#1
「お前やばっ……今すぐ病院行った方がいいんじゃ」
「平気だよ。俺こう見えて丈夫なんだ。痛いけど、耐えられないほどじゃない」
なづなが笑って言うと、三尋は頭を抱えて大きなため息をついた。
「ほんとに……ごめん。もっと早くに来てれば……」
「三尋。俺、ほんとに大丈夫だから」
そんな顔をしないでほしい。そんな悲しい顔を。
なづなは口端を結び、俯く。
“守った”とは到底言えない結果だけど、彼が辛い目に合う最悪な事態だけは回避できた。それなのに、そんな悲しそうな顔をしていたら……分からなくなる。
「口、切れてる」
「んっ」
軽く指で触られただけなのに、確かにそこは痛かった。
「ごめん、なづな」
「謝んないでよ。もう謝るの禁止」
そう言うと、三尋はようやく少し笑った。と言っても、まだ泣きそうな顔をしているけど。
「芦苅。俺ら、こいつを生徒会室に連れてくから」
炭野は周りの生徒と一緒に、丹波を無理やり引きずっていく。それには三尋が慌てて問い掛けた。
「待てよ、何する気だ? 普通に先生につき出そうぜ! 現場を見てんだから、言い逃れできる状況じゃないんだし」
「いいよ、三尋。そんな事しなくていい。俺は学校に知られたくない。もう終わりにしよう」
なづなは暗い顔で、三尋の袖を掴んだ。
「じゃあ、このまま泣き寝入りすんのかよ。こんな怪我までして……それは何か違うだろ」
「……」
尚も納得できない三尋を置いて、炭野は大袈裟に肩を竦める。
「まぁ、芦苅も今は混乱してるんだろ。もうちょっと時間が経てば、考えも変わるさ。とりあえずまだこいつを帰す気はないから……お前達も、一緒に来いよ」
彼らがさっさとトイレを出ていってしまった為、三尋となづなは取り残された。また、暗くて静まり返った空間に戻る。
「なづな……俺、丹波が許せないよ。やられたらやり返す、なんて間違ってると思ってたけど……お前がボコボコにされてるところを見たら、あいつを同じようにしてやりたくなった。いや、もっと苦しい目に合わせてやりたかった」
そう零す彼の声、手、全てが震えていた。
どす黒い空間で、どす黒い感情が肥大していく。
「俺、お前に綺麗事ばっか言ってたな……」
「ううん。三尋は間違ってないよ。三尋のそういう、真っ直ぐなとこが良いんだ。だから……だから、さっきは絶対丹波君のことを殴ってほしくなかった」




