仲良く過ごしているようです。
私とリアムさんの仲も深まって1ヶ月が過ぎた。
あれからリアムさんはずっと私の部屋で寝ていて、そして最初に抱かれてから体が痛みがなくなった瞬間にまた抱かれた。
それからは2〜3日に1度抱かれていて、毎回私は意識を失っている。だからリアムさんに洗われることも、侍女にシーツを取り替えてもらうことも慣れた。
彼の性欲の底が見えなくて恐ろしい。
勿論嫌じゃないし、むしろ愛が深まる気がしている。最中に聞いた彼の言葉はレイに訳してもらってはないけど、ある時普通に寝る時に夜にくれた言葉が、してる時によく聞く言葉だと思ってレイに聞いた。
そうしたらその言葉はなんと、愛してるだったのだ。
私が感じた彼からの愛は確かなものだった。
彼は事実私を愛してくれていた。
私も同じ気持ちだと伝えたくて、頑張って言えるようになってから彼に伝えると、その日はいつも以上に激しく頂かれた。
何がトリガーだったんだろうか…。あの時の彼の目は凄くギラついていたなぁ…。
私は少しずつ彼の前では言葉を出すようにした。もちろん、レイにしっかり合格を貰った言葉だけ。
今のところは、旦那様(最初の1回だけ)、リアム、愛してる、おはよう、ありがとう、くらいだけど。
それくらいしか言葉を出さなくても、彼は何も疑うことはしなくて、むしろ喜んで次の言葉を待ってくれている。
でもやっぱり名前を呼ばれるのが好きみたいで、しない日は特に名前を呼んでとせがまれる。
まぁ、良いんだけどね。呼んだ時のふにゃ、とした嬉しそうな顔は可愛くて何度でも見れるから。
ちなみに文通もしている。ただ頻度は落ちて、今まで2日に1回書いてたのが、今では3日に1回くらいだ。少ししか変わらないね。
理由は簡単。私が書くのに半日かかるのに、リアムさんに抱かれると次の日は半日潰れるからだ。今まで午前中に散歩して午後手紙を書いていたのに、散歩の時間が潰れるから、午後に散歩の時間を回すのだ。
散歩大事。お屋敷の人とも交流できるし、やっぱり1日1回は外の空気を吸いたいものだ。
「フェロー、ただいま」
「リアム」
夕飯の時間に部屋に迎えに来てくれたリアムさんに駆け寄る。私が寄ると彼は私のおでこにキスを落として、笑顔を浮べる。
「さぁ、食堂に行こうか」
こくりと頷いてその腕に手を添え、歩き出した。
リアムさんは夕飯の時に迎えに来てくれるようになった。しかもたまに思い出したようにお姫様抱っこで連れていく。あれはまだ慣れない。
彼は私が近寄ればおでこにキスをしてくれる。身長差があるから、1番しやすいのがおでこだ。
ベッドでは身長差は関係ないからか、口に口付けてくることが多いけど。
彼と私の身長差は30センチはあるから、私の口にキスするために屈むのは大変だろう。だからおでこにキスも無理しないでとは手紙に書いたけど、したいからしてるんだよ、と返信が来て、その日の夜はありとあらゆる所にキスされた。
やっぱりトリガーが分からない…。
「フェロー、来月に王宮で王太子の婚約を祝う夜会があるんだけど、フェローは行きたい?」
夕食時、リアムさんがそう聞いてきた。
レイに訳してもらって、ようやく意味を理解する。
王太子?っていうのは確か次の王様だよね?それの婚約を祝う夜会?パーティ?
うん、よく分からないけど楽しそう!
「そっか、行きたいよね。……もしかしたらフェローに嫌なことを言ってくる女性がいるかもしれないけど、大丈夫?」
リアムさんは心配そうな顔で私を見た。
嫌なこと言ってくる女性がいる?あぁ、この前の女騎士みたいな人がいるってことか。
受けて立とう!の意味を込めて、自分の胸を叩く。
リアムさんはくす、と笑って頷いた。
「分かった、じゃあ準備しておくね。勿論、僕も守るから安心してね」
こくん!
リアムさんがいるなら心強いから!大丈夫!
それに多分レイは訳してくれないし、傷つかないよ!
初めての夜会にやる気が出た。
それから私は、夜会で使う必要最低限の礼儀を教わることになった。どうやら夜会には貴族とやらが蔓延っていて、リアムさんも貴族の一員。そしてその妻の私にも礼儀が求められるらしい。
リアムさんは無理しなくていいとは言ってくれたけど、私はやる気満々である。ちなみに私は話せない設定らしく、言葉を出さなくても大丈夫なようだ。
礼儀を教えに来てくれたのは、リアムさんの叔母にあたる人で、スコット伯爵夫人。
彼女はとても優しくて、私が話せなくても全然気にしない。
私とリアムさんのこともとても喜んでくれて、第2の母のような印象を持った。
リアムさんの貴族としての立場はだいぶ上のようで、一応私もその妻であるわけだから、リアムさんに手紙で聞いてみた。
リアムさんの爵位は何ですかって。
そうしたらなんと、公爵と返事が返ってきた。
あれ?公爵って、貴族の中で一番偉いやつじゃない?
そう思ってレイに確認とったけど、やっぱりその通りだった。
ひぇ。そんなに偉いと思わなかった。そりゃ女の人寄ってくるわけだよ!
そんな偉くてこんなにイケメンだったらみんなその隣狙うはずだし、ぽっと出の身元の知れない女が妻になってたら嫌にもなる!
なんて思ってレイに言ったけど、レイは首を傾げて、「精霊から守られてるユキの方が地位は高いよ?」なんて言われた。
そこの所はレイからしか聞いてないし、リアムさんにも言えないので真偽のほどは定かではない。
「奥様、ドレスが届きましたので、確認のために着ていただいてもよろしいですか?」
パーティを2週間前に控え、私のドレスが届いたらしい。
ちなみにパーティの話を聞いて直ぐに仕立て屋さんが尋ねてきて、私に似合う形とか色とか装飾とか、色んな相談をして帰っていった。
あの人が作ってくれたのかな。
侍女に手伝ってもらって着替える。
シルバーのドレスに、黄緑のアクセサリー。
手伝ってもらって着替えたけど、中々いいと思う。
『ユキきれーい!』
くるくるとレイが回るのを見て、私もニマニマしてしまう。
様になってる気がする。私に合うものをよく分かってるって感じ。
「奥様、大変お似合いです」
ありがとうの意味を込めてニコリと笑う。
このドレスが勝負服のように思えて、どんな人達がいるかは分からないけど、なんとかなる気がする!
「ドレスはどうだった?素敵だったって報告を受けたんだけど」
寝る前のお話タイムで、リアムさんに聞かれた。
私は笑顔でこくこく頷く。そこから察してくれたのか、彼も笑顔を向けてくれた。
「僕も見たかったな。でもみんなに当日までお預けって言われてしまってね。悔しいけどもう少し我慢するよ」
そう言えば侍女もそんなこと言ってた。
この姿を旦那様に見られたら、ドレスをグチャグチャにされますって。
なんでそんなことを思ったのかは分からないけど、リアムさんはなんか分かってそう。
まぁ聞かないけど。
わかる人がそう言うなら、従っといた方がいい。
「今回は間に合わないけど、もし次にパーティに出る機会があったら、僕と踊って欲しいな」
こてん、と首を傾げて可愛くおねだりされてる。
うぐぐ、可愛い…。
これは頷くしかできない。
「ありがとう。楽しみだなぁ」
次までにダンスを覚えないと。リアムさんがこんなに楽しみにしてくれてるんだから。
その時には話せるようになってるといいなぁ。
「素敵です!最高に美しいです、奥様!」
侍女が胸の前で手を合わせて、私にキラキラした目を向けてくる。
私も鏡を見て、中々いいじゃん、と自画自賛した。
化粧もしてもらって髪も整えてもらい、仕立ててもらったドレスに着替えて黄緑に統一されたアクセサリーを付けて、仕上がった私。
結構綺麗だと思う。うん、みんなのおかげだけど。
「旦那様も惚れ直すに違いありません」
手伝ってくれた他の侍女もうんうん頷いている。それには苦笑を返した。
惚れ直すも何も、惚れてはないと思うからなぁ。愛はあるけど。
「旦那様には玄関でお待ちいただいておりますので、そちらに行きましょう」
あ、そうなんだ。リアムさんのことだから迎えに来てくれると思ったけど、今回は違うんだね。
そう思ったのが顔に出てたのか、侍女はクスリと笑った。
「部屋まで迎えに来られると、そのまま部屋から出てこなくなる可能性が高いので」
どゆこと?
「奥様が美しいあまり、他の人に見せたくないと仰られたら困りますので」
うーん、そこまでならないと思うけどなぁ。
リアムさん優しいし、きっと私を見て綺麗だとか可愛いとかは言ってくれるし思ってもくれるだろうけど、そんな絶世の美女でも無いし。
そう思いながら玄関に行くと、リアムさんが私を見て固まった。
「?」
首を傾げてリアムさんに近付き、その顔の前に手を振る。
するとハッと意識を戻したリアムさんが、眉を顰める。
あれ、なんで?
「だから玄関で待ってろって言われたのか…。確かにこんな綺麗なフェローを見てしまっては、部屋から出られないね」
ポツリ言った言葉は私には届かなかったけど、レイがしっかり教えてくれた。
本当に部屋から出させないつもりだった!
侍女さん、さすがです!!
「フェロー、とても似合ってるよ。美しすぎて君の姿を見せに行くのが嫌なくらいだ。いっそ仮病で休むのもありかな?」
ぶんぶん。
「そうだね、フェローは楽しみにしてるんだもんね。悔しいけど、君のドレス姿を堪能するのは帰ってからにしよう」
笑顔で腕を差し出され、その腕をとる。
屋敷の人に見送られながら、私達は馬車に乗り込んだ。
「本当に綺麗だよ、フェロー。この場で襲えないのが悔しいな」
良かった、馬車で襲おうとしてくる人じゃなくて。
そこに少しほっとしながら、私はレイと練習していた言葉を声に出す。
「リアムも、素敵です」
にこりと笑って言うと、リアムさんは手で顔を覆った。
なんか少し震えてる気がする。
「……っだめだよフェロー。襲うの我慢してるんだから、そんな可愛いこと言わないで」
どうやらトリガー引きかけたらしい。危ない危ない。
でも私だって褒めたかったんだ。リアムさんはいつもカッコイイけど、今日はより素敵なんだ。
黒いジャケットと黒いズボンに、白いブラウス。色味がシンプルだからより彼の美しさが際立つ。
大人な感じも相まって、傾国の美女ならぬ傾国の美男子だ。
「フェロー、今日は君に口さがない人が居るだろう。でも君は堂々としていていいんだからね。僕の隣は君だけだから」
リアムさんに言われたことを、しっかり心に留める。
色んな人が私に悪意を向けてくるんだろう。そしておそらくレイは訳してはくれない。
ただリアムさんも言う通り、リアムさんの隣は譲る気ないし、堂々としていよう。
私は精霊が決めたリアムさんの妻なのだ。文句は言わせない。
この国にとって精霊がどのくらい発言力があるのかは分からないけど、公爵であるリアムさんが従って見知らぬ女を妻にするくらいには、精霊の言葉は重いものだと思ってる。
それに、リアムさんの時はグランダート領の精霊からの言葉だったけど、そのさらに上の立場のレイが私にはついてる。
何も怖いことは無い!
私がやる気に満ち溢れて拳を握ってると、レイも気合を入れて、ふんっと力こぶを作っていた。




