#4
別に犯すことにこだわっていたわけじゃない。
最も醜い姿を晒させて、恐怖を与えたかった。三年全員を巻き込んだのも不特定多数の犯人に対する恐怖を高める為。味方などいない、独りでは何もできない。自身の愚かさと無力さを分からせる為。
「違う、俺は……あいつらに命令されたんだ。俺は本当はやりたくなかったけど、あいつらが言うから……っ!」
丹波の悲痛な声がこだまする。しかし、それがなづなに届いてるかどうかは不明だ。
彼はまだ笑っている。
「本当に君達って……まぁいいや。俺ももう君達と同じクズの仲間入りだしね。最悪、なのにすっごい嬉しいよ。罪悪感なんかない。嫌いな奴らを潰すのってこんなに楽しいんだなって、ずぅ……っと笑いを堪えるのが大変だった!」
なづなは狂ったように笑い出す。しかしふとこちらを振り返って立ち上がった。
「三尋、それ貸して」
「はっ」
彼は目の前に来ると、スプレー……ではなく、もう片手に持っていたナイフをひったくった。
「ありがと。じゃ、三尋は帰って。ここにいるとめんどくさい事に巻き込まれちゃうだろうから」
「ま、待て。何する気だ」
なづなはナイフを丹波の手に握らせた。そして顔を近付け信じられないことを平然と告げる。
「丹波君。これを前に突き出せば、簡単に喉に刺せる。憎いなら、俺を殺していい」
「は……!?」
三尋は絶句した。恐らく、丹波も同じ。しかしなづなは酷く落ち着き払って、そのときを待っていた。
「俺の気が変わらないうちにやった方がいいよ。“今”だけだから」
これは前から計画していたことではない。丹波がナイフを所持していたことも想定外だった。だからさっきトイレに連れてかれた時は驚いて上手く逃げられなかった。
でも、多分……理由はそれだけじゃない。三尋も言っていたように、やり返そうと思えばやり返せた。相手が一人なら、いくらでも抵抗のしようはあった。
それなのに身体が動こうとしなかったのは、気付いてしまったからだ。自分ももう、彼らと同じ。誰かに助けを求める権利も、抵抗する権利もない。
非道な手で人を傷つけた犯罪者だから。
向こうが先に手を出していても、これはもう犯罪だ。
わかってる。
けど綺麗事や説教が一番頭の中を掻き回した。あれは駄目、これは駄目……。よく聞く、復讐は何も生まない、とか。別に誰も生産性なんか求めてないって。酷いことをした奴に罰を与えるのはむしろ良いことだろ? 無抵抗の人間を攻撃する奴は生まれながらにクズなんだ。更生の余地なんてない。
ていうか、単純にムカつくからやりかえしたいだけなんだけど。何で痛い思いをしてない他人に否定されなきゃいけない?
俺はどうしたらいい。
『───同じ目に遭わせてやればいいんだ』




