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銀の四番  作者: hachikun
12/22

激突前

 この原稿は試験的に一部、HP Stream11上でサクラエディタで書いています。いやぁ、ファンレスのこんな安いノートが新品とか。おっそろしい時代だなぁ。


「参ったわね」

 ソフィア姫が焦っている。

 反連邦に属する勢力が何故か異常に活気づいている件について彼女たちは情報入手していた。そもそも、だからこそメルをアルカインに呼び寄せ、そして所用で帝国まで出張してもらっていたアヤにも、そのままイーガで待機させ、安全を確保したわけだが。

「まさか、彼らの狙いがアヤでなくメルだったなんてね。しかも実行部隊に教祖そっくりの女の子(・・・・・・・・・・)まで仕立ててくるなんて!」

(すごい事になってきたわね)

(だねえ)

(あははは)

 かなり悩んでいるらしいソフィア姫を尻目に、オペレータ席についている三人の娘たちはお互いの顔を見る。

 彼女たちはひとりが人間で、あとのふたりはドロイド。

 少数精鋭であるため全員ドロイドでもいいのだけど、国王直結の情報部隊のオペレータが全員ドロイドでは信頼性に問題があるのではないか、という声に対応するために人間「も」配置している。そしてその者は責任者であり。万が一のドロイドの暴走などを見据えた監視的な役割も持たされている。

 しかし実際には「三人娘」は仲が良い。そんな表向きの言い訳なんて関係ないわと言わんばかりに、常に人もドロイドもごちゃ混ぜではある。

 そんな三人に、上からソフィアの声がかかる。

「メルの現在位置は掴めてるかしら?」

「現在ミタモヤ自然森林公園の中に入っていった模様です」

「自然公園?誰かと待ち合わせでもするのかしら?」

「今のところ、近郊には誰もいないようです。少なくとも対人反応はありません」

「人間はいないのね。じゃあドロイドはいる?」

「いえ、誰も」

 ソフィアが「ドロイドは」と尋ねた瞬間、彼女たちはわずかに眉をよせた。

 女学生集団のように(かまびす)しい彼女たちだが、もちろん仕事は優秀である。だから最初から対人反応としてドロイド用センサーの情報も混ぜて伝えていた。理由は簡単で、メルの肉体が対人センサーでなく、ドロイドむけのセンサーに反応するからだが。

 そして、それらはソフィアも知っているはず。

 なのにメルを人間と考え、別途『ドロイド』を探させるソフィアの指示に微かに悪意を感じていた。

(げげ、またお姫様のドロイド嫌いが進行しちゃったかもー)

(七型のアヤがついてて、しかも便利に使ってんのに?なんか感じわるーい)

(まぁまぁ。でも困ったものよねえ)

 連邦においてドロイドは道具であるから、これは問題にはならない。ソフィアが悪いのでもない。

 だけど、だからといって、全てのひとの気持ちまでも全部同じではない。

(ふぅん……だけど面白そうじゃない?

 もしあのメルちゃんが言い伝えの通りの人だっていうんなら、こんなところでどうにかなるわけがないしね)

(聖女様じきじきのお迎えだったんでしょ?いいなー見たかったなぁ)

(シッ!お仕事中にあっちの話はダメだって!スパイか何かと思われるよ?)

(うげ、くわばらくわばら)

 アルカイン王宮にドロイドの兵士はいないが、反面、医療や事務系にはたくさんのドロイドが存在している。そして彼女たちの全てはメルが何者であるかをある程度知っており、中には城内でソフィアとはぐれたメルに偶然を装って道案内したり、ソフィアが職務中とみるや声をかけた食事に誘う者までいる始末。

 そう。

 直接誘導したわけではないが、メルが外に遊びにいけるよう警備の穴を教えていたのも彼女たちだった。

 彼女たちの所属はアルカイン、つまり連邦側。だから迷子の案内程度ならともかく、逃げ出す手助けをするわけにはいかない。

 でも、だからといって、自分たちの世界そのものを左右する存在を放置できるわけがない。

(何もできなくてごめんね。でも、がんばれメルちゃん!)

 彼女たちの脳裏にメルとの食事風景が蘇る。

 何でもないようなメニューなどを知らず、わたわたと慌てるメルに内心クスクス笑いつつ助けてあげた時のこと。

 情報戦略なら最強のはずの七型由来のボディを持ちながら、なんと城内で迷子になるというあり得ない失敗をしたメルを助け、仲間内で大笑いしつつも「困ってたら助けてあげようね!」「うん!」なんてやりとりをしてた時のこと。

 助けてあげたい。

 その気持ちは、城内にいてメルと直接やりとりをした、ほとんどのドロイドの共通した思いだった。

 と、そんな時。

「!」

 彼女たちのひとりがとんでもない情報に気づき、思わず顔色を変えた。

「ソフィア様!緊急情報です!ミタモヤ自然森林公園が突如として動き出したそうです!」

「は?公園が動き出した?どういうことかわかる?」

「そのままです!公園の敷地全体が切り離されたように突如として浮き上がったそうです!

 今のところ正体が不明ですが、警備隊によりますと、公園の地下に何らかの飛翔物体が配置されていた可能性があるとの事です!」

「何らかの飛翔物体?正体はわからないの?エンジンの反応なんかは?」

「今のところ、エンジン反応は全く認められません。しかし相手は未加盟国ですから、連邦で把握していない特殊な動力機関を内蔵している可能性もあるかと思われます」

「わかったわ、調査を続けて。あと誰でもいいから警備隊につないでちょうだい」

「了解!」

 

 

「!」

 ずん、と大きな振動が森全体をゆらした。

 いつのまにか風が吹いていた。森の周囲は幾重にも束ねられた光の帯がすっぽり包み半透明のドームのようになっていたが、その向こうに見えていたはずのケセオ・アルカインの街並みはもう見えなかった。

 空を飛んでいるのだと、メルは改めて実感していた。

 周囲は相変わらず森の風景。広がる木々も、それどころか、少しなら鳥の声すらも聞こえていたりするのに。

 なのに、外の風景は変わっていくのだから。

 しかし。

「今のは何?」

『攻撃のようです』

「なに!?」

「来たわね。アルカイン近衛軍」

「軍!?なんで、どうして!?」

「あは、わからない?そっか、メルなら確かにそうかもね?」

 メルの困惑に対し、メヌーサがけらけらと笑った。

「ここでわたしたちを逃せば、銀河連邦は屋台骨からひっくりかえると思っているのよ。おばかさん、そんなことありはしないのにね。

 たとえどんな命だろうと銀河文明の一員には違いないわ。彼らは今の暮らしを維持したまま内側から変わるだけ。平和な暮らしをわざわざ変えようなんて思うもんですか。

 それでも連邦が倒れるというのなら、それは自らの偏狭さが招いただけのこと。ただの自爆行為よそれは」

「ちょっとまってメヌーサ。それはどういうこと?」

「ん?」

 メルが眉をしかめていた。

「銀河連邦が倒れるってどういうこと?私はそんなこと聞いてないけど?」

「そりゃそうでしょ、だって、わたしたちには関係のない話だもの。彼らが勝手に自爆するだけの事よ」

 メヌーサはすました顔でそう言った。

「あのねメル、原種主義という考え方があるの。

 彼らはね、宇宙に広がるために自分たちの方を変えるなんてことは認めない。ちょっと遺伝子が狂っただけで子供を残すことすら認めず、腐ったものを選り分けるように社会から排除する人たちなの。でも」

 そこまで言うと、メヌーサは苦笑した。

「そもそも彼らが言う『自然な進化の元で生まれた生命体が絶対で、それを変える事は許されない』って何を根拠に言ってるのかしらね。そもそも『自然な進化』ってなぁに?」

 小馬鹿にしたように肩をすくめてみせる。

「なんておバカ。その自分たちこそ、過去に誰かの都合で作られ、ばら撒かれた者たちなのにねえ」

「作られ、ばら撒かれた……?」

 メルがメヌーサの言葉に眉をよせた、その瞬間だった。

 通信波から響くような声が、メルたちの脳裏に直接、強烈に響き渡った。

『こちらアルカイン近衛軍、先遣部隊。正体不明の飛行物体に告げる。汝の所属とその意志を明らかにせよ。

 破壊許可が出ている。返答なくばこの場で撃墜する』

「ふん、そもそもカケラも残す気ないくせに。体裁だけは整えたがるのね」

 メヌーサは恐れてなどいないようだった。宇宙戦争すらできる強大な軍が迫っているというのに。

「メル。その杖を使ってごらんなさい」

「杖を?」

「そ」

 ずっと持ったままだった杖に目をやった。

「メル、あなたはアヤとは違う。身体は確かに優れた能力を持っているだろうけど、あなた自身はただの人間。あの子のように戦うことはできないし、戦えばおそらく自滅する。だから、わたしはその杖をもってきたの」

「いや、そう言われても私、戦いなんて」

 メルの苦情を聞いていないかのようにメヌーサは続ける。

「わたしは防御はできる、盾だからね。彼らの攻撃など届きはしないわ。

 だけど打ち破る力はない。完全に囲まれたらそれを破ることはできないの。

 だけどメル、あなたがその杖を使えば破れるのよ」

「いや、だからそんなこと言われても」

「心配いらないわ。その杖には増幅能力も何もない理力の杖にすぎない。初心者の巫女が修行に使うためのものよ。

 だけど、だからこそメルなら問題ないの。なんたって、メルには魔導コアがある。わざわざ後付で増幅しなくても、莫大な魔力を放出できるんだからね。あとはそれを杖で制御すればいい。

 ただ魔力を通すだけ、それだけで全てをひっくりかえせるわ」

「だーかーらー……!」

 メルが反論しようとした、まさにその瞬間だった。

 ずずん、という音がした。

 ただし今度の揺れはかなり大きかった。何かが壊れるような派手な音もした。

 外の状況を確認しようとメルは目をやって、

「……な」

 そして、それに気づいた。

「なに、あれ」

 見れば半透明のドームの向こうに戦艦らしき船が見える。それも一隻や二隻ではなく。

 ……無数!

「な……なにこれ?」

 後にメルはこの時の風景を、こう述懐していた。

 

『すごかったよ。まるで、アフリカの空を埋めつくす渡り鳥の群れみたいだった。あれが全部戦艦だなんて』

 

「なにこれ!」

 さすがのメルの声にも余裕がなくなってきた。

「へえ、すごい数ねえ。さすがのわたしにもちょっと荷が重いかな。あれに集中砲火食らったら」

「そんな軽々しく言うことかよ!死ぬんだぞ!?」

 メヌーサの軽口にメルが眉をしかめた。

 しかしメヌーサは苦笑すると、首を横にふった。

「だから何?」

「え?」

「あのねメル。

 わたしはこの日のために生きてきたのよ。とても、とても、とっても長大な時間をね。たくさんの種族が生まれて消えた。滅亡というやつも何度となく目にしてきた。数え切れないほどいっぱいね。

 メルにその途方もない長さを理解しろなんて言わないけど……。

 でも正直、もう一度繰り返すのはごめんだわ。

 どのみち、もうエリダヌスの流れは止まらない。ここでわたしたちが全滅したところで大筋はもう変わらないの。

 だったら、ねえ。

 終わりがくるというのならそれでも別にいい。バッドエンドでも別にかまわないわ」

「……ちょっと待てよ」

 バッドエンドでかまわない、のひとことのところでメルの眉がつりあがった。

 

 正直、メルにもわかってはいた。

 確かに途方もない年月とは聞いた。せいぜい幼女に毛が生えたくらいにしか見えないこのちっぽけな女の子が、実は気の遠くなるような年月を生きている存在だと。確かにそう聞いた。

 だけど。

 だけど、頭で理解できても、メルの心はそれを受け付けなかった。

 どんな理由があろうと、どう見てもガキくさい年代の女の子の姿をしたものが、まるで枯れ果てた老女のように、もう満足よと言わんばかりに達観してしまっているのが、どうしようもなく不愉快だった。

 だからメルは、その心のままに行動した。

「……ふざけんな」

「ん?なに?」

「ふざけんなって言ったんだよ!」

「……」

 メヌーサはというと、メルの剣幕にちょっとだけポカーンとしていた。

 だけど少し目が宙をさまよい、そして「ああ」と言わんばかりに優しい目に変わった。

 もっとも、それを彼女はまだ態度に出してはいないが。

「教えろ」

 メルはメヌーサに、ほとんど噛みつかんばかりに迫った。

「杖の使いかたを教えろ、魔力を通すってどうやるんだ。今すぐ教えろ、何がなんでも使いこなしてやる!」

「うふふ、そんな気負わなくてもいいのよ」

 そんなメルの激昂にメヌーサは老女のように静かに笑うと、

「心で杖に呼びかけなさい。『応えよ』と」

「呼びかける?それだけでいいのか?」

 ええ、とメヌーサは言った。

 そうか、やってみるとメルは頷き、そして杖を持ち上げ(ひたい)にあてた。

 そうした瞬間、メルの表情から、怒りや憤りといった荒れ狂った感情が掻き消えた。まるで何かのスイッチが入ったかのように。

 そしてメルは、

『応えよ。応えてくれ、杖よ』

 たったそれだけを、口に出さず心の中でつぶやいた。


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