第二話 荒野の獣
レヴィア1番艦ブリッチ。狭いブリッチには4人のクルーがいた。
「敵SC左右に展開!!」ブリッチ左側の国友が叫ぶ。
「国友!距離を正確に出せ!各員左舷機銃に集中!」桜井が大声を張る。そのブリッチの後方で直美が、何かテキストを急ぎ捲り始めた。
「距離2000!!」と国友。
「了解!多聞!主砲用意!左舷45度、上下角二度!」桜井は内線のプレストークを握る。
『援護射撃かい!?今のあの人に必要かよ!?怒るぞぉ~!桜井!?この船に砲弾幾つ積んでんのか分かってのかぁ!?ここで無駄撃ち出来ないぞ!!』スピーカーに流れる砲撃主の多聞の緊張した声。
「砲弾は48発!魚雷18本!ちゃんと頭に入ってるよ!!ただ艦長がマイライフで戦うの初めてだろ!?援護くらい・・・」
『貴重な資源を破壊したら俺が怒られる・・・どうせ後方に下がれの命令だろ!?機銃で十分だよ!その機銃ですらこの船に近寄れればの話だが・・・?』
「いいから!4、5台でいい!ぶっ飛ばせ!」
『ヘイヘイホ~!』一転し、気の抜けた多聞の無線。
ジャガーの運転席。敵SC隊に近寄る新型ジャガーの前にレヴィアが主砲を撃ち込む。5メート程の高さにジプシャン軍のSCが3台程舞い上がる。それを見て嘆くロク。
「あーあー!俺そんなに信用されたないのかね・・・?砲弾の無駄だよ・・・残り46発・・・信用されてないのはお前の方かい?相棒!?」
ロクは軽くハンドルを叩いて見せた。目の前には敵SC隊が展開する。ロクはギア側のガトリング・バルカンのコントロールスティックを握り押し付けた。するとジャガーの屋根部分から二門のガトリング・バルカンが迫り出す。
「行きますよ!?」狙いを定めるロク。
今から2日前・・・旧埼玉、三郷付近。月も出てない暗闇の夜。ある老人がそんな暗闇の荒野を急ぎ歩いていた。時折後ろを振り向いては足を引き摺り、少ない瓦礫を背に歩いている。しかし遂に力尽きたか、荒野に倒れてしまう。夜空の星を見上げながら息の荒い老人は、ゆっくりと目を閉じていく。
何時間が経過したのか。東であろう空がやや青くなっていた。夜明け前なのか風もない荒野で、老人の荒い息づかいだけが響いていた。するとその荒野に獣の鳴き声が遠くに聞こえてくる。目を閉じていた老人が本能なのか、その鳴き声に気づき目を見開いた。辺りを慌てて気にする老人。するとその獣の鳴き声は、徐々に近寄ってくる。
「お、狼か・・・?ま、まさかな・・・?」
近くのある瓦礫を見つけた老人は、立ち上がる事なくその瓦礫に身を寄せ壁に寄り掛かった。すると遠くに赤い目のようなライトを確認する。その赤い目は獣の鳴き声と共に、真っ直ぐ近寄って来た。
「み、見つかったか・・・?これまでか・・・」
老人はそう呟くと、眠るように荒野の中に顔を付け倒れていく。赤い目は老人のすぐ側まで近寄っていた。
その老人はベットで横になっている。腕には点滴の管が刺され、息が荒いままだった。部屋の外から空気の流動音が聞こえ老人の耳に徐々に入ってきた。目が覚めた老人は目が虚ろになり、その部屋を隅々まで見渡した。所々逆さになった奇妙な作り。するとベットの脇には少女が座っている気づく。それは直美の姿だった。
「気がつきましたか!?上田さん!?」
直美は老人が目が覚めた事を心から喜んでいた。
「お嬢さん・・・?どうしてわしの名前を・・・」
上田と呼ばれた老人も、まず自分の安否やここがどこかのかよりも、なぜ見知らぬ少女が自分の名前を知っている事に驚いた。
「ここの艦長がそう呼んでたもんで・・・」
「艦長だと!?ここは船か!?」上田はようやく自分のいる場所を把握した。
「はい・・・元P6配属、レヴィア第一艦隊旗艦の1番艦。艦長はロク艦長です。」
「ロ、ロク・・・!?P6の四天王か!?あの坊や!まだ生きていたか・・・!?」上田は二度驚く。
「ええ!昨日の夜、荒野で上田さんを見つけたんですよ。そうそう!なんか彼、上田先生って言ってましたけど?お医者さんか先生なんですか?」
「いや・・・そうか・・・わし、助かったのか・・・」上田は改めて安堵し天井を見上げた。
「酷い栄養失調・・・足の傷も酷いです!あと2日もすればハエに取り付かれうじの餌でしたよ・・・」
「あんたまだ若いのに、ここの軍医か?」
「子供の頃から、応急処置くらいはしてたわよ!まあこの船の居候なんで、担当はなんだかんだ私になっちゃったけどね・・・しかも私は軍とか関係ないし!」
「そうか・・・子供らが・・・時代って奴だな・・・?」
「うふっ!」直美は上田の言葉に思わず吹き出してしまった。
「な、なにがおかしかったかい・・・?」
「いいえ・・・それ死んだ父がよく使っていた言葉だったんで・・・ついそれで・・・すいません・・・今、艦長たちを呼んで来ますね?」直美は笑いを堪えながらその部屋を出ていく。上田はベットからその姿を見つめて、再び天井を仰いだ。
レヴィアブリッチ。ロクや桜井らがブリッチにいる。そんな中に直美がタラップを掛け上がって来た。
「おじいちゃん、目が覚めたよ!!」
「そうか?体調はどうだ?」とロク。
「正直、酷い栄養失調・・・右足が腐り掛けていたし・・・この船ロクな薬ないじゃない!?」直美は深刻な顔をして見せた。
「艦長?どうします!?」重い空気の中、桜井が口を開いた。
「う、うん・・・そうだな・・・?」
「足を切断する・・・それしかないわ!命に変えれないもん!それにしたって薬品が足りない!ポリスに一度戻ってよ!」迷うロクに代わって直美が意見をする。黙り込む一同。
「戻るって・・・この船の足では4日は掛かりますよ!?」と桜井。
「ジャガーがあるじゃん!?あれならすぐでしょ!?行ってよ艦長!」
「うん・・・」言葉に困るロク。
「無理言わないで下さい!今は敵の陣地の中です!ジャガーがなければこのレヴィアは無防備です!それに俺たちは既にポリス軍を去った身です!それと・・・ロクさんの気持ちも察して下さい!」ロクの顔を伺う桜井。
「そんな事、言ってられる!?行くの行かないの?」ロク詰め寄る直美。
「薬だけ取りにジャガーでP6へ戻れってか?」
「あんたが行かないなら、私が行くわ!私にジャガーを貸して!?」
「おいおい・・・」直美の勢いに押されるロク。
「ですから直美さん・・・それじゃあこの艦の援護が・・・」桜井が直美を止めに入る。
「勝手に人の足を切るな!」ロクの口調が重くに変わった。
「そ・・・そうだけど・・・」
「俺が上田さんと話す・・・切るにしたってな、本人の同意が必要だろ?」
「まっ、まあ・・・そうだけど・・・」
「ここを頼むぞ!桜井!?」ロクはそう言うと、ブリッチを出ていった。不安がる直美たち。
部屋をノックする音。ロクが厳しい顔で上田が横になる個室に入って来る。
「おおっ?久しぶりだな小僧・・・?」
「先生・・・?」
「その顔では、俺はそう長くないようだな・・・?」
上田はロクの表情を見て、天井を仰いだ。
「足は急ぎ、切断しなければならないようです・・・」
「これか?ああ、長い間繋がれていたからな・・・」上田は自分の右足を擦った。
「他の連中は・・・?玉木司令は?」ロクは思い出したかのように玉木の名前を口にした。
「あのおばちゃんか・・・?今もあの地下に幽閉されておる・・・」
「た、玉木司令が・・・?生きてる・・・?」ロクは上田の言葉に驚いた。