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この女、退屈につき

作者: ルーシュ

俺の姉は、世界一ぐうたらだと思う。


朝起きたら『だるぃ〜』、勉強中に『たいくつ』、休みの日には『ひまぁ〜』、ゲームで遊んでる時も『つまんなぃ〜』

じゃぁ何をしてる時が面白いんだよ、と突っ込む時もあるが、返事は必ず

「知らな〜い」

だった。


でもそんな姉が、ある日突然、

「晶人〜、私ちょっと出掛けてくる〜」

「姉ちゃん何しに行くの?」

「世界征服〜」

「あそ。行ってらっしゃ……いぃぃ!?」

ぶっ壊れた。


×××


「姉ちゃん何考えてんの!? ってか大丈夫!? 姉ちゃんいつも変だけど、今日はいつにもまして変だよ!!」

「よかったじゃん。これで私も晴れて凡人の一線を越えて超人になったわけね。友達に堂々と姉自慢ができるわよ」

「できねぇよ!! っつかしたくねぇよ!!」

「はっはっは。晶人は本当にシャイねぇ」

「いや、そういう意味じゃ――――」

「安心して、晶人。私はずっとあなたの姉でいてあげるから。だから何も気にせず姉自慢してきてね。それじゃ」

「はぁ??…………ってちょっと待てぇぇ!!」


そんな俺の制止も聞かず、


姉は、(自称)世界征服に出掛けていった。


×××


「で、何するの?」

姉の愚行を黙って見過ごすわけにはいかないので、結局俺までついてくることになった。

ホント、この姉どうにかしてほしい。「さっきから言ってるでしょう。世界征服よ」

「あんたその意味分かってる? 世界ってのは広いんだよ。世界地図はカバンにおさまるけど、世界そのものはもっとでかいの。君はまだ、己の手がいかに小さき存在かを自覚してない…………」

「あ、あったあった」

「って無視かいっ!!」

華麗に俺の説得をかわしながら、姉は一つの店を見つける。

そこは、

「ここって…………ネットカフェ?」だった。

「じゃ、さっそく行ってみよう〜」

俺はネットと世界征服がどう関係あるのか全く分からず、しかし戸惑いながらもついていく。


×××


んで、一時間後

「ご利用ありがとうございましたー」

従業員のそんな声を聞きながら、俺等は店を出た。 「結局何がしたかったの? 世界征服って言ってたけど、ただパソコンでグラフみたいなの見てただけじゃん」

姉はそのグラフを見ながらしきりに指を動かしていたが、正直何やってんのか全然分からなかった。

だから俺は、別のパソコンを使って適当にどっかのサイトを見て楽しんでいた。

「下準備よ。世界征服は、結構時間がかかるからね……」

一時間で征服の下準備が終わるのか? と思うが、これ以上何か聞いても体力の無駄なので、スルーしておいた。

「じゃぁ次はどうすんの?」

「次はあれ」

そこは、

「……ただの銀行……だよねぇ?」

だった。

「じゃ、行ってみよう〜」

この姉……マジで何がしたいんだ?


×××


「ご……五億円んん!?」

いい加減叫ぶの疲れたけど、それでも俺は叫ばずにはいられなかった。

俺等が手にしてんのは正真正銘の五億。しかも現金だから、二人で二億五千万ずつ分担で。

「姉ちゃん、ダメだよ! 何が駄目って、全てが駄目だよ!! 銀行強盗は犯罪だよ!? オレオレ詐欺も犯罪だよ!? これじゃぁ世界征服する前から極悪人じゃん!」

「そんなことするわけ無いでしょう。これは全部私のお金」

「学生がそんなに金貯めれるわけ無いじゃん!! これ学生の年収平均バイト量の千倍はあるよ!」

「ほれ証拠」

姉はおもむろに貯金通帳を見せる。

そこには、一時間前に五億円が振込まれ、五分前に引き出された確かな記録があった。

「姉ちゃん……あのネットカフェで何したの?」

「ん? 株取引。もう少し稼ごうかと思ったけど、まぁこれで足りるだろうからやめにしたの。晶人はもう少し欲しかった?」

「いえ……結構です……」

姉ちゃんって一体……

と、また悩みの種が増える俺なのであった。


×××


「次は〜」

「おいおいまだあんのかよ……」

「まだまだ世界征服にはほど遠いわ。次は道具を揃えなきゃ」

「なるほど、それを買うために金を…………じゃなくて」

あぶないあぶない。危うく俺も変人になるところだった。

「いい加減やめようよこんな事。どうせ日本では銃だって核兵器だって売ってないんだよ? 世界征服に役立つものなんて、金があっても買えるもんじゃないよ」

「そうね。確かに一般では売ってないわ。でもこう思わないかしら? ――――売ってないなら、自分で作っちゃおうって」

「考えねぇよ!!」


なんて会話をしながら歩くこと数分。

「ここね」

そこは

「山本電気店……?」

だった。


×××


「お買い上げありがとうございましたー」

三人ほどのスマイルを只で貰い、

「お……重い……」

頑張って買ったものを運びながら、俺等、ではなく俺は店を出てきた。

「晶人ファイト〜。それ家までお願いね!」

「少しは運べよ!!」

「やだ。めんどくさいもん」

「――――!!」

「まぁまぁ、そんなに怒んないの。残りのお金は全部あげるから」

ちなみに、残った金額1253円。かなり中途半端だが、リアルな数字でもある。

「ってかどんな使い方したら五億円からこうなるんだ……?」

謎は永遠に謎のまま……


×××


んでもって家。

「なんだよ。結局征服もしないで家帰ってきちゃったじゃん」

「心配しなくても大丈夫。後二時間で世界は我が手に落ちるであろうふっふっふ」

「口調変わってるから。魔王並の口調に変わってるから」

「じゃ、ちゃっちゃとやりますか〜」

「姉ちゃん……もう俺ついてけない……」

「そう? だったらもう休んでていいわよ。後は私が一人でやるから」

「そうするょ…………」

そうして、電気屋で買った物品を姉の部屋に詰め込んでから、俺は消耗した体力を回復するため自室で一眠りすることにした。

「ま、家にいるなら大丈夫だろ…………」

買ったものはパソコン一つと、何に使うか全く不明なコード類、その他およそガラクタとしか言えないようなものばかり。

これなら世界征服はさすがに無理だろう。

そう思い、俺は目をつむった。


×××


「晶人〜、暇だからゲームしよ〜」

…………やっぱり。二時間も保たなかったか。

「世界征服はどうしたの?」

「つまんなかったからやめた」

姉ちゃん……

「それより早くゲーム。私暇で死んじゃうよ。それでもいいの?」

「人間はそんなことで死にません」

「甘いわね。私は兎のように繊細な心を――――」

「どこの世界に暇過ぎて死ぬ兎がいるんだよ! 兎は淋しくて死ぬの!!」

「じゃぁ今日はFFね。まだ全クリできなくて……」

「無視すんなぁ! しかもそれ一人用だから。俺できないから」

「ゲームスタートォ!」

もういいょ……勝手にしてくれ……


かくして、日々は過ぎていくのであった……






『――――つづいてのニュースです。本日午後三時頃、米国国防総省、通称ペンタゴンで、システムが何者かに乗っ取られる事件がありました。しかし犯人は何の行動も起こさず、数分後には再びシステムが復帰。危険視されていた核ミサイル発射装置にも異常はみられませんでした。国防長官によりますと、今のところハッカーの仕業だとして調べているということで――――』

〈終〉

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― 新着の感想 ―
[一言] 一通りよんでみて「もうすこしオチがあればなぁ」と思ってましたが最後に吹きました。面白かったです。
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