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4.

――キーンコーンカーンコーン


 本日の授業の終わりを告げるチャイムの音が高校中を鳴り渡る。

 放課後にもなると昼はそうでもなかった雨も本降りになっていた。

 家から出ないときの雨は音とか、景色とかが結構好きなんだが。やはりこの秋真っ只中の寒い時期に振られると正直気が滅入ってしまう。


 授業が終わった今教室に長居する意味もない。

 俺は部活動の活動をするために席を立つ。


「じゃ、俺は部活があるから」


 後ろの未皐に一声かける。


「はぁ、よく言うよ、全く。」


 未皐はあきれたように言う。


「じゃあな」


 そう言って俺は教室を後にした。

 

 昇降口まで得にすることもないのでなんで未皐があきれていたのかを説明しよう。

 俺の入ってる部活はあの(・・)帰宅部だ。部活に入っていない人を帰宅部と呼ぶ風習がどこかにはあるらしいがそれはにわかだと断言しよう。帰宅部は部活動として存在する。現に俺は正式に帰宅部の部員ということになっている。何故こんな事になっているのかというと、この高校は全ての生徒が部活に入らなければならない、といった何故あるのかも分からない校則があるからだ。勿論部活なんてやりたくない俺は部活一覧の最後にある帰宅部を選択せざるを得なかったという訳になる。

 そんなくだらない暇つぶしをしていると昇降口へ到着した。今日の帰宅部の課題は如何にして雨の中を濡れずに帰宅するか、と言った所だろうな。

 

 靴を履き替えた後、クラス別になっている傘立ての方へ目をやると女子生徒が傘を捜しているらしく、がざごそとやっているのが見えた。


「ん?」


 あれは、神崎……?

 確かあいつは4組って話じゃなかったか?

 なんで1組の傘立ての中を捜してるんだ?


 そんな事を考えていると目的のものが見つかったのか傘を1本抜き出して満足げに眺めだす神崎。


 おいおい。ちょっとまて、あれは俺の傘じゃないか?

 ここからでも分かる。俺の傘には藍色をしたシリコン製だかなんだか知らないが輪っか状の目印がついている。それが今、神崎の持っている傘に付いている。そして、傘立てにはまだ沢山の傘が置かれているが、そちらの取っ手に目印が付いた傘はない。


 神埼はキョロキョロとあたりを見ながら4組の下駄箱へ歩き出す。しかし、神崎はすぐに俺の存在に気づく。


「あ……ぁ……」


 神崎は驚いた表情で声にならない声を出す。

 俺の傘をどうするつもりだったのだ、こいつは。


「それ、俺の傘、だよな」


 傘を返してもらうために近づき、話しかける。


「あ……そ、そう、だけど」


 神崎は言葉を詰まらせながら返す。


「なんで神崎、さんが持ってるの?」


「ぁ。それは、ちょっと、使おうと思って」


 わざわざ盗みやすい他のビニール傘じゃなくって、俺のしるし付きの傘を何故選んだのか。

 俺への嫌がらせの為か?

 人間恐怖症だと言っていたがやっぱり俺のこと嫌いなんじゃないのか?


「それは、俺にびしょ濡れになって帰れって言う事か?」


「ちがっ! そ、そうじゃなくって。そういう使い方じゃないの!」


 そういうってなんだ。どういう使い方を考えているんだ?


「とにかく傘は返してもらうよ」


 そういって俺は神崎の手から傘を回収して学校を出る。


 神崎は傘を持ってないかもしれない。でも、悪いがそんなことは知ったこっちゃない。もし俺が傘を忘れたら他の人のを取ったりしないで濡れて帰るし、それは当たり前だと思っている。それに、神崎は使うだけじゃなくわざわざ俺の傘を取ってなにかしようとしていたかもしれないのだ。

 

「はぁ……」 


 結構振っているとは思っていたがかなり土砂降りだな。これは学校で雨が弱まるのを待ったほうがよかったか?

 でも、それだと神崎に傘を取られていたかもしれないな。

 くそ、なんで俺は神崎に嫌われているんだ?

 理不尽だ。

 本当に、恨むぜ。神様よ。

 

「ただいま」 


 俺が家に付いた頃俺の精神状態は再び憂鬱モードに突入していた。

 憂鬱な気分なのは雨の所為だけではないだろう。


「おかえりー、ってすごいびしょびしょじゃない!」


リビングから顔を出した妹に出迎えられる。


「ああ、すごい降られた」


「早く風呂はいっちゃいなよ」


「言われなくてもそうするよ」


 

 それにしても今日は濡れないで帰る予定だったのにあの出来事の所為で精神が乱れ、かなり濡れている、言い換えるならばびしょびしょだ。

 成績をランク付けするならば[ランクF]。

 そんでもって評価は[傘さしてる意味あるの?]である。何を考えてるんだ俺は。


 さっさとお風呂に入ってさっぱりするのに限るだろ。


 俺は機械的にシャワーを済ませる。今の俺が湯船につかりながらフンフン鼻歌を歌う気分なわけがない。

 入浴時間は今までの最短記録を更新したかもしれない。

 着替えを済ませ、軽くドライヤーをかけた俺はリビングにいる妹に晩飯はいらないと伝えて2階の俺の部屋へと上がる。


「なんか、運動してないに疲れた。メンタル的に……」


 そんな独り言を呟きながらベットへ倒れこみ、目をつぶる。

 

 俺が現実から意識を手放すのにそう時間はかからなかった。

13/10/19 そこそこ修正

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