14 エミリア、重装武装する。
時間を戻るのも慣れたもので、まず自分の体の中を確認する。
セレーナが言うように一日分のこねた魔力が一緒に戻ってきていて、……おや、なぜかこの時点ではまだ習得していないはずの〈ファイアボール〉がある。
リビングにいるリーシェに歩み寄ると、その毛の中に手を突っこんだ。
引っぱり出したのは魔法結晶が入った小瓶だった。
「……おかしい、ここにも〈ファイアボール〉がちゃんとある。一つ増えてるじゃない」
(なぜ私が〈ファイアボール〉を持っていることを! ……あ、この後あげるんですね)
つまり、魔法も魔力同様に精神と共に戻ってくるということ。時間戻りを利用すれば魔法を増殖させられるのか、覚えておこう。
今はそれよりやるべきことを先に済ませるのがいいね。
一人で行動して一人で納得している私に、セレーナが不満そうな顔を向けてきていた。
「私達にも分かるように説明しろ」
「ごめん、おいおい話していくから。じゃあ、焼き肉定食を食べたらまずハンターギルドの支部に行こう。セレーナとリーシェをランクAにしてもらって五千万を入手する」
「五千万……?」
「いいからいいから、すぐに定食を出すね」
本来ならハンターギルド支部には明日行くはずなんだけど、一日早めて行ってしまうことにした。
訪れた支部でセレーナはカイルさんとの手合わせの末に、リーシェと共にランクAとなる。私には仮ハンター証が交付され、それと一緒に五千万ルタが入った紙袋を手渡された。
続いて、その足で戦闘装備の販売店へ。
迷いなく魔導砲と魔導鎧、そして防御力の上がる指輪とネックレスを選んで会計カウンターに進む。ズンと五千万ルタの札束をカウンターに載せた。
「こちらの商品、一括現金で買います」
と百五十万オーバーしていることに気付いて、リーシェの毛の中にもふっと手を入れる。油紙に包まれた二百万を取り出した。
「リーシェの貯金も借りるね。五百万のネックレス買ってあげるんだからいいでしょ」
(私の貯金残高とそのありかまで知っているなんて! ……え、そのネックレスは私のために? どうぞ二百万は使ってください!)
高額な買い物に店員は困惑しながらもきちんと対応してくれていた。その手が魔導鎧の腕部分に触れた瞬間、重装の全身鎧がシュンと消えて腕輪だけが残る。
「今の、どうなっているんですか?」
私が尋ねると店員は魔導鎧にかけられている魔法について教えてくれた。
鎧の大部分には強化や軽量化の魔法が施されているんだけど、腕輪にだけは収納の魔法が付与されているらしい。触れて念じるだけで他のパーツをしまえるみたいだ。
あのガシャガシャした鎧を常に着ていなくていいのはすごく助かるな。あ、だったら……。
「もしかして、そっちの魔導砲も一緒に収納できたりしません?」
「できますよ。ただし設定に一日ほどお時間をいただきますが」
お言葉に甘えて設定をお願いすることにして、鎧と大砲は店に預けて帰ることになった。
一日という時間はちょうどよかった。どちらにしてもギルドの依頼は、前回と同じ明日にする予定でいたから。
「そうだ、セレーナ、支部でちゃんとマウルス討伐の依頼書を貰ったよね?」
「それも分かってるのか……、貰ったよ。明日と言わず今から討伐に行ったらいいだろ?」
「だって私、〈ファイアボール〉を習得しないと魔導砲は撃てないし」
「……あ、そっか」
というわけで、家に戻った私は自分の中にある〈ファイアボール〉の習得に勤しんだ。
私の見通しでは丸一日頑張れば何とかなりそうだったけど、やはり想像するのと実際にやるのとでは結構違った。まるでぶ厚い本を読むかのようになかなか進まない。それでも、あんな風にマウルスに頭を貫かれて死ぬのは二度とごめんだったので必死に向き合った。
そうして夜が明けてリベンジの日を迎える。
家の庭で朝日に向かって手をかざすと、掌から火球が発射された。後ろで見ていたリーシェの思念が心の中に響く。
(通常より火の玉が倍ほど大きいですし、きっと威力も同じくですね。魔力の質が高まっているからでしょう。しかし、本当に一日で習得してしまうとは……、何がエミリアをそこまで駆り立てるのです?)
「…………、(頭を貫かれて)死にたくない。それだけだよ」
私は家のお金に頼るのもずるいように思えて気が引けていた。でも、それは甘い考えだったんだ。魔獣との戦いは命のやり取り。私は令嬢ハンターとして全力で生き抜く。
今日の朝食は前回のようにパンとスープでは済ませず、きちんと定食を作ることにした。私のレパートリーの中から選んだのはトンカツ定食だ。絶対に勝つ。
それから戦闘装備の店で完成した腕輪を受け取り、私達は兎車で南の湖を目指した。
到着後、やはり兎車はすぐにマウルス達に取り囲まれる。セレーナより先に車から降りた私は腕輪を起動させた。
一瞬で、見るからに装甲の厚い鎧の数々が私の体に装着されていく。
最後に大筒のような魔導砲が両手の上に出現。
……なんか、ちょっと変身ヒーローみたいだな。
と思っていると、セレーナがきらきらした眼差しで私を見つめているのに気付いた。
「すっごいかっこいいな! あとポーズとか決めたりしたらもっといいんじゃないか!」
「……絶対にやらない。ずっと思っていたんだけど、セレーナ、私が前にいた世界に生きていたら間違いなくオタクになってたよ」




