#20
冷たい床のタイルに手をついても、その上から踏みつけられる。身体は血反吐を吐きそうなほど痛んだ。彼の動きはスローモーションのように見えた。
頭が痛い。
グラグラして、何も考えられない。
犯される、なんて恐怖はどこにもない。強いて言うなら殺されるかもしれないという恐怖があった。
腹を蹴られてからずっと息が苦しい。まともに呼吸できないことが何よりも怖かった。
このまま死ぬかもしれない。そう思ったけど。
「おい! 何やってんだ!?」
心臓が止まりそうなほど大きな怒号が聞こえた瞬間、暴力も止まった。
ぼやけた視界の先で、誰かがこちらを見ている。数回瞬きして、目を凝らした。そこには、見慣れた友人の姿。
────三尋が、来てくれていた。
彼は足早にこちらと距離を詰めると、丹波を殴り飛ばした。
「おい……お前、何考えてんだ」
「いってぇな……俺はクラスの為にやってたんだよ。芦苅なら絶好のカモだと思って」
「は?」
三尋の怒りがおさまる様子はなく、丹波の襟を締め上げて壁に押し付けた。丹波は苦しそうに呻いている。
三尋……。
全身が、まるでバキバキに折られたみたいに言うことを聞かない。それでも何とか力を振り絞り、なづなは身体を起こした。
「俺は大丈夫だよ。……だから落ち着いて。暴力で返したら同じになるって、三尋が言ったんじゃん……」
「なづな……」
三尋の瞳は揺れていたが、力無く丹波から手を離した。なづながそれにホッとすると、数人の生徒がトイレの中に入ってきた。
「芦苅!」
「炭野君……」
そこにいたのは、なづなにとって見覚えのある顔ぶれだった。会長の炭野に、生徒会のメンバー達。彼らはこの状況を見ると苦い顔で駆け寄ってきた。
「大丈夫か、芦苅」
「うん。三尋が庇ってくれたから」
「俺も……お前がいないから捜してくれって、あの転校生に頼まれたんだ。そしたら、こんな……もっと早くに来れなくてごめんな」
生徒会のメンバーは丹波を囲み、どうするか物議を醸している。なづなはそれを黙って見ていたが、三尋がこっちを見てることに気付いて笑った。
「ありがとう」
「ありがとうって……そんなボロボロになって言うことじゃないだろ」
三尋は散乱した服を拾い、なづなの姿を周りから隠すように手渡した。




