#6
「もし、さ。嫌じゃなかったら、他にも色んなとこに行こう。嫌なこと全部忘れて、二人で遊びに行こう」
「うん!」
ガキかって思ったけど、やたら念押しして約束した。何だか、約束しないと叶わない気がする。こんなちっぽけな願望が、とても壮大な夢物語のように思えた。
どうして……。
少し押したら簡単に後ろに倒れてしまいそうな彼。彼を守りたい。
そう、思ったのに。
「───三尋っ!!」
一瞬だった。なづなの叫び声も、突き飛ばされた衝撃も、頭上で掠めた銀色の光も。
「いって!」
三尋はなづなに強い力で押され、横の壁に激突した。痛みに呻きながらも、何が起きたのかと周りを振り返る。
そこには、さっきはいなかった人物が立っていた。
「丹波?」
自分達よりも先に帰ったはずの、彼。……丹波が、自分となづなの間に立っていた。肩を揺らし、血走った目を虚ろげに泳がしている。目を疑ったのは、彼が手にしている物だった。
鈍い銀色の光を放つナイフ。その刃先からは、赤い液体が零れていた。
……え。
それを見た瞬間、心臓が止まりそうなほどの恐怖に包まれる。考えるより先に、なづなの方を向いた。
「なづな……おい、大丈夫か……」
彼は床に蹲って、右腕を押さえていた。苦しみに歪む顔を見て、さらにパニックに陥る。なづなが押さえている部分は、服が切れていた。
出血量までは確認できないが、彼が押さえている手は赤く光って見える。どうすればいいか考えた。止血か、誰か呼ぶべきか。すると丹波はナイフを翳し、震えた声で叫んだ。
「は……、仲良くお喋りしてんじゃねえよ……! くそ、くそが……炭野の奴、ふざけやがって……! 全部、お前のせいだろうが!!」
掠れた怒鳴り声が、嫌なくらい踊り場に反響する。だが内容は意味不明だった。一体、何故ここまで彼が乱心しているのか分からない。
「俺は殺られる前に殺るぞ! これは正当防衛なんだ……!」
一つ確かなのは、彼は正気じゃない。確実に興奮して、こちらの様子は見えてないみたいだ。自分もまだ驚きの方が勝っていて、すぐには身体が動かない。
そもそも何で彼はここまでキレてるのか。そればっかり気になっていた。
「み、三尋。俺は大丈夫だから、早く逃げて」
そんな時に弱々しい友人の声が聞こえたので、嫌でも我に返る。
今一番に優先すべきこと。は、
「……アホか! 一緒に逃げるぞ!」




