2.
現実逃避をしよう。
あの出来事から3年が経った。
俺はそこそこの学力の家から近い高校に進学し高校2年となっていた。
落ち込んだ俺は誰も信じるまいと学力に励んでいたのだった。
勿論俺だけが年を取るわけもなく妹は俺の通っていた中学校で2年生をやっている。
そして俺は希望も虚しくいまだに彼女いない暦の自己ベストスコア更新中である。というかいない暦=年齢であって……なんだか考えてると悲しくなってきた。
「いや、彼女がいる奴が必ずしも充実しているとは限らないじゃないか!」
などと自分に言い訳をしてみたが友達も少ないことと相まって虚しさ絶賛5割り増し状態だ。
「なにいきなり意味不明なこと叫んでるのよ、寝ぼけてるんじゃないの? そんな事より早くしないと遅刻するよ?」
と亜衣が言う。
寝ぼけているわけじゃない、現実逃避をしていたんだ。
どうしてこうなった。予定では高校に入る頃には引きずらなくなって高校デヴューしようと思っていたのだが、あの一件以来なんだか無気力感が増した所為か高校に入ってからも生産性のある行動が全く取れていない。
そもそも今遅刻しそうになっているのは長い間使っていた目覚まし時計が壊れた所為だ。
俺はこの目覚まし時計でないと起きれないというほどにこの目覚まし時計に頼ってきた。寝ぼけて合掌なんかしてる場合じゃなかった。中学の頃はあの出来事の所為で皆勤賞を惜しくも逃してしまったが、高校こそは皆勤賞を狙っているのだ。このままだと皆勤賞は俺の手の届かないところへ行ってしまう。
俺は朝食のおにぎり(俺は和食派だ!)を口に突っ込みご飯を食べる。
「今日午後から雨振るらしいから傘持って行ったら?」
「今日雨振るのかよ・・・」
おにぎりを飲み込んだ後亜衣のお天気情報に返事をしつつ2つ目のおにぎりを口に詰め込み急いで家を出る。
もちろん傘は持った。これでパーフェクト!だ。
「いってらっしー」
亜衣の間の抜けたような声を聞きつつ家のドアをくぐる。
「(モゴモゴ)」
行ってきますと言ったのだ。口は今おにぎりで塞がれているということを忘れてはならない。
亜衣は振り替え休日だかなんだかで今日は学校はお休みらしい。正直遅刻しそうなので実は俺も開校記念日で休みでした~、なんてオチに収束して欲しいのだが勿論そんなはずもなく俺はダッシュで学校に向かわねばならない。
1つ目の角を転びそうになりながら曲がると、やっとおにぎりを飲み込んだ。
そして数十秒後2つ目の角を曲がる。
その時、俺は重大な事に気が付いてしまった。
せっかくこの土日の休日を潰して書いたレポートを持ってくるのを忘れてしまった。
あれは俺の大傑作のレポートだ。こんな事でなかったことになるのは非常に惜しい。期日は今日まで。遅刻までは後15分、学校まで歩いてだいたい30分。走って行った事はないから走って何分かは知らない。急げば間に合う、よな?
そんな事を考えつつも俺の足は既に家の方向へ向かっていた。
今ちょうど曲がった角を戻るため先程曲がった右とは反対の左への急カーブもとい直角にINコースを決める。
どすん。
「きゃ!」
「うおっ」
突然俺の厚くない胸板に衝撃を受ける。
衝撃によってうろたえる俺はどうにか立ち直り、前を見ると女の子がしりもちを付いている。なんということだ、どうやら俺は曲がり角でこの女の子を突き飛ばしてしまったらしい。人通りのあまり多くない道だから油断していた。
「ごめん! 大丈夫!?」
いまだにしりもちを付いて俯いている女の子にいたわりの言葉をかける。よく見ると俺の学校の制服を着ている女の子は自分を抱きしめるように腕を回している。もしかしたら怪我をさせてしまったかもしれない。
「も、もしかして怪我とかし……」
「(ぶつぶつ)」
ん?なにか呟いている。何を言っているのか聞き取ろうと俺はよく耳を澄ます。
「穢された穢された穢された穢された穢された……」
ヘ……?
この女の子は何を言っているのだ。
自分でも顔が引きつって行くのがよぉくわかる。
け、穢された?怪我させられたの間違いじゃなくって?
「あ、あの……」
恐る恐る女の子に手を伸ばす俺。
女子学生と俺のハンドの距離が10センチメートルほどになろうかといった時。
「触らないで!」
がばっ、と。突然その女の子が顔を上げる。
いきなりのことだったから少しビクッとなって距離をとってしまう俺。
その女子生徒はひどく嫌悪感に満ち溢れているといった表情をしており、正直、ものすごくショックだった。しかも容姿は今の表情でも分かるくらいに可愛い顔をしていると思われる女の子だったのでさらにショックを受ける俺、ダブルショック。
多分怪我させられたじゃなくて穢されたであってたんだろう……な。
「えっ?」
女の子は俺の顔を見ると疑問の声を上げるとともに表情が疑問のそれへと変わってゆく。そして今度は何か大変な過ちを犯してしまったときのような絶望した表情へと変えていく女の子。
一体どうしたんだ、この女の子は。
「あっ、違うんです。さ、さっきのは違うんです。そういうつもりじゃなくって」
いきなり弁解し始める女の子。
どうせ俺はいつの間にか初対面の女の子にすら汚物扱いなんだ。
家に帰りたい。
「ハハハ……気にしなくてもいいよ……ハハ……」
今俺の顔は今にも泣きそうな顔をしているんだろう。
「本当に違うんです! 誤解なんです! 信じてください!」
今になってそんな事を言われても信じられるわけがない。それにさっきの表情はどう見ても本物だった、心のそこから嫌な顔をしていた。
「もういいよ、もういいよ!」
俺は叫びながら後ろを向いて走り出す。
「あ、待って!」
女の子が叫ぶが待つわけがない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
もう俺、こんどこそ立ち直れないかもしれない。
13/7/28 一部修正