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第五話 風の声

荒野は強風になっていた。風に舞った砂埃が、西に傾いた太陽を覆う事もあり、荒野に影を落としていた。ロクとレナは、そんな荒野を二人で歩いている。ロクは敵兵の制服に、目には砂避けのゴーグルをし、口をスカーフで覆っている。レナはロクの前を歩かされ、時折後ろのロクの様子を伺っていた。


「なんで!?あたいの後ろを歩くのさ!?それもわざわざ足跡を踏むように追いかけるのさ!?」

「俺を地雷源に誘導しないようにさ!」

「くっ・・・」

レナは視界の効かない荒野を、夕日に向かって再び歩きだした。ロクはわざとレナの足跡を踏むように、レナの後ろ10メートル程を歩いていた。荒野は旧P4が近いのか、瓦礫になったコンクリート片が、所々顔を出している。気温が下がったせいか、風は更に強くなって視界が見えなくなるくらい荒野を覆った。


『瓦礫が多くなった・・・風も強い・・・夜になったら隙をみて逃げ出してやる・・・』

レナの頭には既に、仲間の元へ逃げる計画がたてられていた。

「ところで、なんで私が案内役なのよ!?他にも女がいたでしょうがぁ!?」

レナは後方のロクに向かって、不機嫌そうに叫んだ。


『若い頃のキキに似ているからだよな?ああ、性格はなつみそのものか?』

強風に乗って突然、ロクの耳に入る聞き覚えのある声がする。

『ほんと・・・ロクはいつもおいしいところを・・・』

「ダブル!?俺はそんなつもりでな、この子を連れて・・・」

声の主は、元四天王のダブルの声だった。声は強風に乗りロクの耳にだけに聞こえている。ダブルの姿は見えない。


「えっ!?どうしたの!?なんか言った!?」レナはロクの不思議な行動に足が止まる。

「あっ!い、いや別に・・・」慌てるロクに、次の声が続く。


『一理ある・・・ロクは昔から地味な女を好む・・・この選択は正しい・・・』再び聞き慣れた静かなる声。

「キーン・・・お前も居たか・・・?」呆れて頭を掻くロク。


「ほら!今、また何か言ったでしょ!?」レナは強風の中、ロクの微かな声をしっかりと受け取っていた。

「風の音だろ?強くなってきたからな?」ロクはレナの質疑を軽く流す。


『じゃじゃ馬な所は、直美さんに似ているよな?美しくしさでは足元にも及ばんがな・・・相変わらずの単独行動・・・もっと自重しろよ?仲間に迷惑を・・・』また違う声が、ロクの耳に届いた。

「お前もそこに居たか・・・?バズー?なんでお前らが・・・?」今度はレナに聞こえないよう、小声で呟く。


「ほら!?また何か言った!あたい、耳だけは良いんだから!誰と喋ってんのよ!?」

「独り言だ!ほっとけ!」

「ブツブツと気持ち悪いぃー!」諦めたのか、再び前を向いて歩きだしたレナ。


「ほら!?お前らのせいで変人扱いされた・・・」今度はロクが風に語り始める。

『いつもの事だろ?変人だし・・・』とダブル。

『それも一理ある・・・』とキーン。

『どうせお前は、女、子供は怒れんくせに・・・』とバズー。


「はいはい・・・ちゃんと行きますよ!だから俺に語り掛けるな!って言うか?キーンとバズーは要らんでしょ!?」


「あいつ・・・絶対に頭が変・・・」再び独り言を言うロクに対し、後ろを振り向きロクを睨むレナ。二人の進む先には、旧P4の瓦礫の街が怪しく長い影を帯びていた。


「なんで街まで歩きなのよ!?それとさっきのあたいの質問聞こえなかった?どうしてあたいを選んだのさ!?」レナの諦めに近い質問が始まる。

「女って生き物は、明日も生きてやろうって生き物だろ?」

「意味わかんない・・・」

「男は追い詰められると、死に急ぐのが多い・・・俺の仲間たちもそうだったしな・・・途中で舌でも噛まれたら困るしな・・・家族がいるんだろ?生き延びろよ?」寂しさを堪えて気丈に微笑むロクに、何かを感じたレナ。


「この立場で生きろと言われても・・・あんたも沢山の仲間を亡くしたんだね・・・?家族は?」

「いない・・・」

「ふーん・・・」

「少し寄り道をするぞ!」

「お好きに!どうせこちらは捕虜ですから・・・」

他に何か沢山の事を聞き出そうとしていたレナだったが、風が強くて会話にはならない。



ある廃墟街に二人は居た。既に周辺は暗く、空には星が見え始めている。風はやや弱くなっていた。ロクはそんな中、ある物を探していた。

「確かこの辺りだったような・・・?」

「ねぇ?さっきから何を探してんのさ?」レナがロクに語る。

「砂が多くて埋もれたか・・・?時期にここも埋もれるな・・・?三年で30センチってとこだな?あと何十年もしたら、P4ごと埋もれてしまうな・・・」レナの言葉を気にせず、ロクは地面に目をやる。すると、あるいくつかのコンクリート片に目が止まる。


「あっ!あった!あった!・・・だいぶ砂に埋もれたな・・・?もう数年したら完全に見えなくなる・・・」

「あったの!?・・・だ、誰かの墓?」

ロクに近寄ったレナは、そのコンクリートがすぐ誰かの墓だと気がついた。

「ああ・・・俺の命を救ってくれた奴のな・・・」

ロクは寂しそうにレナ微笑んだ。

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