未来その0:変わらないものと変わったもの
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行為の英雄というものはない。ただ諦念と苦悩との英雄がある。
―― シュヴァイツァー 「自叙伝」
俺は、この世界で何をすればいいのか誰も答えてはくれなかった。
ただ悩め、迷えと苦難ばかりを与えるだけだった。
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「ねぇ悠樹。私魔法使えるらしいんだ」
普通なら何を寝言を言っているのかと小突きたくなるところだが……
「お前……何そのファンタジー」
日和の手の平に何やら赤い発光球が浮かんでいる。
「え、魔法……だよ?」
まるで当たり前だとも言わんばかりの顔で平然と答える日和。
「いや、そんな平然とされても」
現実離れしすぎて何が何だか……入ってくる情報が処理しきれない俺。そしてあっさり順応する日和。果たしてどっちが正しい反応なんだろう?
「出したのはいいんだけどこれ……どうすればいいの?」
「しらんがな」
その質問は例えるなら某ネコ型ロボットに自分が出した道具の使い方を聞かれているような、何を言いたいかって言うと……答えようがない。
「……ねぇ悠樹、ちょっとそこで待ってて」
何かを思いついたようにそう言うと駆けだす日和。10mくらい走ったところでくるっとまわれ右、こちらに振り返る。
「いっくよ~」
ピッチャーよろしく、大きく胸を張り振りかぶる日和。だから何故そんなに胸を強調するのか……と、そんなことを考えた瞬間。
「直球! すとらーいく!」
俺に向かって全力投球。いや、おいまて……
「投げるなー! ばかー!」
反射的に体を横に投げ出し回避。 弾速があまり早くなかったせいか余裕で回避、地面に伏せながら安心のため息がでる。
「何で避けるの?」
「正体不明の物体飛んできたら誰だって避けるだろうが!」
避けて何もなかったから良かったものの、もし当たって怪我でもしたら……
ドッコーン!
「え、爆発音?」
俺の後方で聞いたことのないような豪快な爆発音、そしてそれに続いて何かが崩れていく音が聞こえた。恐る恐る後ろを向くと焦げた色の砂礫が散乱していて多分大本であったであろう岩が無残に抉れていた。
あれが俺に当たっていたらと、一瞬想像……そして流れる冷や汗。
「あれは爆発するのか……覚えておこう」
俺の心日和知らず、なにか納得するように頷いている。
「……当たったらどうするつもりだったんだ? 一応聞いてやる、言ってみろ」
うまく呂律が回らない。いままで聞いたことのないような大きな音で心臓がバクバクいっている。
「その時はその時。きっとなんとかなるよ」
お得意の満面の笑みを浮かべ親指を立てながらポーズを決める日和。可愛い、そう確かに可愛いがとてもムカつく。だから叫んでやった。
「なんねーよばかー! 殺す気か―!」
空に向かって全力で叫んでやった。
未来でも、青く澄み渡った空が広がっていた。太陽も暑く光り輝いている。俺たちがいた現代と何一つ変わっていなかった……
でも、蝉の声は聞こえない。ただ、静かに世界は進んでいた。
ここからが一話目。こんかいは一話目のプロローグといった感じです。
ここからが本番……うまく表現できるように頑張ります。