20 歴史の授業【勇者と魔王】
色々あって延期していた【寺子屋もどき】がやっと始動した。
大広間に集まったのは10人の子どもたち。
生徒は、領主の四男坊・鬼っ子ニック(7)、孤児仲間の犬っ子アルフ(5)。この二人とは顔見知り。
街の子たちは初めましてだ。カイ(9)、ローズ(8)、マルクス(6)、カタリーナ(5)、ランベルト(4)、グレタ(4)。
お目付け役には聖女クリス(12)がつく。
そして最年少の私、リンカ(2)の10人だ。
「え?リンカもいるのかよ!べんきょうなんて、2さいじには早いだろ」
「だいじょうぶ。リンカはぼくよりあたまいーよ?かしこさ999だもん」
「みんなでおべんきょうできたら、たのしーとおもうわ」
「「「そーだそーだ」」」
文句を垂れたのはリーダー格のニックだ。何かと私に意地悪するので困っている。
かばってくれたのはアルフ。血は繋がっていないけど頼れるお兄ちゃんだ。
『かしこさ999』なのは、赤ちゃんの時にステータスを公開しちゃったから街のみんなが知っている。実際は∞なんだけどね。確実にこの世界の誰よりも賢い…と思うんだけどなー。
他の子も私が参加するのには賛成みたい。
「な、なんだよっ!みんなして!ぼくはりょうしゅのむすこだぞっ!」
「えらぶっても四男はあとつぎにはなれないんだぜ?」
「カ、カイ兄…わかってるよっ」
ニックが強権を発動するも、年長のカイにたしなめられて不発に終わった。
カイは武器屋の次男坊。冒険者を目指して頑張ってるんだって。
ニックも冒険者になりたいみたいで、一緒に稽古をしている仲らしい。
方々で自己紹介が始まっている。
なんだか前世の入学式の日っぽい。どこも同じなんだなぁ…。
「はい!みんなー、席について~」
「「「げっ、ユリア先生……」」」
わいわいがやがやしていたら、厳しいと評判の副院長・ユリア先生が登場した。
ユリア先生は(光★)なので聖女ではないけど、事務仕事は完璧にこなすキャリアウーマンだ。
教師は院長のマーサ先生と副院長のユリア先生が交代で務めることになっている。
丸くて小柄な院長先生とスラっとして高身長な副院長。見た目も性格も正反対な二人だけど、幼馴染みで親友なんだって。
ちなみに、フィーレア教は聖職者でも結婚OKなんだけど、なぜか二人とも35歳で未婚なんだよね。縁談があっても断ってしまうらしい。
結婚だけが幸せという訳ではないけど、この世界では珍しいタイプかもしれない。
…みんなが席に着いたところで授業開始だ。
「今日は初めてだから1時間だけの授業です。徐々に伸ばしていきましょうね」
「「「はーーーい!」」」
「まずは、歴史のお勉強ね。『童話・勇者と魔王』だけど、内容は知ってますか?」
「知ってる。絵本で読んだ」「うむ、貴族のたしなみだからな!」「わたしもー」「ママによんでもらったわ」
「しらないー」「ぼくもー」「わたしもしらないー」
私はちょこっとだけ女神フィーレア様から聞いただけなんだよね。内容までは知らないな。
「知ってる子は最後まで結末を言っちゃダメよ。わかった?」
「「「「はーーーーい」」」」
いわゆる『ネタバレ禁止』ってやつだ。犯人はヤス!とかねw
ユリア先生の話が始まった。
「【シン・勇者と魔王】
これは、昔々、まだ旧暦だった頃……。1500年以上前の話です。
当時も、人間・獣人・竜人・鬼人・エルフ・ドワーフが仲良く暮らしていました。ドラゴンは今も昔も山脈に籠っているので、殆ど姿を見せることはない。街や街道の結界から外に出ると魔物に襲われる。今と変わらない生活でした。
そんなある日のこと。突如現れたのが、結界をもすり抜ける【魔王と魔族】です。
魔族と魔物の違いは、知能があるかないかとその強さ。
私たち一般人では太刀打ちできないほど強かったといわれています。
王都の騎士団や上位冒険者でさえ、瀕死の重傷を負うほどだったとも。
攻め落とされて行く街。世界は絶望に陥りました。
そんなとき、どこからともなく現れたのが【勇者】です。
今では名前さえ記録に残っていませんが、黒髪・黒目の男性だったそうです。
不死身の体と『か●はめ波』という不思議な技で、魔族を次々と屠りました。
勇者はみんなのヒーローになりました。どこに行ってもモテモテです。
ある夜、勇者が夜の街を楽しんでいると、三人の女が現れた。
「「「勇者様、勇者様。お腰に付けたイ●モツを、ズブリと私にくださいな♪」」」
「ヤリましょう、ヤリましょう!これから魔王の討伐に、ついて行くならヤリましょう♪」
そして勇者は、三人の女を仲間にしました。
ここに、最強の、勇者・女剣士・大聖女・女魔導士の四人パーティーが結成されたのです!」
「せんせー、イチ●ツってなんですかー?」
「ヤルってどういういみですかー?」
「ぼくがきいたはなしとちがいますー」
「クリスおねーちゃん、おかおがあかいよ、どうしたの?」
おい、なんだこの桃太郎風味のエロ勇者は!
先生よ、子どもにしていい話じゃないぞと。
内容を理解している聖女クリスは赤面しちゃうし。
「うふふ、伝記によると、この説が正しいらしいわ。たとえ児童向けでも真実は伝えるべきだと先生は思うのです!」
ユリア先生、恐ろしい子!
私は2歳児だから、解らないふりしてあげよう……。
「続けるわね。
そして、ついに勇者は仲間と共に【魔王】に挑むことになりました。
大陸の端、東の半島に魔王を追い詰めることに成功しました。
だけど、魔王は強かった。
大聖女の力を以てしても回復が間に合わない。
倒れる女剣士・大聖女・女魔導士……。
「くっころ…」「勇者様、にげて……」「もうMPが……」
「動けない君たちを見捨てるわけには行かない。俺が命に代えても君たちを守る!『メガン●!』」
「「「ゆ、勇者様ーーーーっ!」」」
勇者は、あろうことか、魔王に抱き着き何かの呪文を唱えたのだ。
それと同時に起こる大爆発!
気がつくと、彼女ら三人以外のすべてのものが、一瞬にして消し飛んでいた。
後に残ったのは、勇者が身に着けていたオリハルコンの武器と防具のみでした…。
魔王は死にました。同時に、各地に現れていた魔族も煙のように消えました。
脅威は去った。人間の勝利です!
だけど、戦場から戻ってきたのは三人の女性だけ。勇者の姿はありません。
人々は勇者の死を悼んで、半島に記念館を建て、残された武器防具を展示しました。
そして新しい年号に変わったのです。
今は、新暦1503年です。
勇者様が魔王を倒してくれたから平和な今があるのです。
みんなも、勇者様に感謝して、いい子にするんですよ」
「「「「はーーーい」」」」
あれか、ドラ●エの自己犠牲呪文『メ●ンテ』だ!
フィーレア様は、勇者様は生きてるって言ってた。
木っ端みじんになっても、不死身なら生きているのかな?
大人になったら冒険者にでもなって会いに行ってみようかなー。
どうやら同郷みたいだしね。
とりあえず、いい勉強にはなった。
これからも寺子屋もどき、頑張るぞー!
初めての勉強会は大成功のうちに終了した。
その夜、保護者たちからユリア先生にクレームが入ったのは言うまでもない……。




