03話 メイドの忠告
「グレゴール様はとても親切で良いお方よ」
「どうだか……」
メイドのキャッサは、無表情を崩して、ふっと皮肉っぽい笑みを浮かべました。
「あれは、悪い男がよく使う手口です」
「え?」
「悩みを抱えている女性に近付いて、慰めるんです。弱っている女性は、話を聞いてもらえて、共感してもらえると、喜んですぐに尻尾をふりますからね。そうやって弱っている女性の心に付け込んで、誘い出すんです」
「付け込むだなんて、そんな……。グレゴール様は真面目なお方よ」
「真面目な男なら、王子の婚約者を連れ出そうとしたりしません」
「……」
キャッサの指摘に、私は言い返せませんでした。
「で、でも……」
グレゴール様に心が傾いていて、グレゴール様を弁護したい私は、必死に反論を探しました。
「ウォルター殿下だって、アグネスさんと出歩いているわ。お友達とお出掛けするくらいなら許されるはずよ」
「お友達って、異性じゃありませんか」
「やましい関係ではないもの。ただのお友達よ」
「お嬢様……」
キャッサは真顔で言いました。
「お嬢様は異性と二人きりになることの意味をご存知でいらっしゃいますよね。ウォルター殿下と同じことをなさるおつもりですか」
「わ、私は、ウォルター殿下とは違うわ……!」
「ご婚約者がいる身で、言い寄って来た異性に絆されて、ホイホイ付いて行くなら同じです」
「……!」
私が言い返せずに、反論の言葉を探していると。
キャッサは考えるような顔をして、さらに言いました。
「それに、ウォルター殿下にくっついているアレは、どう見ても色仕掛けです。似たような手口で殿下も言い寄られたのでしょう」
「え……?」
「悪い女がよく使う手口です。めそめそして可哀想ぶって、目当ての男性を頼って、相談をするんです。人前では言えないからと、相談にかこつけて二人きりになるんです。男性は頼りにされると、自尊心をくすぐられますからね。男性と親密になるための良くある手口です」
「そ、そうなの?」
「あの女はウォルター殿下に、お嬢様にいじめられていると相談したんだと思います」
キャッサの言う通りかもしれません。
ウォルター王子は私が、アグネスさんをいじめていると思い込んでいましたから。
「婚約者の不始末だと思って、ウォルター殿下は、あの女の相談に乗ったのでしょう。それで二人きりになって、あの女の手口にはまって、どんどん親密になったのではないでしょうか」
「……」
「もしかすると、あの女はどこかの国の工作員かもしれません」
「え、ええ?!」
「末端の男爵家でも、貴族の未婚の娘なら、婚約者でもない男性にイチャイチャしたりしません。自分の評判を落とすだけですから」
言われてみれば、たしかにそうです。
「それに、男爵家の娘なら、公爵令嬢という婚約者のいる王子にはふつうは近付きません。横恋慕したら、公爵家と戦うことになるのですから。そんな危険なものに普通は触りません」
「……たしかに……そうね……」
「王家からマーチンデイル公爵家を切り離す目的ありきの工作ではないでしょうか」
「……」
キャッサの話を聞いて、もう、何が何やら……。
何を信じて良いやら。
もう何も信じられないような。
私は訳が解らなくなって混乱しました。
「お嬢様、あの虫の男は学院で一緒なんですか?」
「グレゴール様よ。学院で一緒よ。隣国のシェルベ公爵のご令息で留学生なの」
「隣国の工作員かもしれません」
「……」
「学院でも、あの男と二人きりになってはいけませんよ。あれは悪い男です」
「わ、解ったわ……。気を付ける」
「お嬢様、あの男の件は公爵様にご報告なさいませ」
「え? お父様に言うほどのこと?」
「もし隣国の工作員だったら一大事。調査して疑いが晴れれば、それはそれで安心でございましょう」
「そ、そうね……」




