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銀の四番  作者: hachikun
16/22

崩壊

 ソフィア姫がルド翁との会話で激昂しかけていた、ちょうどその頃。

「こりゃあ、まずいですかねえ」

「まずいかも」

 休憩をもらったオペレータ三人娘は食堂まで歩く途中、その異変に気づいた。

 職員の数が妙に少ない事に。しかも、

「いるのは人間のひとばっかだねえ」

「マキ、うちらの他のチームは?」

「ん、ちょっと待ってね」

 マキと呼ばれた娘がどうやら人間らしい。ポケットから端末を取り出してツツツと操作している。

「あー、食事とか適当な理由で外に出てるよ。どっちのチームも」

「このタイミングで?」

「これは確定っぽいねえ……」

「やだもう、あたしたち置いて逃げるとか、ありえなーい!」

「シーッ!プーちゃんだめ!誰が聞いてるかもしれないよ?」

「お、やべやべ」

 

 改めて三人娘を紹介すると、こんな感じになる。

 まず一人目はマキ、人間。表向きはこの三人のリーダー。ドロイド側ふたりにはマッキ、マキ、あるいはマーちんなどと呼ばれている。ぎりぎり肩にかかるソバージュの栗色の髪に青い瞳。見た目は落ち着いているが実は子供っぽい部分もある存在。

 二人目はプニペス、ドロイド。言動も一番お子ちゃまだが中身も脳筋のアホの子。身だしなみが壊滅的なので他のふたり、特にマキが熱心にサポートしている。髪型は、21世紀の日本でマニッシュなどと呼ばれるタイプに似ている。髪も目も銀色というかむしろグレイ。アダ名はプー。

 最後、三人目はロミ、ドロイド。実際のリーダー役はこちら。髪はロングの黒だが染めたものらしく、末端にいくにしたがってウエイブしつつホワイトに変化していくグラデーションとなっている。目が灰色であるところからすると、元の髪もプー同様に銀色なのかもしれない。

 三人は、他の2チームのオペレータ嬢たちがそうであるように仲がいい。もっとも昔はプニベスとロミは喧嘩ばかりだったのだが、マキが間に挟まる事で和解、今じゃ常にひと塊の三人娘である。

 アルカイン王宮のオペレータ業務は伝統的に三人組が多い。そしてすべての組が今までそうだったとは言わないが、なぜか仲良し三人組に綺麗に収まる事が多い。人選の問題なのか職場の問題なのかはわからないが。

 この三人もそう。元々は普通に同僚だったのだが今ではすっかり打ち解け、まるで三人姉妹のように仲が良くなっていた。

 そんな彼女たちだが、他のチームが自分たちを置いて先に動き出したのは憤慨ものだったらしい。

「まぁ、私達はたった今までお仕事してたからね。仕方ないよ」

「まぁねえ。待ったあげくに全員逃げ遅れても困るしさ」

「そうだけどぉ……」

「まぁまぁ。それよりロミちゃんプーちゃん、私達も外いこ?まだ屋台出てるんだよね?」

「そだね、いこいこ」

「おー」

 彼女たちの言う通り、外には未だマーケットが賑わっている。既にアルカイン王宮の名で非常事態宣言がなされているというのに。

 出口に向かい、警備の職員に「食事行ってきます」「きますー」「めし」等は三者三様に挨拶をした彼女たちは、王宮勝手口から堂々と外に出、そして門の外に出た。

 出た途端、あたりは混沌の世界に。

「おー」

「賑やかねえ」

「うんうん」

「あっちだね、いこ」

「おけ」

 三人はバタバタと、広がる屋台街の一角に向かって進みだした。

 

 

 マーケットには色々なものがある。取引されるのは食べ物だけではないわけで、食事以外の事も色々できる。

 そして数分後、途中で買った携帯食片手の三人の前には謎の禿げ親父がいた。いかにも怪しい風体で、どこかと連絡をとっている。

「ああよしわかった」

 そういうと、親父は通信機をポケットにいれた。

「連邦系へのルートはさっき埋まっちまったよ。遅かったな嬢ちゃんたち」

「えー、どこかないの?」

「バラバラならどうにでも手はあるんだが、何しろこの状況だしな」

 親父がまわりの喧騒を指し示した。

「この屋台街のほとんどは外から来ているわけだからな、それらが帰るのに便乗ってカタチなら(ナシ)つけるのは難しくないんだが……それだと皆、バラバラんなっちまうんだよな。何しろどの屋台組もせいぜい家族程度の人数で来てやがるから三人まとめてとなるとな、バレちまう恐れがあるからよ。

 けど、それだとまずいんだろ?三人一緒じゃないとダメなんだろ?」

「はい、そこは譲れません!」

「ま、そうだろうな」

 ウンウンと親父もうなずいた。

「そこで俺から提案なんだがよ。嬢ちゃんたち、ボルダに行く気はねえか?」

「ボルダですか?」

「ああ」

 親父はポケットから、さっきの通信機とは別の端末を出すとスイッチを出した。

「ほれ、理由はこれだな」

 その機械を娘たちにそれぞれ近づけると、電源ランプと思われるところが激しく虹色にきらめいた。

「えっと、これ何です?」

「俺もよく知らないが、ボルダのヤツに言わせると魔力探知機というらしい。なんでも、ボルダで仕事をするにはこれが反応する人間じゃないとダメだって話でな、俺も常に持ち歩いてるわけなんだが。

 さっきからこいつがプルプルしやがってよ」

「えっと、つまり適合って事?私達が?」

「そのようだな。

 俺も長い事この仕事してるが、三人とも適合ってのはまた珍しいぜ。何かの引き合わせかもしれねえな。

 どうだ三人とも。これならボルダの星間求人に乗っかる扱いになるから渡航費は向こう持ちだ。それに万が一使い物にならなくても、どこか希望の星域に責任もって送ってくれるはずだが?」

「星間求人……知らなかった。そんなのあるんだ」

「ああ、嬢ちゃんたちにはピンとこないだろうが職業によってはよくある事だぜ?技術屋、宇宙船パイロット、そういうのは国や地域と関係ねえからよ」

「へぇ」

 三人は顔をつきあわせて考えた。

 ボルダならここアルカインとはすぐ隣であり、これ以上ないほど安心感は強い。

 何しろ連邦未加盟であり、アルカインとは友邦でありながらも自由に行き来はできない。ゆえに、入国さえできれば今回のような場合、とりあえず何か変化があるまでバックれるには最適なのだが。

 もっとも、近いのに席が余っているのには理由もあるのだが。

 実はボルダは今、鎖国に近い状態。誰でも好きに入れる国ではない。

 それに、社会環境が違いすぎる事もある。連邦式の生活になじみすぎていたら苦労するかもしれない。

「行ってみる?」

「ボルダって連邦的には情報ないよね。大丈夫なの?」

「むしろその情報のなさが利点だと思うな。逃げこむには」

「だねえ」

「とりあえず一時退避してみない?何となく危険な感じはしないし」

「ん、そうだね」

「あたし、さんせー」

「はいはいわかった。マキは?」

「私もいいと思う」

「おけ、じゃあ決まりね。えっと、おじさん?」

「ん?ああ、俺の名はセブル・ケトゥラ・エムノゼ・ラーン。ほれ、これがブローカー証明書だ」

「すみませんどうも」

「ははは、まぁ普通は最初に確認するわな。で、納得したかい?」

「はい、問題ないです」

「よし、じゃあ三人ともついてきなさい」

「はーい」

「よろしくお願いします」

 

 この時を最後に、アルカイン王宮のオペレータチームは全員が行方不明になった。また事務職についていたドロイドたちも残らず消えたばかりか、それらのドロイドと非常に仲良し関係にあった人間職員も何人か一緒に姿を消してしまった。

 幸いにもほとんどが事務職だったのでアルカイン王宮の人工知能システムが代役を務めたが、そもそも人間やドロイドが配置されていた部門というのは、オペレータ職がそうであるように人間を直接相手にする部門が多い。よって一時しのぎには問題ないが、長期的には問題を抱える事になった。

 また、アルカイン側の公式記録では彼女たちの行き先は不明となっているが、いくつかの星には記録が残されている。

 ボルダに向かったマキたちの組もそうだが、全てのチームは一時退避でなく行き先の星にそのまま住み着いた。理由は簡単で、この後、アルカインをめぐる情勢は急速に不安定になり、ドロイド・人間ごちゃまぜの混成事務職チームなんぞが帰るには向かない状況になっていったからだ。

 そして……。

 いやまぁ、それはまた別のお話で。

 

 

 さて。

 オペレータ嬢たちが姿を消した事を未だソフィアたちは知らなかったが、それどころではない別の問題が持ち上がってしまっていた。

 そう。

 エリダヌス教対策を話そうとしていたところお隣のボルダ国からの直接通信、それもアルカイン国王あてが届いたのだ。

 なお、モニターの方は「映像なし」となっている。聞こえてくる男の声は、張りのある豊かな低音(バリトンボイス)なのだが。

「こちらアルカイン王宮、国王レスタ・マドゥル・アルカイン・ニーラである」

『こちら神聖ボルダ首都、カルーナ・ボスガボルダ。大神官オルド・マウ。貴国に対し重大な確認事項があり連絡をした次第』

「オルド・マウ殿、誠に申し訳ないのだが現在、我が国は非常事態となっている。お話の内容次第では即答しかねる事があるやもしれぬが、よいだろうか?」

『ほう。それは、我が国の主権を貴国が脅かし、あまつさえ全面戦争を仕掛けようとしている事よりも重大ですかな?』

「はあ?いきなり何を?」

 国王を名乗った初老の男は、眉をしかめるとその声の主に答えた。

『何をも何も、今現在、アルカイン防衛軍が我が国の、しかも大神官の名で身分を証明している要人の乗った船に総攻撃をかけておりますな?艦船、艦載機あわせて二千機以上の大部隊で、武装すらしていない一般の船を撃ち落とそうとしている状況が、こちらに映像つきで届いているのですが?

 アルカイン国王レスタ殿、いったいこれはどういう事なのですかな?』

「待ちたまえオルド・マウ殿」

 もろに状況が伝わっているとは思わなかったのだろう。国王の顔には少々焦りがあった。

「その者は偽証の可能性が大と判明しておる」

『ほほう、それはいったいどういう根拠で?』

「証明情報は二十万年も昔のものだった。わかるであろう?ひとは二十万年も生きられぬ」

『それは貴国の勝手な推測にすぎない。

 ちなみに問題の人物だが、二十万年昔も今も同一人物である事は証明済みだ。信じられないと勝手に思われるのは結構だが、これは我が国の公式記録にもある、まぎれもない事実なのですよ。

 それに、仮にそれが偽者の可能性が提示されたとしても、なぜ我が国に一言の相談もなく、しかも一方的に軍隊を送り始末しようとするのです?非常識どころではない、それは主権の重大な侵害であり、侵略行為に匹敵する問題行動と判断せざるを得ませんな。

 というわけで、アルカイン国王レスタ殿に申し上げる。

 ただちにアルカイン防衛軍を引き上げ、かの者を無事に出国させるように。

 かの者が無事に出られればよし。

 しかし、もしも万が一の事があれば。あるいは、なくともこの通信の後に再度の攻撃が確認されたならば。

 我が国はただちにアルカイン王国の宣戦布告とみなし、臨戦態勢に入る事をここに宣言する』

 そう言うと、声は一度途切れ、そして、

『なお、この宣言は脅しではなく条件が揃えばただちに施行される。ゆめゆめお忘れなきよう』

 その声を残し、通信は切れた。

「……なんともはや」

 ふう、と国王レスタはためいきをついた。

 彼の任期は二十年を超えているが、実は今までボルダの大神官と直接対話した事はあまりなかった。ボルダは隣国であり友好国であるにもかかわらずである。

 しかし、これは無理もない理由があった。

 確かにこの(アルカイン)隣星(ボルダ)は昔から友好関係にあるが、実はボルダと友好関係にあるのはアルカイン王宮ではなく、楽器工房(ナーダ・コルフォ)の方なのである。

 そもそもアルカインは銀河連邦の議長をするために作られた、いわば人造の王国なのである。ゆえに連邦側からはこの星の代表は王国となっているが、そんなこの星の内政事情など、古くからこの星とつきあっている国にとっては関係ない。

 そう。

 連邦以外の多くの星にとり、この星の代表は今も王国ではない。楽器職人ギルドなのである。

 さて。

「どうしたものかな。ボルダとの関係が悪化するのは非常に困るのだが」

「なぜですかお父様?銀河の危機というお話はたった今申し上げたはずですけど」

「ソフィアよ。そなたボルダの国教を知らんのか?」

「はい?あの、エリダヌス教の系列と聞いていますが、それが何か?」

「何か、ではない。

 そなたが殺そうと躍起になっている相手はメヌーサ・ロルァ、エリダヌス教徒にとっては女神にも等しい存在だぞ。

 問題にならぬわけがない、むしろ現時点で戦端が開かれてもおかしくないほどの状況なのだぞ?」

「えっと……ですから、それの何が問題なのです?」

 ソフィアは首をかしげた。

「確かにボルダ一国にとっては大問題なのかもしれません。

 しかしボルダは恒星間航行技術を持つ星間国家ではありませんよね。となれば他国とのおつきあいも我がアルカイン以外にはおそらく存在しないわけで、たとえ彼らが何を問題にしようとしても、それは二国間に収まる問題ではないのでしょうか?

 そして事態は、申し訳ないですけど、いち地方の宗教国家ごときの小さな問題ではなくなってしまっているわけで──」

「ソフィア!」

 言葉を続けようとするソフィアを、レスタは大声で止めた。

「わしはなソフィア、おまえを研究者として好きに生きさせてやるつもりだった。そもそもアルカイン王家は万世一系というわけでもなし、おまえが継がなくてはならないわけでもないからな。

 ……だが今、おまえにきちんと帝王学を授けなかったのを後悔しておるよ。ソクラスのやつに苦情をもらった時、もう少し考えるべきだったな」

 ふうっとレスタはためいきをついた。

「ボルダは確かに宗教国家だしあの通りの国ではあるが、未開文明だなんてとんでもない。

 あの国は資源の関係で機械技術こそ遅れておるが、代わりにバイオテクロノジーの世界では屈指の実力を誇る国なのだぞ。その莫大な利益で恒星間の交易も行っている。連邦とつきあいのない国が多いが、わかっているだけでも8つ以上の国と取り引きがある。そう、おまえと親しくしているあのアルダーの老人のところもその一つだぞ」

「……えっと、そうなのですか?」

「ああ」

 ソフィアの驚いたような顔に、レスタはためいきをついた。

「まぁよい、そなたもイーガのお妃になろうという身だ、帝王学は今からやってもよかろうよ。

 それよりも、ただちに軍を引き上げなさい。このまま再戦などしてしまっては大問題になる。ただちに」

「お父様、その事なのですが……どうしても引き上げねばならないのですか?」

 レスタの指摘にソフィアは眉をよせた。

「相手はこの銀河に巨大な災いをばらまこうとしている存在なのですよ?それをみすみす見逃して、取り返しのつかない事になってしまったら、それこそ」

「ソフィア、まだわからぬのか!

 いつもの聡明なおまえはどこにいった?

 原種主義は確かに重要な考え方ではあるが、だからといって全銀河戦争の危険を犯してまで死守するべきものでもない。なぜそれが頭のいいおまえに理解できないのだ?」

 レスタの言葉は慟哭に近いものがあったが、これは無理もない事でもあった。

 一般には物凄く聡明な人が、ある特定の話題や事象になると急に愚かな行動を示す事がある。それがつまり、その人における(から)め手だの弱点だのと言われるのだけど、ソフィアにとってはこの、原種主義問題がそれにあたった。

 優れた政治的手腕をもち、星間戦争すら止める事のできる有能なソフィア。

 だがしかし、彼女の才能はあくまで人間同士の戦争や紛争に関するもの。原理主義問題などは専門外であり、しかも彼女当人の潔癖感や倫理観とごっちゃになっているもので、冷静に判断する事も難しい。

 そこまで考えたレスタは、ここで彼女を無理やり動かす事をとうとうあきらめた。

「もうよい、わかった。ソフィア、そなたは部屋に下がっておれ」

「えっと、お父様?」

「誰かあれ!誰でもよい、通信班!」

『はい、何でしょうか陛下』

 レスタの声に答えたのはオペレータ嬢ではなく管理システムだった。

 人間やドロイドでなく管理システムが答えた事にレスタは一瞬、違和感をおぼえた。しかし今はその時ではない。

「防衛軍に撤退の指示を出せ。これ以上あれに手を出してはならぬ」

『陛下。現在、防衛軍はソフィア姫の指揮下にありますが』

「緊急事態ゆえ、国王権限でわしに変更する。繰り返す、ただちに撤退させよ!」

『申し訳ありませんが、停止コードをお願いします』

 ピロピロッと音がして目の前に操作ウインドウが開いた。

 ちなみにこの対応は別におかしくはない。普段はこれらの操作は指示を受けたオペレータが行っているだけであり、本来は指揮権の変更には停止コードが必要である。

 やれやれと思いつつもレスタは停止コードを入れようとしたのだが。

「ウインドウを閉じてちょうだい、権限の移動は必要ないわ」

『了解』

「こらまてソフィア、そなた勝手に何をしている?」

「お父様こそ、勝手に撤退させないでください。相手は丸腰、つまり銀河を蝕む危険物を排除する最大のチャンスなのですよ?」

「……そうか、おまえはそう出るのか。ようしわかった」

 そういうとレスタは声を荒げた。

「警備兵!こやつを連れていけ!部屋に押し込め外に出すな!」

「お父様!?」

 親子がぶつかりあい、お互いの意見を通そうとしていた。

 それは本来、二人の相互理解のためにはあるべき対話だった。そう、本来なら。

 だが、この瞬間にはそれはまずかった。

 そう。

 ふたりの激突で防衛軍への指示が遅れた事が、取り返しのつかない結果に結びついていく。

「!」

 その時、警告音のゆうなサウンドが鳴り響いた。管理システムからのものだ。

「なんだ、どうした?」

『報告いたします。

 飛行物体を追跡中の部隊からの報告によれば、護衛と思われる戦艦級の未確認飛行物体が、目標のそばに出現したとの事です。これに投降を求める勧告をしたが逆に攻撃の意思を示したので発砲、戦闘に突入したとの事です』

「な、なんじゃとぅ!?」

「増援?まだ衛星軌道でも低い位置よね?こんなとこまでエリダヌス教の船が来たっていうの?」

『詳細不明です。映像はありますが……!』

 しかし次の瞬間、管理システムも黙ってしまった。

「どうした?何か変化があったのか?」

『防衛軍すべてとの連絡が今、途絶えました』

「……なに?」

 親子(ふたり)は、唖然とした顔でそこに立ち尽くしていた。

 

 

 

 メヌーサ・ロルァたちをどうするかでレスタ国王とソフィアは対立したと言われるが、これ自体は歴史上、問題にされていない。なぜなら連邦人としては二人の激突はむしろ当たり前で、しいて言うならば「ソクラスのソフィア」と言われるほどの人物でありながら、苦手分野はあるのだという事が、むしろ後年のソフィア研究家の間では好意的に受け止められてもいる。

 だが、この時に彼らがサッサと指示を出していればアルカイン警備軍の全滅もなかったろうし、いくつかの致命的な問題も先送りにできたろう。これもまた事実である。

 とはいえ、歴史は止まらない。

 この日、メル・マドゥル・アルカイン・アヤはメヌーサ・ロルァに連れられてアルカインを去り、そしてボルダの大使館が閉鎖になった。アルカイン王国内にいたボルダの人間たちも一斉に姿を消してしまい、ボルダ政府が臨戦態勢に入った事も伝えられた。

 同時に、ボルダの首都に置かれていたアルカイン大使館も大神官の命令で強制閉鎖になった。職員たちは本人たちもわからぬままにアルカイン王宮前に放り出されているありさまだった。

 時代はここで、大きな転換点を迎えようとしていた。


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