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メイドの忠告と虫の名前  作者: 柚屋志宇
第2章 顛末と虫の名前

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05話 グレゴールとアグネスの正体

 私とジョエル様の結婚式の日が近付いていました。


 ジョエル様は、激務だと評判の宰相府で文官として働いていらっしゃいますので、とてもお忙しいお方です。

 それでもときおり時間を作って、私に会いに来てくださいます。

 細やかなお心遣いが嬉しいです。


「ウォルター殿下が親しくお付き合いしていたアグネスさんは、結局、何者だったのですか?」


 その日も、ジョエル様は時間を作って私に会いに来てくださいました。

 近況などを報告し合い、二人でとりとめのない雑談をしました。


 その雑談の中で、私は気になっていたことをジョエル様に尋ねました。


「お父様に尋ねても、『知らなくて良い』の一点張りで、私には教えてくださいませんの。ジョエル様はアグネスさんについて何かご存知ですか?」


 ジョエル様は宰相府にお勤めです。

 もしメイドのキャッサが言っていたとおり、アグネスさんが工作員だったとしたら、宰相府にお勤めのジョエル様は何かご存知ではないかと思ったのです。


「ああ、それは……」


 ジョエル様は困ったように苦笑しました。


「お父君の言うとおり、ローラ嬢は知らないほうが良いでしょう」

「政治的な問題でしたの?」

「それもあります。それからウォルター王子殿下の醜聞でもありますから、滅多に口に出すものではありません」

「そうですのね……」

「知らなければ、何かの間違いで口を滑らせることもありませんから、お父君の判断は正しいかと存じます」


「時が過ぎれば、いつか、教えていただけますの?」

「そうですね。時が過ぎたら」


 私がそれについて教えてもらえたのは、数年後のことです。



 ◆



 隣国との紛争が一段落した数年後。

 私はようやく、アグネスさんの正体やグレゴール様の目的を教えてもらえました。


 メイドのキャッサが言っていた通り、アグネスさんもグレゴール様も隣国の工作員でした。


 我がマーチンデイル公爵家の領地は、隣国の国境に接しています。

 隣国が我が国に攻め込む際に、マーチンデイル公爵領は地理的に重要な場所でした。


 ウォルター殿下とマーチンデイル公爵家の娘である私との婚約が壊れて、王家とマーチンデイル公爵家が不仲になれば。

 隣国はマーチンデイル公爵家を勧誘しやすくなります。

 マーチンデイル公爵家が、王家憎しで隣国と内通すれば、我が国は窮地に陥ったことでしょう。


 グレゴール様が私を誘惑して、私を隣国に連れて行ければ、私を人質としてマーチンデイル公爵家に要求を通しやすくなって更に良し。


 グレゴール様が私を誘惑しやすくするために、まずアグネスさんがウォルター殿下を籠絡したようです。

 ウォルター殿下が私を冷遇するように仕向け、王家とマーチンデイル公爵家が対立すれば良し、ということだったようです。


 前ドーズ男爵は、隣国に買収されていた売国奴でした。

 隣国に依頼されて、前ドーズ男爵はアグネスさんを養女として引き入れたそうです。

 そして前ドーズ男爵は隣国から多額の報酬を得ていました。


 グレゴール様は、隣国のシェルベ公爵令息ということで我が国に留学していましたが。

 本物ではありませんでした。

 グレゴール・シェルベ様という公爵令息は存在するのですが、私に言い寄って来たグレゴール様は偽物でした。


 隣国が我が国に戦争を仕掛けようとしていたなら当然のことです。

 敵国に、王位継承権を持つ公爵家のご令息を、工作員として安易に送り込んだりはしないですもの。


 グレゴール様が、隣国の公爵令息グレゴール・シェルベ様の偽物だと解ったのは、グレゴール様が卒業して隣国へ戻られた後のことでした。

 だからグレゴール様は捕らえることができませんでした。


(どこの馬の骨ともしれない男に、誘われて付いて行こうとしていたなんて……)


 事情を知った私は、ぞっとしました。

 最悪、私は隣国に拉致されていたことでしょう。


 キャッサの忠告のおかげで、私は命拾いしました。

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