彼方の出会い
W.B.11.6/21(ホワイト・バーチ、11年6月21日)
人類は人としての進化の限界を迎え、二つの道を選択することとなった。
一つは、自らの肉体を捨て、サイボーグとして生きる道。その機械的な見た目から、【メタル】と呼ばれた。
メタルは頭部と心臓、生殖器以外の肉体をすべて機械化し、強固な体を手に入れた。
一つは、自らの肉体を変え、ヒューマンのまま生きる道。その幻想的な見た目から、【エルフ】と呼ばれた。
エルフは肉体の化学的進化を行い、見た目の変化を伴う代わりに、優れた肉体を手に入れた。
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地球という器に限界を察した人類は、新たな道を選択することとなった。
メタルは地球を捨て、宇宙に居住地を移した。
そしてメタルが支配するコロニー【スケリア】を宇宙の海に建設した。
エルフは地球に残り、新たな秩序を作り出した。
そしてエルフの支配する組織【キャメロット】が、地球の新たな神として君臨した。
二つの人類は、互いの存在を【進化を拒んだ者】として、蔑み合いながらも、均衡を保っていた……
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後に【魔獣の日】と名付けられたその日、メタルとエルフとの戦争が始まった。
メタルは、新たに生まれる生命に授ける肉体を作るために、豊富な資源を地球に求めて。
エルフは、進化の代償で繁殖機能が著しく低下し、種の存続のために、生身の人間をコロニーに求めて。
互いに互いの欲望のために、争いは始まったのだ……
『彼方の出会い』
スケリアから地球に向かう一隻の戦艦【リヴァイアサン】
そのカタパルトデッキに、メタルの少年兵『黒鉄』はいた。
もちろんコードネームで、本名なんてものはない。
日本人の血を引く黒鉄は、生まれてすぐに借金の形に政府に徴収され、軍人としてメタル化を施されて、軍の飼い犬として暗躍していた。
そして今日は、エルフが秘密裏に開発を進めている兵器を奪取もしくは破壊する為に、メタルの暗部組織【デブリ】が動いていた。
「システム、オールグリーン。No.26黒鉄、出撃しろ!」
黒鉄が装着している黒衣のパワードスーツの通信機から、会ったことも話したこともない男の命令がくだされる。
「了解、作戦行動を開始する」
戦艦のカタパルトデッキから、電磁力によって得た勢いで、強制的に宇宙の海に投げ出された黒鉄は、スラスターを上手く使って前方へと飛翔した。
既にエルフの研究施設は判明している。
中立地帯【ブルーベルト】、ここでの紛争は禁止されていた。
だがエルフは、そこにメタルから離反した裏切り者と結託して、秘密裏に開発拠点を築いていた。
そしてこの任務は、黒鉄にとって片道切符の作戦だった。
リヴァイアサンは黒鉄を射出したと同時に、スケリアへと帰投している為、もう戻ることはできない。
作戦が成功すれば、軽微な出費で大きな戦果。
失敗しても、軽微な出費で敵戦力の把握ができる。
未練はない……何の為に生きているのかわからないくらいには、ただ息をしているだけの人生だった。
ブルーベルトに到達し、目標地点で大きな小惑星を捕捉する。
「微弱だが、熱源反応を感知……あれか……」
黒鉄は右手に持っていた、電磁砲の安全装置を解除し、左手に装着されたヒートブレード内蔵型の合金盾を展開した。
それと同時に、小惑星からエルフのパワードスーツが飛び出してきた。
メタルが【案山子】と呼んで馬鹿にしているエルフの主力兵器だ。
人型でありながら、エルフ特有の尖った耳のようなアンテナを持つのが特徴だが、数が多い以外の脅威にならない兵器だった。
数は七機、予想されていた数よりも少ない。
黒鉄は、飛び出したパワードスーツの動きに合わせて、電磁砲を偏差撃ちし、まず一機を撃墜する。
出撃早々に仲間が撃墜されたことで、案山子たちは慌て出し、その場に止まりだすカモ二匹を、黒鉄は見逃さず電磁砲を連射して撃ち落とす。
そして、安易に飛び出してきた一機に、体当たりすると見せかけて真横に一瞬ブーストすることで、回避と同時に胴体を切り捨てた。
残り三機、さすがに編隊を組み直して、黒鉄を囲みこもうとしてきた。
だが、それは黒鉄にとっては好都合だった。
薄くなった防衛ラインに、黒鉄は一気にブースターを吹き出して、小惑星に突っ込んでいく。
後ろから案山子の狙撃を受けるが、メタル化した黒鉄からしてみれば、常人離れした反射速度と機体制御で、必要最低限の動作で避けながら小惑星へと進んでいく。
黒鉄は、小惑星に擬態した施設の搬入口に向けて電磁砲を撃ち込み扉を破壊する。
そしてパワードスーツから、黒鉄は体を搬入口目掛けて射出した。
メタル化して、宇宙空間でも生存可能な黒鉄だからできる芸当だ。
それに気づかずに追撃してきた案山子は、その場で急に自爆したパワードスーツの爆発に巻き込まれて爆散した。
研究施設に潜入した黒鉄は、施設内の残ったエルフ兵と研究職員を全員殺害すると、ハッキングした情報から目的の兵器を探し当てた。
それはとても巨大な、そしてとても真っ白な物体だった。
まるで棺のような形をしたその物体は、施設からのハッキングを拒み、直接破壊しようにも、あまりの大きさでパワードスーツを失った黒鉄には不可能だった。
なんとかコックピットハッチを見つけて、黒鉄は巨大兵器の中に乗り込むと、長い通路の先に一つだけ用意された操縦席の真上に出た。
黒鉄は操縦席に座って端末を起動させると、どんな武装が施された兵器なのか確認した。
「システムは……生きてるな……使えるのは……太陽光を利用した推進システムと全方位電磁シールドだけ? なんだこれは? いったいどうやって戦うつもりなんだ?」
黒鉄は、さらにシステムの解析を進めると、謎のブラックボックスを見つけた。
Snow Whiteと記されたそれには、メタルの黒鉄でも、参照することが不可能だった。
「突破できない……? 解析に時間がかかりそうだな……まぁいい、とりあえず操縦はできそうだ」
そう言って黒鉄は、巨大な兵器を起動させた。
だがその瞬間——警告音とともに、機械音声が端末から流れてきた。
『警告、【クリシス】が発進シークエンスに入りました。搭乗者は目標地点の設定を行った後、速やかに本機から脱出してください』
「目標設定? 脱出? どういうことだ?」
黒鉄が機械音声の内容を聞いて、疑問を口にすると、それに機械音声が反応した。
『本機、【クリシス】は、太陽光航行での継続的な加速を行い、目標地点に到達した後、本機搭載の戦術核を起爆させて自爆いたします。搭乗者は目標地点の設定を行った後、速やかに本機から脱出してください』
「なっ!? 核!? 自爆!?」
そう……この超巨大特攻戦艦【クリシス】は、強力な全方位電磁シールドを展開しながら、太陽光を利用した推進システムで加速し続けて、目標に向かって突撃する核弾頭だった。
「ま、まて! 起動中止だ!」
だが黒鉄の言葉に対して、機械音声は無慈悲な内容を加えて返してきた。
『否定、本機は起動後の作戦行動を中止できません。目標地点の設定がされない場合は、初期設定目標に向けて発進いたします。搭乗者は目標地点の……』
「くそっ!」
黒鉄は決断を迫られていた。
解除できない以上、選ぶしかない。
自国か、それとも敵国か——
そして黒鉄は永い沈黙の後、一つの答えを口にした……
◇ ◇ ◇
あれから数日、黒鉄の答えは『銀河の果て』、つまりは永遠の航行だ。
もちろん限度があるが、それでも目算で数千万年の年月が必要になる。
そして黒鉄は、コックピットの裏にあった扉から、居住スペースを見つけていた。
脱出を前提にした戦艦だったが、マニュアルでの操縦も考慮されていたのだろう。
水の生成装置から人工植物園など、自給自足可能な設備が整っていた。
恐らくエルフは、この戦艦での特攻は最後の手段としていたのだろう。
でないと、メタルとの戦争に勝利しても、生身の人間は手に入らなくなる。
「まぁ、もう俺にはメタルもエルフも関係ないけどな……」
もう黒鉄が戦場に戻ることはない。
この棺桶の中で黒鉄は、初めての自由を手に入れた。
そして黒鉄は、とある扉の開錠に勤しんでいた。
扉を開けた先には、例のブラックボックスが"眠っていた"からだ。
そこには、【Snow White】……つまり生体CPUとして調整された、エルフの少女がポッドの中で眠っていたのだ。
扉を開くことに成功した黒鉄は、ポッドの側の操作盤に触れ、休眠装置を解除した。
まるで脈打つようにポッドが稼働すると、ポッドが装置から分離して、ゆっくりと扉が上に開いた。
純白のスーツに身を包み、美しい黄金色の髪をしたエルフの少女が、まるで合図されたかのように目を覚ました。
「……ここ、は……?」
エルフの少女は、翡翠色の瞳で黒鉄を見つめる。
黒鉄はゆっくりとエルフの少女の前で片膝をつくと、彼女に話しかけた。
「おはよう、お姫さま……俺は……黒だ、よければ君の名前を教えてくれるかな?」
黒鉄の言葉に、少女は綺麗に尖った耳をぴくっと動かしたあと、消え入りそうな声で話した。
「……No.4」
「……そうか、なら名前を考えよう……」
黒鉄はそう言って、少し考え込んでからまた口を開いた。
「そうだな……"4"だからフィーア、君の名前は『フィーア』にしよう」
「……フィー、ア……?」
「そうだ……安直ですまないが、俺は君のことをフィーアと呼ぶから、できるだけ早く慣れてくれ……」
そして黒鉄は笑顔で……だが、そんな表情なんてしたことがないから、少し強張った表情でフィーアに話しかけた。
「フィーア……突然で申し訳ないが……俺と一緒に、生きてくれないか……? その、一人で心細いんだ……」
それは告白でもプロポーズでもない、だが黒鉄がフィーアにした、最初で最後の限りのあるお願いだった……
「……生きて……いいの?」
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あるメタルの少年とエルフの少女が、彼方でめぐり逢った……
—— 完 ——




