#2
「あああちょっと待って! あの、急いでるとこ悪いんだけど、職員室ってどこかな?」
「えっ!?」
三尋の質問に、少年は露骨に驚いてみせた。無理もない、同じ制服を着てるのにこんな質問をされたら不審に思う。すぐに説明した。
「実は俺、今日転校してきてさ。一回職員室行ったのに、もう忘れちゃったんだ。やばいよな、ははは……」
「あぁ、そういう事か。じゃあ一緒に行こうよ。どうせもうちょっとで一時間目終わっちゃうし」
少年は無邪気な笑顔で寄ってきた。男なのに、見蕩れてしまうほどの笑顔だった。肌の白さも相まって儚い印象の、綺麗な少年。この学校広いもんね、緊張してない? 等とフレンドリーに話し掛けてくれた。ていうか転校初日に一時間目出られなかった。やべえ。
「ちなみに何年何組?」
「えっと……三年五組」
「えっ! 俺と一緒だよ! すごいな、転校生が来るなんて全然知らなかった」
ここでまた、予想外の奇跡が重なる。少年は三尋が入るクラスの生徒だった。軽く自己紹介をすると、彼は嬉しそうに背中を叩いて笑った。
「国崎君かぁ、よろしく! 俺は芦苅なづな。って、女みたいな名前だろ? よく笑われるんだけど……」
「そんなことないよ。良い名前じゃん。なづなって呼んでいい? 俺のことは何でもいいよ」
「あ……ありがと。じゃ、俺も三尋って呼ぶよ」
さっきまでは本当に心細かったけど、彼と会えてホッとした。なづなに連れられて職員室へ行き、無事担任教師に出欠席をとってもらった。
その頃には、当然授業も終わり中休みになっていた。担任は自分よりもなづなの遅刻をキツく叱っていた。たまたまなのか、それとも遅刻の常習犯なのか……分からない。
「よーし。説教も終わったし、三尋、俺達の教室に行こう」
「あ、うん!」
少なくとも、最初に会えたのが彼で良かったと思った。特別コミュニケーションが得意というわけでもない。知ってる人間が誰もいない場所はやっぱり不安があった。
「緊張しなくて大丈夫だよ。変わった奴も多いけど、クラスの奴ら皆優しいから」
なづなは笑顔で手招きする。
三尋も微笑んだ。彼の笑顔は見てて安らぐ。
しかしそう思っていたのは、何も知らなかったからだ。
ここが一体どんな学校なのか。それをまだ、自分は何も知らなかった。




