花火
「お母さん!!変じゃない!?」
玄関で可愛らしい紺色の花柄の着物を着た少女がくるくると回り、身なりを必死で気にしている。
「もー!何回目だと思ってるの。このお母さんが着せてあげたんだから、大丈夫に決まってるじゃない!」
あきれ混じりに笑う母親は、少女をくるりと一回転させ満足そうに頷くと、ポンと背中を優しく押した。
「ほら、もうそろそろ時間でしょ。行って来なさい」
「うん!行ってきます!」
もう一度母親に向き直って、少女は勢いよく飛び出していった。閉じられた扉に母親はふっと笑うと、すねているであろう夫のいるリビングに向かうのだった。
「こんばんわ!おおおお待たせしました!
「大丈夫だよ。俺も今着いたばっかだから」
少女と待ち合わせしていた少年はグレーの浴衣に身を包み、優しく微笑んだ。少女は火照る顔を少し下を向いて隠した。
「大丈夫??」
「!!だ、大丈夫です!」
「そう?ならそろそろ行こうか」
少女が顔を上げると、そこには相変わらず優しく微笑む彼がいた。はぐれるといけないから、そんなことを言いながら差し出すその手を掴んだ瞬間、少女の中で何かがはじける音がした。
「何か食べたいものある??俺、わたあめ食べたいんだけど…」
「わたあめ…わ、私も食べたいです!」
彼女の顔色を伺っていた少年の顔に一瞬笑顔が咲きすぐにはっとして気まずそうに空いている片手で顔を覆った。
「お、男の癖に…とか、思った、よね…?」
「い、いえ、そんなことは!あ、甘い物、お好きなんですか?」
「…結構な甘党です…」
少年の返答に少女がくすりと笑うと、少年がすこしむっとして赤く染まる顔を少女と反対側へ向けた。まずいことをしたかと、少女が慌てると繋がれた手をぎゅっと握られる。不意のことに驚いた少女が顔を上げるとむっとした少年と視線がバチリと合い、ほぼ同時にふっと笑顔になった。
「おおーやっぱりここならきれいに見えそうだね」
わたあめから始まり、射的に焼きそば、リンゴ飴などと祭りを堪能し、花火がきれいに見えるスポットへと移動してきていた2人。
神社の境内の小さな段差に少女は腰を下ろし、少年は少し先の柵に両肘を付いている。
あたりは夏も終わりに近いことを知らせるヒグラシが鳴くばかりで、2人の間には会話が無い。
しばしの無言ののち、少年が恐る恐る口を開いた。
「もうそろそろ始まるから、こっちにおいでよ」
「う、うん」
浴衣の土を払うと、少年の元へ向かい、隣に立つ。またもや無言になると、今度は意を決した少女が口を開いた。
「あ、あの!先輩は今日どうして私を誘ってくれたんですか?」
「…」
柵を握る手に力を込め、ぎゅっと目を瞑って少女は少年の返事を待った。
しかし、一向に来ない返事に少女はゆっくりと少年の方に視線をずらす。
「…どうしてだと思う?」
「…え?」
「キミは、どうして呼ばれたと思う?」
にやりと笑う少年の言葉に少女の頬がさらに赤く染まる。答えは、一つしかない。
「わ、私は!先輩のことが」
言いかけた言葉は花火にかき消されてしまったような気がしたのに、先輩は最高の笑顔を少女に向けると、優しくキスをした。
おまけ
リビングに戻った後
父「うぅ~」
母「いつまでめそめそしてるの。かっこ悪い」
父「だってぇ~」
母「…私たちの初デートだって夏祭りだったでしょ」
父「!!か、かぁさん!!」
夏祭り後の2人
少女「そういえば、あのときの告白ってちゃんと聞こえてました?私てっきり花火の音にかき消されたかと…」
少年「…ん?」
少女「え?先輩?」
少年「あのときに言うことなんて一つだと僕は思うけど」
少女「先輩の馬鹿!!」
筆者より
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。夏です。暑いです。夏ばて、熱中症にはお気をつけてください。その中でも夏ならではのイベントを精一杯楽しみましょう!それでは。




