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幸せを伝えました。

 

「おはようございます、奥様」

「おはよう、レベッカ」


 レベッカに朝の挨拶をする。今日もいい天気だ。


 服の着替えを手伝ってもらい、食堂に朝ごはんを食べに行く。

 朝ごはんがテーブルに置かれると、その説明を受けて、ひとつずつ私も声に出して確認をとる。


 今日の朝ごはんはパンとスープとオムレツみたいなもの、それからサラダにコーヒー。

 うん、今日も美味しい。


「ご馳走様でした。美味しかった、ありがとう」


 毎日これを作ってくれたコックさんに告げ、部屋に戻る。


 部屋に戻ると、レベッカも一緒に入ってきて、今日何するかを提案してくれる。


「本日は何をしますか?」

「んー…」


 首を傾げて考える。


 昨日は厨房にお邪魔して、夕食の準備を早い時間から手伝ったんだよなぁ。おかげで食材や器具の名前を沢山覚えられた。


「今日の午前中は、勉強する。午後は、温室に行く」

「かしこまりました。それでは、本を選んできますね」


 そう言ってレベッカが退室した。レベッカが帰ってくるまでに、私はノートとペンを用意するのだ。


 レベッカはきっといくつかの絵本をもってきてくれる。それを一緒に読みながら、文字と発音の練習をするのだ。絵本は最強である。




 私の全てを話した日から、2週間がたった。

 私はあれから沢山声に出すようにして、話す練習をしている。


 レベッカが常についててくれて、いなくても色んな使用人が声をかけてきてくれて、あれは何だとかこれは何だとか教えてくれる。

 そして意味がわからなければその場でレイに聞き、ちゃんとすぐに理解するようにしている。


 私がレイに聞いても、誰も何も言わずに見守ってくれている。

 そして私が声を出せることや言葉を知らないことを、誰も何も言ってこなかった。


 むしろあの時守ってくれてありがとうとたくさん言われた。

 みんなに受け入れて貰えたのが嬉しくて本当に泣いた。



 レベッカには特に色々面倒を見てもらってて、こうして絵本で文字と発音の勉強にも付き合ってくれるし、私が覚えやすいように簡単な話し方に変えてくれたりしている。


 今でも続けてるリアムへの手紙も、レベッカとレイに監修してもらってる。

 本当に頭が上がらない。有難い。




 リアムとも毎日沢山話すようにしていて、夕飯の時間は今日あったことを私が報告することで、話す練習をしている。

 リアムは私の感情をわかるから特に私の言いたいことを分かってくれて、私の話がスムーズに進みやすい。さすがです。


 ちなみにリアムに抱かれる時も、彼は私に言葉を教えてくれる。気持ちいい、とか、もっと、とか。

 散々言わされて次の日レイに聞いて意味を知った時、恥ずかしくて死にたくなった。


 あと、レベッカに言葉を習って、リアムにさんとか様をつけたいと思ってそれを教えてもらい、リアムに敬称をつけた所、つけないでと言われて呼び捨てが固定されました。

 呼び捨てにしてって言ってきたリアムの圧が異様に凄かった。そうまでして嫌なのか…。




 そういえばリアムのお兄さんは、ファスから呪いを受けたと聞いたけど、その内容が判明した。


 リアムのお兄さんが触った花は枯れ、彼がひとつの所に長く滞在すればするほどその地の天候が悪くなり、10日ほどで嵐になるそうだ。


 更に彼は精霊から嫌われるというデバフも食らって、行く先々で色んな悪戯をされるそうだ。

 突然泥水が頭上から降ってきたり、地面が泥沼になったり、突風で体を飛ばされたり…。


 うーん、中々凄い呪いだな…。

 まぁ自業自得か。



 心の底から反省してファスのところに謝りにくれば、許してあげるらしいけど。

 あの人がそう反省するようには見えないな。


 ちなみに今は牢屋にいて、牢屋の中で泥水まみれになることが多いらしい。

 まぁ、ざまぁみろかな。




 レベッカに読んでもらった文を、私も反復して言葉にし、絵本を読み進める。

 まるで子供の相手のようなことをレベッカがしてくれて、奥様として不甲斐ない。


 でもレベッカは1度も面倒臭そうな顔や呆れた顔はしなくて、奥様のためになれて嬉しいです、っていつも言ってくれる。


 本当に嬉しい。思い出すだけでまた泣いちゃいそう。



 午前の絵本で勉強する時間が終わり、お昼の時間になる。

 今日のお昼はどこで食べようかな、と考えていると、部屋にリアムが入ってきた。


「フェロー、お昼一緒にどうかな?」

「一緒に食べます!」

「良かった。じゃあ庭園に行こう。今日はいい天気だよ」


 リアムに腕を差し出され、私はその腕に手を添えた。


 在宅ワークの日は、リアムがお昼に誘ってくれることが増えた。今までもあったけど、そもそも在宅ワークが少なかった。

 でも今は、城でする仕事も王様を言いくるめて、どうにか持ち帰って仕事してるらしい。


 なるべく私との時間を取りたいんだって。嬉しくてにやけちゃうね。



「いい天気。お日様が出てる、風も出てる」

「うん、過ごしやすいね。穏やかな日だ」


 庭園のガゼボに腰掛けて、昼食を運んでもらう。軽い会話を交わしながら、ご飯を食べる。


 本当に、穏やかな日だ。

 平和で幸せな日。ずっと続いて欲しい。


「今度ハリエットが遊びに来るって言ってたよ。フェローのことを心配してた」

「ハリエット?リアムの……」

「弟、だね」


 そう、弟。そうか、弟はそう言うのか。


「ふふ、フェローが喋ってるの見たら、驚くだろうな」

「私上手く話せない。大丈夫?」

「大丈夫だよ。フェローはその分表情が豊かだから」


 そういう問題?

 まぁハリエットくん、私が上手く話せなくても優しそうだけど。リアムの弟だしね。


 でも私は大事なお兄さんの奥さんだから、少しでも胸を張れるように頑張るかな。


「そのままでいいよ、フェローは」

「そのままは嫌。私はリアムの妻、だから」


 ふん、と意気込むと、リアムは嬉しそうに笑ってくれる。

 彼は私が何を言っても嬉しそうな笑顔を浮かべてると思う。




 お昼を食べるとリアムは仕事に戻り、私はレベッカと一緒に温室に向かった。


 温室では、そこにある植物の名前を覚えたり、他愛のない世間話をレベッカとしたりして、言葉を覚えてる。


「レベッカ、私、リアムにプレゼントしたい」

「旦那様にプレゼントですか?とてもいいと思います。何にしますか?」

「私お金ない。私が作れるものがいい」

「作れるものですか。うーん」


 最近考えていたことをレベッカに相談してみた。


 リアムへ日頃の感謝を込めて、プレゼントを贈りたいと思っていたのだ。

 でもリアムが稼いでるお金で買うのもなんか違うと思うから、私が作れる何かをあげたいなと思っている。


「定番なのは、刺繍、ですね」

「ししゅう?レイ?」

『刺繍だね』


 なるほど、刺繍。糸で模様作るやつか。


「ハンカチに刺繍してプレゼントしたら喜ぶと思います」

「ハンカチに刺繍…」

「それ以外ですと、編み物、ですとか…」

「あみもの」


 もう一度レイの名前を呼ぶと、それは編み物だと教えて貰った。

 編み物かぁ。マフラーとかってことだよね?


「私におすすめ、どっち?」

「私は刺繍をお勧めします。ハンカチは年中使えるものなので」


 たしかに。編んだものは暖かいものが多いから、使うシーズン限られるよね。


 それなら刺繍にしようかなぁ。

 ハンカチは買わなくちゃいけないだろうけど。


「刺繍します。ハンカチに刺繍。レベッカ、用意お願いします」

「かしこまりました。白いハンカチを用意します。糸の色はどうしますか?」


 糸の色か…。何色がいいのかな。


「リアムは、何色好き?」

「旦那様の好きな色は分かりませんが、奥様の目の色などにすると喜ぶと思います」


 目の色?黒ってこと?

 そっか。そういえばいつしかレイが、この国の貴族はパートナーの瞳の色の物を身につけるのが想いあってる証拠なのだと示すんだとか言ってたなぁ。


 白地に黒はちょっとシンプルな気もするけど…。

 まぁリアムが喜ぶなら、いいだろう。


「黒にします」

「かしこまりました。用意しておきます」


 うん、頑張ってみせるぞ!




 次の日、レベッカに用意してもらったハンカチと刺繍セットで、刺繍を始めた。

 教えてくれる先生はもちろんレベッカで、毎日コツコツ頑張っている。


 一応リアムには内緒にしているけど、何か隠してることはバレてるはずだ。彼は鋭いから。



 そんなこんなで刺繍を始めて3週間。漸く完成した。

 真っ白のハンカチに、黒い糸で精霊を模した刺繍。花と木と太陽と大地のある自然を表したもの。


 うむうむ、なかなか上手くできたと思う。初めてにしては。




「フェロー、入るよ」


 その日の夜に、私はドキドキしながらリアムを待った。

 渡すのはやっぱりドキドキするもんだね。


 部屋に入ってきたリアムをベットに座らせる。リアムはなんの抵抗もなく座ってくれて、私が何をするのか期待して見ている。


 うう、そんなに期待した目を向けないで…。



 私は刺繍したハンカチを持ってきて、リアムにそっと差し出した。


「これは、精霊を模したマーク?フェローが刺繍したの?」

「うん。リアムにプレゼントするために」

「僕に?」


 リアムがハンカチの刺繍を丁寧になぞって、そして嬉しそうな顔をしてくれる。


「ありがとう、フェロー。大事にするよ」


 ハンカチに刺繍しただけの物でも、リアムがとても喜んでくれてるのが伝わる。

 でも、それだけじゃない。

 今日は練習した言葉も贈るのだ。


「リアム」

「うん」

「私は毎日幸せです」


 座ってるリアムを見下ろす形で彼の目を見つめる。


「リアムと過ごす毎日は、穏やかで平和で、心地いいです。リアムの笑顔見ると、安心できます」

「……うん」

「私と結婚してくれてありがとう。これからも、一緒にいてください」


 うん、ちゃんと言えた。

 しっかり言い切ると、リアムに手を引かれて私はリアムの腕の中に収まった。

 いつもより少し強めに抱きしめられている。


「うん。……僕も、結婚してくれてありがとう。これからもずっと一緒にいよう」

「はい!」


 この腕の中なら、何が来ても大丈夫。

 私の言葉が分からなくたって、彼となら通じ合える。



 異世界トリップして知らない間に結婚していたけど、私は幸せです。


本編はこれで完結です。

読んでくださってありがとうございました。

気が向いたら番外編追加します!

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