先からほとばしり、けれど指を向けた瞬間から回避行動を取っていたロヴをかすめるだけに終わって大気中に散っっていった。
「――どかぁん!」
そしてそれが再開の合図。続けざまに放った『爆轟』は回避した直後のロヴを吹っ飛ばしたけど、それでも咄嗟に飛び退かれたせいで直撃じゃない。追いかけてさらに連射するもロヴが魔導銃で迎撃してくるから、はるか手前で爆発させられて無駄に音と衝撃を撒き散らすだけに留まる。あの状況からもうしっかりと対応してくるとか、やっぱりロヴはなんかおかしいと思う。
〈な、なんということでしょう! ウル選手が新たな武器――おそらくは魔導器だと思われますが、それを手にした途端に激しい魔導式が試合場を埋め尽くしています!〉
「――ぴきぃん!」
左手で『爆轟』の射出は続けたまま両脚に意識を向けて新たな魔導回路を展開。術式をアレンジした『魔氷』はブーツの裏から地面を凍らせると、注ぎ込んであげた魔力を糧にして急激に氷結した領域を広げていく。魔力でできているとはいえ、氷は氷。これが試合場を埋め尽くせば足場はかなり不安定になる。
凍り付いた足場から出力に物をいわせて強引に引っぺがすと一歩前へと進む。踏み出すごとに新しく広がる氷を生み出しながら並足、駆け足と加速してロヴの下へ。
記念話なので便乗して再び別作品の紹介を。心優しいネクロマンサーの少女が始める、”優しい”世界征服です。
『最近のゾンビは新鮮です ~ネクロマンサーちゃんのせかいせいふく~』
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