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騎士団の練習を見に来ました。

 

 午後は更に馬車を走らせて、ここの領土の観光名所になってる湖や滝を見に行くらしい。

 今まで雨のせいで湖は濁り、滝は増水して危険になっていたため、その様子を見に行くんだとか。


 一応報告では以前通りらしいけど、しっかり領主自らが確認に行くんだって。責任感ある人だよね。



 というわけでやってきた、湖。

 いや、想像より広い。めちゃくちゃ広い。しかも凄く水が澄んでて綺麗。


 湖を囲ってる木々も青々としていて、花も咲いてる。素晴らしいロケーションだ。


「ここが観光名所のオルタの湖だよ」


 隣に旦那様が並んで、一緒に湖を眺める。

 オルタの湖。これが雨で濁っていたなんて信じられない。


「雨が降らなすぎても干上がっちゃって困るけど、ずっと降ってると濁ったままになるんだよね。程々がいいなんて、人間も勝手なものだね」


 はは、と笑いながら旦那様は言う。


 確かにここを観光地にしたいのは人間の勝手で、天気を操る精霊には関係ないことだ。


 でもこの景色はとても綺麗だから、精霊も好きだと思うんだけどな。

 景色を綺麗だと思うような心は精霊にあるのかな?


「少し見て回りたいんだけど、一緒に来る?」


 そう聞かれたので頷いた。

 今日は履きなれた歩きやすい靴を履いてきてるし、沢山歩く準備はできてる。


 湖の周りを探索に、れっつごー!




「ここはね、景色を見て楽しんだり、手漕ぎボートも貸し出してるから、それに乗ったりして楽しむんだよ」


 ガイドさんみたいに旦那様に説明してもらいながら、湖のほとりを歩く。

 ここから少し進んだところに小屋があるし、そこからは桟橋も出てる。あそこからボートで湖の真ん中に行けるのだろう。


「今日は残念ながらボートには乗れないから、次きた時に乗ろうか」


 こくこくっ!


 やった、次きた時はボートに乗れるって!

 すごい楽しみじゃない?ボート乗ったことないよ、私!


「フェローは何するにしても楽しそうだね」


 それはもちろん!この世界の何もかもが初めてでワクワクしてる!


 にこにこと笑顔を向けると、ご主人様もくす、と笑った。


「見てる僕まで楽しくなってきちゃうなぁ」


 それはいい事じゃないですか!

 楽しい気持ちはいいよ、心が晴れやかになるよ。

 旦那様はちょっと色々背負いすぎだから、たまには色々忘れて楽しんでもいいんじゃない?


「うん、一緒に楽しもうか」


 私の気持ちが伝わったのか、旦那様はふわりと笑う。

 私も楽しいね、の気持ちを込めて笑顔を返した。




 湖を見終わって、次は滝に来た。


「……!!」


 圧巻、だった。


 10階建てのビルくらいの高さから、水が流れている。その音はドドドド、と鈍い音で、その下に入ったら潰れそう。

 でも少し遠目から見る分には、言葉も失うくらいに圧倒される眺め。


 水しぶきがきらきら輝いているのも良いポイントで、たまに虹もかかっている。


「凄いでしょ、この滝。ここまで大きなものは国内にも少ないんだよ」


 うん、凄い…。

 これは写真とか動画じゃ味わえないね。実際に来ないと、この凄さは分からない。


「虹が見れるのは運が良かったね。たまにしか見れないんだ」


 水しぶきで出来た虹を旦那様は見た。

 そっか、虹なんて作ろうと思って出来るものでもないし、ましてやここは自然の中だし、レアだよね。



 滝の凄さを見ながら私はその場で大きく深呼吸をする。

 マイナスイオンを全身で感じてる気がする。空気が美味しい。

 体の中身を全部入れ替えるような、そんな気持ち。



「ふふ、何してるのかな」


 旦那様が不思議そうにこちらを見ていた。

 空気が美味しいから、体の中を入れ替えてるんだよ。


「深呼吸?確かに、ここでするのは気持ちいいかも」


 旦那様も私の隣で、大きく深呼吸する。


 そうだよ、とっても気持ちいいよこれ。

 心も体もいい意味で空っぽになる。新しい空気が入って、気持ちがシャキッとする。


「……うん、気持ちいいねこれ」


 でしょ?


「ありがとう、フェロー。ひとついいことを知れたよ」


 大したことはしてないのに、旦那様は嬉しそうに笑っていた。




 滝を見たら今日の視察は終わりで、今日は別荘に泊まる。

 着いた別荘は私が普段住んでるお屋敷より一回り小さくて、それでもめちゃくちゃ大きい。いや、普段住んでるお屋敷がでかすぎるんだ。


 別荘には数人の使用人がいて、私達が来るから部屋とかを整えておいてくれてるらしい。

 内装はお屋敷とは全然違う雰囲気で、こっちも色々探索したくなる。


 でも今回は1泊だし、あんまりうろつくのも良くないだろうなぁ。


 なんて思っていたら。


「フェロー、一緒に庭を散歩しないかい」


 旦那様が誘ってくれました。




 旦那様に誘われてうきうきで一緒に庭に出る。もう塀の中だから使用人はついてこない。私によくついてくれる侍女も荷物を片付けに行ってくれた。


 うーん、ありがたき。



「ここの庭は花より木が多いんだ。緑が沢山あるのもまたいいよね」


 うん?花より木が多いねって言ってるのかな。

 そうだね、木が多い。緑が沢山で、これはこれで気持ちいい。


「穏やかな日々だね…」


 ぽつり旦那様が呟く。

 レイに訳してもらいながら聞くから、すぐに意味を理解できなくて悔しいけど、少し遅れて私も頷いた。


 うん、穏やかだぁ…。

 時間がゆっくり流れてる。煩わしいこともなくて平和な時間。


「フェローは僕と結婚してから、嫌なことはない?直して欲しいところとか。伝えにくいとは思うけど、教えてくれると嬉しいな」


 レイに訳してもらったのを聞いて、うーんと首を傾げる。

 嫌なところ?あるかなぁ。毎日平和に暮らせて万々歳だけどなぁ。


 ぶんぶんと首を振る。


「それならいいんだけどね」


 旦那様は少し困った顔をした。


「僕らは君になにか恩返しが出来てるだろうか…」


 どうやら旦那様は、私に恩返しがしたいらしい。雨をやませる為に結婚してくれた恩返し的な。


 でも私そんなの要らないしなぁ。むしろ快適に過ごさせてもらってこちらがお礼したいくらい。


 その気持ちをどう伝えようか迷って、迷った末に1番近かった旦那様の手を握る。

 旦那様が驚いてこちらを向いたので、にこっと笑ってその手を引っ張った。


「フェロー?」


 話さない私は伝える方法なんて限られてる。だから別に伝えようと頑張らなくてもいいや。

 そういうのは帰ってから手紙とか頑張って書いて伝えることにする!



 私は旦那様の手を引っ張って、庭を小走りで進む。

 ぶんぶん手を振り回して、楽しいよ!を全身でアピールした。


 それが伝わったのか、足の長い旦那様は大股で歩きながらくすり、と笑う。


「フェローが楽しいなら、それでいいか」


 そうそう!私も旦那様も楽しければ、それでいいよ!


 夕飯で呼ばれるまで、私たちは手を繋いだまま庭を散歩していた。




 次の日は、騎士団に顔を出してから帰る予定だ。


 騎士団。未知の世界すぎてわくわくする。そんな楽しい職業じゃないって分かるけど、やっぱり知らないものは面白いじゃない?

 それにほら、洋服とかかっこよさそう!


 ワクワクして馬車に乗り込み、旦那様と向かい合わせになる。


「本拠点に着いたら、僕はちょっと上の人達と話すことがあるから、ハリエットについててもらうけどいいかな?勿論侍女も護衛もいるけど」


 騎士団ではハリエットくんと一緒にいて、ですね、了解!

 こくんと大きく頷く。



 そう、なんと旦那様の弟のハリエットくんは、騎士だったのだ。

 まだ若く見えたし、優しそうな顔つきだったのに、騎士。ギャップ萌えもいいとこだ。


 それに侍女たちもいるような言い方だったし、怖いことは何も起きないだろう。


「粗雑な人が多いけど、大丈夫かな?」


 こくん。

 乱暴な人、大丈夫です!暴力は振ってこないなら、全然おっけー!

 むしろそういうイメージあるんで、覚悟してます!


 私の決意に漲った目を見た彼は笑った。


「そっか。フェローは強いね」


 私は強くないよ!?




 騎士団本拠点は、パッと見牢獄みたいな所だった。無機質な石の壁で囲われていて、建物の装飾も最低限。

 まぁ軍事施設ならこんなものなのかな。


「兄上、フェローさん!」


 拠点の敷地内に入って馬車を止めると、ハリエットくんが迎え入れてくれた。旦那様のことを見つけた時の喜びようが、ご主人様を見つけたワンコみたいで可愛い。

 ちゃんと私の名前も言ってくれて嬉しい。


「ハリエット、出迎えありがとう」

「いいえ、こちらこそ来てくれてありがとうございます」


 話しながら拠点の建物内に入る。


 質素な見た目からは想像つかないくらい、中は綺麗で驚いた。もっとコンクリート打ちっぱなしみたいな冷たい感じかと思ったらそんなことなくて、床は真っ白だし壁紙もちゃんと模様があって、普通に綺麗な内装だった。


 おおぉ、と感動していると、旦那様が私を見て笑う。


「中が綺麗で驚いてるんだね」

「まぁ軍事施設なので、外面を良くする訳にもいかないですからね」


 あぁ、ほとんど聞き取れない。難しい。

 ハリエットくんと旦那様の会話は難しいな。うーん、悔しい。


「ハリエット、僕が団長らと話をしている間、フェローのことを任せてもいいかな」

「勿論です。フェローさん、ここからは私がエスコートしてもいいですか?」


 ここからはハリエットくんが案内してくれるよって?

 ありがとうございます、喜んで!


 笑顔で頷くと、ハリエットくんもにこりと笑って同じように頷く。


「フェロー、困ったらハリエットを頼ってね。こうみえてもハリエットは強いから」

「兄上ほどでは無いですが、フェローさんのことはしっかり守ります。安心してくださいね」


 うん?ハリエットくんは強いっぽい。そして旦那様はもっと強いっぽい。

 領主って強いものなの?そういうもん?



 新しい謎を抱えながら、私は旦那様とお別れした。

 そしてハリエットくんと横並びになって歩く。


「フェローさんは気になるところとかありますか?…といっても、見学して楽しめるようなところはあんまりないんですけど」


 ハリエットくんが尋ねてくれた言葉に私の代わりに答えてくれたのは、私によくついてくれてる侍女の人。


「奥様は練習風景を見学したそうにしておられました」

「練習風景か。この時間だと丁度剣の打ち合いをしてるだろうから、そこに行きましょうか」


 こくん!


 やったぁ!騎士の練習が見れるぞ!

 剣の打ち合いなんて、学校の授業の一環でやった剣道くらいしか直接見た事はないから楽しみだ。

 きっとあの時みたいに呑気に「めーん!」なんて言ってられないだろうけど。




 ハリエットくんについていった先は、細長い部屋。横に長い壁の真ん中から上がガラスになっていて、そこに向かってベンチも置いてある。


「ここからなら安全に見えるんですよ」


 ハリエットくんがそう言ってガラスに近付いたので、私も近付く。


 そこからは大きな部屋を上から見渡せて、そこには沢山の人がいた。

 剣を打ち合ってる人がいたり、それを見てる人、何やら話し込んでいる人達がいる。


 なるほど、これが練習風景か。


「任務に出ていない騎士は、普段はここで練習しています。 いつ誰が緊急の任務に当たっても平気なように、練習内容は皆同じです」


 うん?うん??ほとんど分からん。


「半年に1度トーナメント式で闘技大会を行っているんですが、一年に一度の総合大会では、闘技大会で上位10名ほどと、それに参加出来ない各部隊の隊長や騎士団団長も戦われます。半年後にはなりますが、特別枠で兄上も参加するので、是非見に来てください」


 まったく聞き取れなかったので、ちらりとレイをみて訳してもらう。

 なるほど?半年後の大きい大会には旦那様も出るからぜひ来てねってこと?


 え、騎士達の大会になんで旦那様が出るの?てか、出れるくらい強いってやっぱりどういうこと?


 とりあえず行きたいので頷く。

 ハリエットくんは頷いた私を見て、笑みを浮かべる。


「兄上の戦う姿は滅多に見られないので貴重ですよ。すごく強くてかっこいいんです」


 ほほう…。

 あんなに優しいオーラで強いんだ…。

 イケメンで強いって、最強ってこと?


「私は兄上の強さに憧れて、騎士になったんです」


 ハリエットくんが騎士の練習を見ながらぽつぽつ言葉を漏らす。

 それをレイに翻訳されながら聞いていた。


「兄上は10歳くらいの時にはもう次期領主として勉強をしていました。1番上の兄がいるのですが、お恥ずかしい話、とても領主の器ではなかったので。」


 そうだよね。確か1番上のお兄さんが精霊の花を盗んだんだよね。

 それで精霊が怒って雨が降ったんだよね。


「でも兄上は勉強だけでなく、剣の腕も磨いていました。自分の手でも守るのだと。気付けば騎士に筆頭するくらい、いや騎士の中でもかなり上位に食い込むくらい強くなっていて…」


 わぁ…。領主の勉強の傍らでやってたのに、強くなっちゃったの?

 才能かな、それは…。


「文武両道の兄ですけど、メインは領主としての仕事なので、それならばと私は騎士の道に進んでいるんです。兄上のように強くなって、違う方向から領地を守りたいと思って」


 うん…素晴らしき兄弟愛だ…。

 1番上のお兄さんだけ問題児で失踪中ってのが気になるけど、ハリエットくんと旦那様は心が通じあってるんだろうなぁ。


「だから、兄上が身を捧げに行くと決めた時は絶望しました。私が代われたらいいのにと何度思ったことか」


 そっか、確か旦那様は、精霊の怒りを鎮めるために命を捧げようとしていたんだっけ。

 でもそれは領主にしか出来ないことだから、ハリエットくんが代わりたくても代われなくて。歯がゆい思いしただろうな。


「兄上が帰ってきてくれて嬉しかったです。家族としても、いち領民としても。巻き込んでしまったフェローさんには申し訳ないですけど」


 ぶんぶん。

 そんな事ないよハリエットくん。

 私は運悪くこの世界に来てしまっただけで、そこをファスが運良く拾い上げただけ。


 私に罪悪感なんて持たなくていいんだよ。


 その気持ちが伝わって、少し落ち込んだ様子のハリエットくんは、パッと明るい顔になる。


「フェローさんが来てから、晴天は続くし精霊の祝福も受けるし、何より兄上が楽しそうです。良ければこれからも、兄上と仲良くしてください」


 こちらこそです、と小さく会釈した。


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