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結婚していたようです。

 2 結婚していたようです。



「奥様、本日は旦那様が※※※※※※」


 よく聞くフレーズは覚えてきたものの、ちょっとイレギュラーだと分からない。ちなみに聞き覚えたフレーズはちゃんと部屋で1人の時に声に出して練習している。


 聞き取れなくてちらりと視界に映るレイを見ると、レイは頷いた。


『今日は旦那さんが遅く帰るから、ご飯1人で食べてって連絡来たよだって』


 なるほど。

 私は侍女に向かってこくんと頷く。


 今日の夕飯は1人ですね、りょうかーい。




 紅茶も飲み終わり、少し涼しくなってきたので部屋に戻る。部屋に戻れば1人になれて、夕飯で呼ばれるまでレイとお話する時間になる。


『最近ユキが楽しそうで、私も嬉しい!』

「うん、楽しいかも」


 なんの責任もなくのんびり暮らして。美味しいご飯と暖かい布団で眠れて。

 ただ理由も分からない高待遇が、いつ終わるのか分からなくて少し怖いけど、突然放り出されてもレイがいるし、どうにかなるだろう。



 レイがこの世界の精霊というのはどうやら本当らしい。

 この世界の自然なものには精霊が宿っていて、彼らの機嫌ひとつで自然が変わるらしい。


 だから精霊祭りなんてものもあったり、精霊にお供え物をしたりもするんだと。神様みたいだね。


 そして精霊は人には見えない。話すことも出来ないし従わせることだって出来ない。



 じゃあレイは?と思ったら、どうやらレイが精霊の中で特殊なんじゃなくて、レイと話せる私の方が特殊だった。

 どうやら異世界から来た私は、精霊達にとっては加護しなきゃいけない存在らしい。


 なんで?って聞いたけど、そういうものだと言われてそれ以上は分からなかった。



 よく分からないけど異世界人の私は精霊に守ってもらえるらしい。レイが代表して私の近くにいるだけで、他の子も呼べば来るし、私の頼みだって聞いてくれるんだって。


 それを聞いて、試しに庭園にある蕾を全部咲かせてきてってお願いしたら次の日とんでもないことになってた。

 季節じゃない花まで咲いてて、屋敷中大慌てになっていた。


 その日の夜、旦那様は「精霊の悪戯かな」なんて言っていた。ごめんなさい、私の悪戯です…。



 そんな訳でレイや名前も分からないけど他の精霊達に見守ってもらいながら、日々楽しく過ごしている。

 そんな凄い彼らといるわけだから、突然放り出されても平気な気するよね。


『ユキが嬉しい気持ちになると、私達も嬉しくなるの!』

「そうなの?」

『うん!精霊達みんな嬉しい気持ちになるよ!だからほら、最近晴天で穏やかな日ばかりでしょ?』


 ……。なるほど?

 私の機嫌が精霊にも影響して、それは天気にも影響するの?

 影響しすぎじゃない?


「雨も降らないと農家さんは困ると思うんだけど、私は悲しい気持ちになったらいいのかな?」

『そこは大丈夫!農作物の精霊は機嫌がいいと豊作にするし、そうなるようにちゃんと雨も降らせるよ!』


 ……もう何も言うまい。

 精霊というものの存在の大きさを改めて認識して、顔がひきつる。


『ユキが嬉しければ、ユキの周りにはいいことしか起こらないから!』


 レイが輝くような笑顔で言った。


 それは嬉しいけど、責任重大だね?私が悲しめば、周りも嫌なことばかり起こるって事だもんね?


 …うん、心を落ち着けられるように頑張ろう。


「他の異世界人も、精霊に好かれるの?」

『どうだろう?異世界人なんてきたこと無かったから』

「えっ。そうなの?」


 異世界人だから、私は好かれてるんじゃないの?

 それは当たってるらしいけど、異世界人そのものが初めてみたい。なのに私は加護しなきゃいけない存在だなんて、謎だ。


『それよりさ!来週は精霊祭りでしょ!ユキが来るからみんな張り切ってるよ!』


 レイに話題を変えられ、難しいことは置いとくことにした。

 そう、精霊祭り。それが来週ある、らしい。



 精霊祭りは精霊に感謝する祭りで、1年に1回のお祭りなんだって。国で定めた日に各街でお祭りをするらしく、私も近くの街に連れて行って貰うことになった。


 勿論この世界にきてこの屋敷から出たことはなくて、わくわくしている。

 そしてどうやら私が来ることに精霊達もわくわくしてるらしい。


「私も楽しみだなぁ。この世界の街、どんな感じなんだろうなぁ」


 このお屋敷は森に囲まれているし、屋敷全体を大きな塀で囲ってて外は見えない。


 だからわくわくするな。この世界の街、この世界のお祭り。


『沢山楽しもうね!』

「ふふ、そうだね」




 そしてやってきた、精霊祭り当日。

 私は侍女に外向けの服を着せてもらった。足首まであるワンピースだ。

 どうやらこの世界の女性は足を晒すのは良くないらしい。


 歩きやすい靴を履いて玄関に行くと、旦那様がいつもよりラフな格好でキラキラオーラを纏って待っていた。


「今日の装いも可愛いね、フェロー」


 イケメンが笑顔で甘い台詞を言ってる。歯の浮くようなセリフも似合ってしまってるから困る。


 彼の言葉に笑顔を返すと、彼は手を差し出してきた。

 その手を取って、使用人たちにお見送りされながら馬車に乗り込んだ。




 やがて馬車が止まり、旦那様の手を取って外に出た。

 着いたところは街の大通りの裏で、ここから歩いて大通りに行くらしい。


「今日は人が多いから、はぐれないように気をつけないとね」


 こくり。

 今日はぐれたら多分二度と帰れない気がする。迷子の誕生だよ。


 旦那様の隣をしっかり陣取って、はぐれないように気をつけながら進む。

 そして大通りに差し掛かった。



 広い道にたくさんの人が溢れかえっていて、両サイドには色んな店が並んでる。屋台も出ていて、ワイワイガヤガヤと楽しそうだ。

 道沿いの家の屋根から、道を挟んだ反対側の家の屋根まで紐が繋がっていて、ガーランドのようなものがいくつもぶら下がっている。


 凄い、お祭りだ。楽しそう!

 わぁ、すごい胸が踊る!



 わくわくしながらも、旦那様からはぐれないようにと近寄るも、人の波に押されてよろめく。

 そんな私の肩を抱いて旦那様は自分の所に寄せた。


「思ったより人が多いな…」


 旦那様は女性の扱いも慣れてるのか、私の肩を抱き寄せてもなんの反応もない。


 まぁこんなイケメンだもんね、分かるよ。

 私もこれくらいで顔赤くするほど純粋でもないしね。



 でも肩を抱かれながら歩くのも歩きにくいのので、私は彼の服の袖を摘んだ。

 彼はそれに気づくと少し驚いて、ふんわり笑った。


「それならはぐれないね」



 彼の裾を摘んだまま、街中へ歩き出す。前から人が来てぶつかりそうになった時は旦那様が肩を抱いて避けさせてくれて、流石である。


「フェロー、花飾りは何色にする?」


 旦那様に連れていかれた屋台に、沢山の花飾りが並んでいる。

 精霊祭りでは、女性は花飾りを頭に、男性は花のブローチを胸につけるのが習わしらしい。


 街ゆく人たちも皆花を付けている。


 うーん、何色、何色かぁ。


 私は白い花飾りを指さした。

 旦那様はそれを手に取って、これ?と聞いてきたので頷く。


「いいね。フェローの綺麗な黒髪によく映えるね」


 彼はそう言って私の選んだ白い花飾りと、恐らく自分の分の黄色い花のブローチを買った。


 黄色い花のブローチを自分の胸に付けて、白い花飾りを持って私の頭に手を伸ばす。

 どうやら付けてくれてるみたいだ。


「うん、似合ってるよ」


 そう言われたのでお礼を込めてニコリと笑う。

 そんな私たちの様子に、店員のおじさんががはは、と笑った。


「※※※※※」

「はは、ありがとう」


 何を言ったのか聞き取れなかったけど、旦那様が笑顔でお礼を言っていた。

 ちら、とレイに目を向けると、ちゃんとレイは通訳してくれた。


『仲良い夫婦だねって言ってた』


 なるほど、そう見えるのか。




 花飾りをつけて再び街中を歩く。

 やっぱりと言うべきか、旦那様は人の目をひく。

 これだけイケメンだしね。当たり前だよね。


 でも私まで注目されてるのはなんでだろう?ちらちら私の方を見る人もいる。

 ただこのイケメンの隣にいる人が気になるだけかな?



 そう思いながら、旦那様に食べ物の屋台へ連れてこられた。


「※※※はどう?たべる?」


 多分料理名を言ったんだろう。ここの屋台の串焼きのようなものを指してるのかも。

 食べる?と聞かれたことは確かで、その串焼きはお肉の串焼きでとても美味しそうだ。


 こくりと頷くと、旦那様は串焼きを焼いてるおばちゃんに2つ頼んでいた。


 おばちゃんは頼まれた分を火にかけながら、私を見た。

 うん?私?


「※※※※※※※!」

「はは、そうでしょう?」

「※※※※、※※※※※!」

「そうだね、気をつけるよ」


 どうやら街の人たちの言葉は、言葉遣いが違うのか聞き取れない。しかも早口だし、全く分からない。


『領主様の奥様、可愛くて驚いたよって言ってて、その後は悪い人に気をつけなよって言ってる』


 なるほど……うん?

 領主様?領主様なの、旦那様?


 新事実に驚いてると、旦那様が串焼きを受け取ったので、私はおばちゃんに笑顔を向けた。おばちゃんも笑顔で手を振ってくれた。



 串焼きを持って近くの噴水周りのベンチに2人で座る。

 旦那様に串焼きをひとつ渡されて、受け取った。


 かぶりついた串焼きは、すごくジューシーで美味しかった。塩だけのシンプルな味付けが、肉の良さを出している。

 赤身肉なのか油っぽくなくて、でも柔らかい。


「美味しいね」


 旦那様が私の方を見て言ったので、私も頷く。


「ここ数年僕の領地は雨ばかりでね。今年の精霊祭りも心配だったけど、晴れてよかった」


 数年単位で雨ばかりだったなんて。それは心配だろうなぁ。


「でもフェローを迎え入れてからのこの2ヶ月は晴天ばかりで嬉しいよ。フェローには申し訳ないけどね」


 ?なんで申し訳なく思ってるんだろう?

 よく分からないけど、私は旦那様に笑顔を向けておく。


 私こそ、得体の知れない人なのに保護してもらって生活費出してくれて、感謝してます。

 晴ればかりなのは多分私の気持ちにつられた精霊のおかげだから、これからもいい天気が続くように頑張るよ!


 その気持ちを込めてにこり。

 彼は私の笑顔を見て、ふっ、と笑みを零した。

 うん、イケメンは笑ってる方がいい。



 串焼きを食べ終え、また街を歩く。旦那様は色んな店に連れてってくれて、行くところ行くところで色んなものを買い与えようとしてくる。


 でも必要なものは揃ってるし、そんないくつも要らない。そう思って断っていたものの、領主として顔が知れてる旦那様が店に顔を出したのに何も買わないのは良くないらしく、それならと甘えて買ってもらった。

 ちなみに買ったものは後日家に届けてくれるらしい。便利だね。



 街の人達は領主が結婚したことを喜んでいて、みんなにお祝いを言われる。

 私はてっきり結婚これからするのかと思っていたけど、もうしたことになっていて驚いた。知らない間に書類とか出されていたんだろうか。


 とはいえ一言も話さない私に街の人達は変な目を向けてくることはなく、みんながみんな祝福してくれて、なんだか気恥ずかしい。

 私は家でのんびりしてるだけで何もしてないんだけどね…。



 太陽が傾いてきて、少し空が赤くなってきた頃、旦那様は大きめの広場に連れてきてくれた。

 広場の中には手を取りあった男女が沢山いて、何かを待っているようだ。


 その輪の中に旦那様は私を連れて入り、少しすると音楽が聞こえた。


「フェロー、踊ろう」


 そう言われて、思い出した。


 精霊祭りの昼と夜の間に、各街でダンスパーティーをする時間がある。男女で手を取り合って、広場で音楽に合わせて好きに体を揺らすんだと。

 決まったダンスでもなく、礼儀も何も無い、自由気ままに踊るんだそうだ。


 何日か前の夕飯の時に踊りたいか聞かれて、頷いたんだった、そうだった。



 旦那様と向かい合って、両手を重ねて体を左右に揺らす。ゆっくり揺れて少し足を動かすだけの踊り。

 でも周りも大体似たような踊りをしていた。


「精霊祭りは楽しかったかい?」


 こくこく。


「そっか。それなら良かったよ。また来年も来よう」


 こくこくこくっ!


 また来たい。とても楽しかったから。

 その時まで私が奥さんかは分からないし、今でもこの人が旦那様ってちょっと現実味がないけど、また一緒に来たいと思えた。


『ユキ、楽しそう!』


 視界に映ったレイが、私を見て嬉しそうに笑う。

 私は笑顔をレイに向けると、レイはぱぁっと顔を輝かせた。


『じゃあ、もっともーっと楽しくしよう!』


 え?もっと?


 そう思った瞬間、ふわっと花の匂いが鼻を掠って、ざわめきが大きくなった。

 目の前の旦那様も驚いた顔で空を見上げていて、私もつられて上を見る。



 沢山の色んな花びらが、空から降り注いでいた。

 広場だけじゃなく、街中に全部。

 ひらひらと、花吹雪が街をおおっていた。


『ユキを楽しませようとして、みんながやってくれたよ!』


 レイがいい笑顔でそう言う。

 精霊たちが、私を喜ばせようとしてしてくれたの?


「凄いな……。精霊がやったんだろうね」


 旦那様も驚きながら口角を上げていて、どうやら喜んでいるらしい。

 周りの様子を伺っても、言葉は分からないけどみんな笑顔で花弁を浴びていて、嬉しそうにしてるのが伺える。


『どう、どう?嬉しかった?』


 レイが瞳をキラキラさせてそう聞いてきたので、私は笑顔を返しておいた。




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