#8
なづなは事のいきさつを理解すると、脱力した。顔色はまだ悪い。
「……本当に、何もされてないんだな?」
「おう。悪いな、心配かけて」
笑って言うと、彼は胸を撫で下ろした。ここまで心配されるとは思わず、正直ちょっと驚いてる。というか、彼は真剣になると少し印象が変わる。普段とギャップがあるせいか、それもビビってしまった。
「炭野が助けてくれたんだ。本当に良かった……」
「そうそう、パパッとオレを襲った奴らを追い払ってくれてさ。かっこよかったよ。確かに取っ付き難い感じだったけど」
「炭野は強いからね。他に何か言ってた?」
「三階以上のトイレに行くなって」
そんなの、普通に考えてキツい。漏れそうな時どうすんだよ、と愚痴る。なづなは伝え忘れてごめん、と謝ってきた。
「放課後はとにかく危険な時間なんだ。それなのに、本当にごめん。俺がちゃんとしてれば、そんな怖い思いさせずに済んだ……」
「お前が謝る必要なんてないよ。でも、さっきでまた強く思った。今まで襲われた奴らも、きっとすげー怖かっただろうな、って」
三尋は自分の席に座り、拳を強く握る。
「なづな、俺やっぱり許せないよ。こんな事をゲーム感覚でやってる奴らが」
「うん……」
教室にはもう、二人以外誰もいなかった。
二人だけの空間だ。
なづなはその場に屈んだまま、三尋を見上げる。
「俺も同じだよ、三尋。こんな事する奴らが許せない。……けど」
広い教室では、響く声は虚しいだけだった。
「犯人を見つけたとして、三尋はどうする? どうやって償いをさせる?」
「それは……今まで襲った奴らに謝らせて、それで……」
────それで?
どうする。警察に突き出して、慰謝料でもぶんどるか?
なづなの問いに三尋は俯く。最も正しい“償い”が分からない。
「謝ったところで、乱暴された奴らの心の傷は消えないんだけどな」
結局、そこに思い至った。謝罪でもお金でも解決できない問題。それが強姦だ。
「そうだよ、何をしたって許されない。だからさ、……同じ目に合わせてやればいいんだよ」
三尋はハッと息を飲んだ。
綺麗すぎる顔で恐ろしいことを言う目の前の少年に。
「辻浦君達を襲った奴に同じ苦しみを与える。傷は癒えなくても、そこでやっと公平だ。自分が犯した罪の重さを認識させる。それも立派な償いだよ」




