渾身の一杯
ラーメン屋の店主は日に日に遠退く客足に頭を悩ませていた。決してラーメンの味が悪い訳ではなかったのだが、昨今のラーメンブームで舌の肥えた客達には物足りなかったのかもしれない。
このままではダメだと、店主はラーメンの研究に取り掛かる。それまで築いてきたものを全て捨て、ゼロからのスタートである。世代、客層に好まれるラーメンの統計を取り、味噌、醤油、塩、とんこつと日々様々な店を食べ歩き、スープ、麺や具材の相性、それらを作り上げる工程を研究した。
失敗の連続だったが止めようとは思わなかった。全ては美味しいオリジナルのラーメンを作る為であった。
そして、ラーメンの研究を開始してから三年が経った頃、店主の渾身の一杯が完成したのだった。
「旨い、絶対にいける。」
それは今までにない、完璧な店主オリジナルのラーメンだった。さっそく店主は、渾身の一杯を常連の客に食べてもらった。レンゲで静かにスープを飲み、ズズズと麺をすする常連客。
「どうだ?」
店主は緊張した面持ちで聞いた。
「…旨い。」
「本当か?」
「ああ、旨いよ。…でもダメだな。」
「何でだ!! 旨いんだろ!? 苦労してやっと作った一杯なんだぞ!!」
常連客が言った。
「残念ながら、これは世の中では蕎麦って言うんだ。」