10 エミリア、ハンターギルドに赴く。
コルテシアの町に到着して一日が過ぎた。旅に出てから四日目になる。とりあえず、買ってきたパンと手早く作ったスープで朝食を済ませた。
それから、今後のことについてセレーナとリーシェと話し合うことに。もちろんアルゼーテ王国からは出るんだけど、「その前に」とセレーナが言った。
「世界を旅するならハンターギルドに所属しておいた方がいい。ランク認定を受ければあちこちで融通が利くし、ギルドの仕事をこなせば路銀も稼げる」
ハンターギルドというのはどうやら国際的な機関らしくて、支部も世界各地にあるそうだ。昨日はその支部に、私達も暗殺者の女性を連行したよね、そういえば。
「じゃあ、今からもう一度ハンターギルドの支部に行ってみる?」
私がそう言うとリーシェは複雑そうな表情を作った。
(裏社会の住人であるこの私が、まさかハンター登録することになろうとは……)
「……一応確認しておくけど、リーシェ、指名手配されてたりしないよね?」
(私は正義の魔獣ですよ! 昨日も暗殺者を連れていった時、何ともなかったでしょ!)
「ごめんごめん、そうだったね。なんか恐れられてる感じはしたけど、確かに捕まりはしなかった」
ご立腹の契約獣をなだめつつ、私達は町のハンターギルド支部に向かうことになった。
町の中心部にあるその建物に入ると、中にいた職員達はやはりリーシェを見ておかしな雰囲気に。うちの兎、本当に犯罪とかに前脚(手)を染めてませんよね?
場の空気など一切気にせずセレーナはカウンターの一つに歩いていく。
「ハンター認定を受けたいんですけど。この支部だとランクの判定はカイルさんですか?」
「はい、その通りです。支部長のカイルがご対応いたしますので少々お待ちください」
受付の女性はそう言い残して奥へと下がっていった。
この間に私はセレーナにどういうシステムなのか尋ねる。彼女は軽く柔軟体操をしながら教えてくれた。
ハンターにはSからEまでのランクがあって、その判定は通常、支部で一番腕が立つハンターが行うらしい。ここではカイルさんという人がそうみたいで、彼はセレーナが所属していた騎士団の団長さんの弟子にあたるんだとか。
騎士団の団長さんなら私も知っていた。国で一番の使い手ともっぱらの噂だ。
……おや、セレーナは騎士団内で一、二を争う腕って言われてなかったっけ? じゃあ私の幼なじみが争っていたのは王国最強の団長か!
「……私がぼんやりと生きている間にどんだけ腕を磨いてるんだよ」
「騎士なら強さを追い求めるのは当然だろ。今日からはハンターだけど」
とまだ体を動かし続けているセレーナ。その様子を見ていて、私の中にどうしても気になることが浮かび上がってきた。
「ねえ……、もしかしてランクの判定って戦ったりしなきゃならないの?」
「いや、普通は魔力を纏ってみせるだけでオッケーだよ、それで大体の実力が分かるから。私はただカイルさんと手合わせしたいだけ。……団長から、弟子の中で最も才能があるって聞いていたからな」
セレーナは、待ちきれない、といった感じでニヤリと笑った。
どうしてそんなに血気盛んなんだろう。絶対に生まれる家(伯爵家)を間違えたよね?
呆れる私の隣ではリーシェも心を躍らせているのが伝わってきた。
(ようやくセレーナの腕前が見られるようですね。戦闘センスなんかは魔力だけでは分かりませんから)
「そういえば、今の(時系列の)リーシェはまだセレーナが戦っているとこ見てなかったね。戦闘センスか……、私はなさそう」
(それは分かりませんよ。そうです、私達ももう魔力を纏っておいてさっさとランク判定してもらいましょう)
言うが早く兎の魔獣は真っ黒な闇の魔力をその体から溢れさせる。途端に受付のある部屋にいた職員やハンターらしき人達は一斉に距離を取った。
……なるほど、皆のおかしな雰囲気のわけが分かったよ。命を削る死神兎はこの業界でも有名みたいだ。
まあ、私も早くランク判定してほしいし魔力を纏っておこうかな。たぶんせいぜいランクEだろうけど。私って今まで魔力をこねてばかりできちんと体に纏うのは初めてだっけ? まいっか。
こねこねでやや大きくなった魔力を引き出すと、セレーナとリーシェが揃ってこちらに振り向いた。
「へぇ、エミリアの魔力、面白いことになってるな」
(さすがは私の契約者です)
ん、どういうこと?
と首を傾げているとカウンターの奥から四十代くらいの渋い男性が現れるのが見えた。彼は私達の顔を順番に眺める。
「……これは、すごいルーキー達が登録に来たものだ。騎士団の剣姫とマッドラビットは分かっていたが、あなたも相当なものですよ、エミリア嬢」
この人、私達のことを知っている……?
おそらくここの支部長カイルさんであろうその人はまっすぐ私の前まで歩いてきた。
「魔力の量はさほどでもないが、質が並大抵の力強さではない。その若さですでにいくつか死線を越えておられますね?」
「……はい。ここ最近、二度ほど死にかけまして」