夕日のドライブで
男は言った、
「なぜ私と君は生きるのだろうね。」
私は言った。
「何故そんなことを聞くんです?」
男は珈琲を呑み、天井を見る。
「私は恵まれた人生を送ったよ」
私は溜息を着く
「長くなる?その話」
男は笑った
「はは、何か飲み物でも頼むといい、奢るよ」
私は近くに居た店員に、アイスティーを頼んだ。
「最近、暇で暇で仕方なくてね、こんな事ばかり考えてしまうんだ。」
男は、目を閉じ、頭を上にあげている。
「貴方には隠居暮らしは似合いませんよ、何か趣味でも探したらどうです?」
「趣味かぁ、いやぁ、人付き合いとか苦手でねぇ、でもひとりで何かやるのは何だか、性にあわないもので」
「アイスティーになります。」
私は店員から飲み物を受け取り、軽く会釈する。
「なんですかそれ」
「私が変なのは何年も前からわかってるだろ?」
「そうですけど...」
「話は戻るが、君は生きる理由について何か明瞭な答えを持っているかい?」
男は目を開け、私の目を見つめる。
私は数秒の沈黙の後に口を開いた。
「無いですね。」
アイスティーは中々美味しい、ケーキでも頼もうかな。
「まぁそれもひとつの答えか」
男は珈琲に口をつける。
「私はね、人より恵まれた人生を送ってきたと思ってるよ」
「自慢です?」
「違うって」
「例えば、外に出たら、命を狙われる心配はないだろう?」
「そうですか?この辺は割と危ないような」
「言うほど、危なくないだろう、この辺」
「そっかぁ」
「それに、食うものには困ったことがない」
「まぁ、ホームレスにはなったことはありませんが」
「そうだな、当たり前かもしれないが、飯が食えるのは凄いことだ」
「ただ、欲しいものか常に手に入る人生とは、楽しいのだろうか」
おじさんの長話はいつもこんなので、少しめんどくさくなることがある。
「楽しいんじゃないですか?」
「そうかね」
窓の方になんともなしに目を向けてみると、太陽が沈んでいっている。夕方か
「この後予定はあるのかい?」
男は珈琲を飲み干した。
「まぁないですが、何かあるんですか?」
「少し、ドライブにでも付き合ってくれるかい?」
ここで断ったら拗ねそうで私は断れなかった。
「いいですよ」
私はアイスティーを急いで飲んだ。
会計に行き、チップを払う。
そこそこ高い...。
店を出る。
店の出口のベルが店の中に響いた。
外には、男の車があった。
煌々と紅く照らされている車、天井が無い、
オープンカーか、しかし、高そうな車だこと。車にはあまり詳しくないからよく分からないが、きっと隠居暮らしの男にはもったいない程の車だ。ちょっと羨ましい
男は車に乗りこみ、
助手席に私は乗る。
男は車のラジオをつける。
どこかの放送局が流す、古い音楽が流れる。
「世代でしたっけ?この曲」
「知らん、けど、ドライブってそうゆうもんじゃないのか?」
赤い車は、沈みゆく太陽の方に走り出した。
「ドライブはいいねぇ」
男は、ラジオから流れてくる知らない音楽を楽しんでいる。
少し、運転が荒くなってきたように感じる。
正直、家にいる方が好きなんだけど、この辺の感性は合わないや。
「そういえば、趣味とか無いのかい?」
「趣味ですかぁ、仕事と執筆活動ですかね」
「君は、本当に家から出ない人だなぁ、結婚とかしないのか?おばさんになると、なかなか世間の目が厳しいぞ」
「余計なお世話ですよ」
「そうかぁ、まぁ、結婚は早い方がいいがな、未来が多いのも若いうちだけだしな」
少し、風がうるさい。
「そういえば、なんで私をドライブに?」
「なんとなくさ」
「ナンパですか?怒られますよ?」
「私がナンパするように見えるのかい?」
「見えます」
「まじか...」
外の景色は、すっかり様変わりして、山道に差し掛かってきた。街の姿など、とうに見えなくなってきた。
「どこに向かってるんですか?」
「さぁ?、気の向くままに走ればいいんじゃないか」
「最近どうです?」
「どうって?」
「一人暮らしでしょう?何か無いです?」
「そうだなぁ、料理が面倒くさくて敵わんね」
「料理するんですね、意外だ」
「君、私をなんだと思ってるんだ?」
私は笑って誤魔化した。
「まぁ毎日やる訳では無いのだが、最近はよく作ってるんだ。」
「昔は、作ってもらってばかりだったから、からっきしでなぁ」
「いいですよね、料理出来る人ってモテそうだし」
「君は出来るのかい?」
「私は出来ますよ、自炊してますもん」
「じゃあ、料理出来てもモテはしないな」
ラジオの音楽は気づけば止まっていて、風の音と車の音、森の匂いがこの場を支配していた。
「この辺、カーブばかりだな」
ここはどこなんだろう。
あたりは木々しか見えない。
太陽はまもなく沈みそうだ。
「そろそろ帰りません?暗くなりますし」
「まぁまて、もうすぐで着く」
男はそう言うと、
車は加速し、風の音は大きくなった。
「最初、なんて言ったか覚えてるか?」
「なんの話ですか?」
「私が恵まれた人って話」
「自慢ですか?」
「また同じこと言ったな」
「私はね、やりたいことなんてなかったんだ」
「ドライブが好きなんじゃないんです?」
「ドライブは好きさ」
男は一瞬口を噤んだ。
「でもな、やりたいこととは違う。」
「それに気づくのに、何十年もかかってしまった。」
「初めて生きる意味を見つけた時、私は生きることが出来た。」
「なんですそれ?」
「秘密だよ」
「はぁ...」
「まぁいつか分かればいい」
「ふーん」
いつもこの人は誤魔化す。
「そろそろ、着きそうだ。」
車は、山道を抜けると、沈む夕日が鮮明に見える場所に辿り着いた。
赤い車から2人は降りた。
「ここは?」
「私の好きな場所さ」
沈みゆく太陽は、その輝きをより一層と輝かせながら、別れを惜しむかのように、消えていく。
私はこんな風に太陽を見ることは初めてだった。
「はは、良いだろうここは」
「ええ」
「ここはなぁ、初めて妻にプロポーズした場所でなぁ」
何故そんなところに私を?
「なんで連れてきたんです?」
「いやぁ、まぁ綺麗だしな」
男は太陽を眺めて、口ごもった。
「...私は妻じゃないですよ」
男は私を見て、黙ってしまった。
「帰りましょ、もう暗いです」
私は車に戻って、助手席に乗り込んだ。
男はしばらくして戻って、何も言わずに車を運転し始めた。
赤い車は、沈んだ太陽のように、夜の道の中に消えていった。
「まぁ、たまに遊ぶ程度ならいいですよ、」
男は苦笑いをした。




