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12/21

旦那様からの愛を感じました。

 

 ぱち、と目が覚めた。

 ぼんやりと、天井を見つめる。

 そこでなにか違和感を感じた。


「……そうだ、いつも起こしに来てくれる侍女が来てないんだ」


 いつも決まった時間に侍女が起こしに来てくれるのに、今日は来ていない。

 ならまだ起きる時間じゃないのかと思えば、窓から差し込む光は普通に明るくて、なんなら寝坊したんじゃないかってくらい。


「でもなんで起こしに……いっ……」


 起き上がろうとして、腰に痛みを感じて中断した。

 そこで思い出す。



 あー…。昨日、リアムさんとやっちゃったんだった…。

 いや、やっちゃったって言い方悪いか。

 一線を越えたんだった。


 それを思い出せば侍女が起こしに来ないのも頷ける。優しいリアムさんの事だから、起きるまで寝かせておいてあげてとか言ったんだろう。


 リアムさんが事後自分の部屋に戻って寝るタイプか、女と寝るタイプかは分からないけど、彼は多分仕事に行ってるんだろう。体力えぐかったからなぁ。




 リアムさんは、それはそれは凄かった。

 優しくて穏やかないつもからは考えられないくらいガツガツしてた。

 流石に最中にレイに訳してもらう訳にはいかないので、何言ってるのかよく分からなかったけど、私を気遣ってくれてるのは感じた。


 首を振れば少しゆっくりにしたり体勢を変えたりしてくれたし、手を広げて彼に伸ばせば抱きしめてくれたし、沢山私の名前を呼んでくれたのを覚えてる。


 残念ながら意識を失う寸前の記憶はないけど。多分私は疲れ果てて寝た。

 だってリアムさん、体力めっちゃあるし、なんていうの、絶倫ってやつ?何回果てても終わらないんだもん。



 それでも少しも嫌とは思わなかった。もう勘弁してとは思ったけど、拒否反応は出なかった。

 きっとリアムさんの行動に、愛を感じたんだと思う。うん。



 恐らく筋肉痛の体をなんとか起こして、ベッドから起き上がる。

 すると目の前にふわ〜と羽の生えた小人が飛んできた。


『ユキ、大丈夫?』

「大丈夫だよ」

『痛いの?痛いことされたの?』


 レイは昨日のあれが愛し合う行為だとは知ってても、私が痛がってるから酷いことされたのだと思ったのかな。

 心配そうな顔をしている。


「これはね、私が運動不足だから痛いだけで、痛いことをされた訳じゃないんだよ」

『そうなの?確かにユキの感情は、痛いのに嬉しそう』


 レイがふふふっと笑う。

 そっか、レイには嬉しいっていう感情が伝わってるのか。ならきっと私は嬉しいんだな。



 ゆっくりソファに座ると、目の前のテーブルにメモ用紙と、その隣にハンドベルが置いてあった。


「昨日は、無理させてごめんね。今日は1日ゆっくりしてほしい。起きたら……これはなんて書いてあるの?」

『起きたらベルを鳴らして。そうしたら侍女が来るよって』


 なるほど。一緒に置かれたハンドベルを鳴らせば、私が起きたと伝えることができるんだね。


 私はハンドベルを鳴らした。

 するとすぐにドアをノックする音がして、いつもの侍女が入ってきた。


「おはようございます、奥様」


 おはようの意味を込めて頷く。

 侍女は少し嬉しそうにも見える笑顔を浮べる。


「お体はどうでしょうか。痛いところはございますか?」


 そう聞かれたので腰を擦る。


「腰でございますね。後ほどマッサージをいたしましょう」


 やった、マッサージしてくれるって!

 うきうきと心を弾ませていると、侍女はふふと笑った。


「本日はあまり無理をせずにお過ごしください。そろそろお昼の時間ですが、昼食はこちらに運ばれますか?」


 その言葉にぎょっとした。

 もうお昼!?確かに明るいけど、もうそんな時間なの!?

 寝坊なんてもんじゃなかったな、これは…。


 とりあえず頷いておく。


「かしこまりました。昼食の準備をしてきますので、こちらでお待ちください。何かございましたらそのベルを鳴らしてくださいませ」


 ぱたん、と扉が閉まる。


「なんか嬉しそうだったね」

『屋敷のみんな喜んでるよ!』

「えっ、なんで」

『旦那様と奥様が結ばれた!って!』


 くるくると目の前で楽しそうに回るレイ。

 ええ、私とリアムさんが結ばれたことに、そんなに喜ぶ?

 まぁ、悪い気はしないけど…。


 ふぅ、とソファの背もたれに体を預ける。

 そしてふと視界に入った自分の洋服が、寝る前の物と違うことに気付く。


 意識を無くした後に新しい寝間着を着せてくれたのだろうか。でもそれにしては、なんか体もさらさらしているような…。


「…誰か私をお風呂に入れてくれた?」

『入れてたよー』

「えっ、誰?」

『リアム!』


 キャッとはしゃぐレイ。ぽかんと口を開ける私。


 ……ええぇぇ!?リアムさんが!?私をお風呂に入れてくれただって!?


「ど、どういうこと?詳しく!」

『詳しく?そのままだよ!寝ちゃったユキをお風呂に連れてって、綺麗に洗って拭いて、新しい洋服着せて、ベッドに運んだの!』


 …なんてことだ。そんなこと出来るの?

 眠った人間運んで洗うのって、めちゃくちゃ大変だよね!?しかも洋服まで着せてもらってたなんて!


『んでー、お風呂入ってる間に、侍女がベッドを綺麗にしてー、リアムがユキのベッドで一緒に寝たの』

「あ、一緒に寝てたんだ」

『ぎゅーして寝てたよ!』


 あぁ、うん、そうなんだ…。

 てゆーか、お風呂入ってる間にベッドを綺麗に…。

 恥ずかしい……。

 もう侍女達に頭が上がらないよ、うう。


 過ぎたことは仕方ない。きっとこれがこの世界なんだ。領主の妻で、領主とそういうことするってことは、こういうのにも慣れないといけないんだろうな。

 侍女に体洗ってもらうのだって頑張って慣れたもんな…。


 私は色々諦めることにして、侍女の運んできてくれたお昼ご飯を食べた。




 お昼の後は、1時間くらい散歩のために外に出たくらいで、それ以外は部屋の中にいた。

 レイに言葉の練習を聞いてもらい、文字の練習もしていた。


 そして夕食時になって、そろそろ侍女が呼びに来るかな、と思っていたところ、ドアのノック音がなる。

 入ってきたのは、なんとリアムさんだった。


「ただいま、フェロー。体の調子はどう?」


 リアムさんは心配そうな顔を私に向けてきた。

 私はニコッと笑って立ち上がろうとしたところ、腰に痛みを感じて体が固まった。


 すぐさまリアムさんが駆け寄ってきて、私を支えるように手を添えてくれる。


「無理しないで。…と言っても、無理させたのは僕なんだけど」


 ごめんね、と言いながら私を見る目は優しくて、私のことが大事だと訴えている。


 私は首を振って、彼の目を見た。


「リアム」


 名前を呼んで笑えば、彼は優しく私を抱きしめた。

 この優しい腕が、昨日は私を組み敷いていたんだなぁ、なんて。なんか少し照れくさいような。


 そんなことを思っていたら、彼が私の膝裏に腕を持っていき、そのまま私を抱き上げた。


「!?」


 お姫様抱っこだこれ!

 目を見開いてリアムさんを見ると、彼は私の目を見てにやりと笑う。


「体辛いだろうから、僕が食堂まで運ぶよ。君が動けないのは僕のせいだからね」


 ぶんぶんと首を振るも、彼は爽やかな顔でそのまま歩き出してしまう。


 えっ、これで行くの?本当に!?



 止める間もなく彼は私の部屋を出て、食堂までの道を歩き出す。

 道すがら出会った使用人達がこちらを見て微笑ましい顔をしてるのがいたたまれない。


 恥ずかしい…。付き合いたてのカップルじゃないんだし…!


 ちらりとリアムさんを見ると、彼は涼し気な顔をしていて全く恥ずかしそうには見えない。

 それどころか、少し嬉しそうに見える。


 うん…まぁみんな喜んでるし、いっかぁ…。



 恥ずかしさをなんとか耐えきって食堂に着き、椅子に下ろして貰えた。

 そしていつものように夕食を食べたけど、運んでくる使用人やコックさんが、みんな嬉しそうな顔をしている。


 それが私たち二人を見てそんな顔をするから、余計恥ずかしくなった。

 でもやっぱり、嫌な気はしなかった。




 夕飯を食べ終えると、またリアムさんにお姫様抱っこをされた。

 うん、もう諦めるよ…。


「フェロー、今日も君と一緒に寝てもいい?」


 リアムさんが歩きながらそう聞いてきたので、頷く。

 嫌な理由はないし、彼の腕の中は安心するから願ったり叶ったりだ。


「ありがとう。でも今日は寝るだけだから、安心してね」


 あ、それは良かった。

 普通にそう思ってほっとすると、彼は私を見てくすくす笑う。


「君の体が治るまでは抱かないよ。でも、キスくらいは許してくれるかな」


 私の意識が無くなるまで抱き潰した人とは思えないくらい紳士だ。

 私はこくこく頷いて、彼の肩に頭を寄せた。

 すると何を思ったのか、彼は私のおでこに軽いキスを落とす。


「立ってするよりフェローの顔が近くていいね」


 貴方がデカすぎるんです!!

 そんな言葉はなんとか飲み込んだ。




 夜、寝る支度が済んでベッドに入り、上半身だけ起こしてのんびりしていると、ドアがノックされる。


「フェロー、入るよ」


 リアムさんが入ってきて、私のいる寝室の方に来た。

 彼は私のベッドに上がり、私と同じ布団に入り込み、私の隣にやってくる。


「腰の痛みはどう?マッサージはしてもらった?」


 こくん。


 マッサージ、めちゃくちゃ気持ち良かった。

 よく私についてくれる侍女にしてもらったけど、あんな才能があったなんて。

 プロだよあれは。


「気に入ったみたいだね。フェローが凄く喜んでたって伝えておくよ」


 こくこく。


 まぁ、終わったあと凄い溶けた顔してただろうから、満足したのは伝わってると思うけど。

 本当に良かったから、ぜひリアムさんからも伝えて欲しい。


「…ねぇフェロー、名前呼んでくれる?」

「?…リアム?」

「うん。……ふふ」


 名前を呼べと言われたから呼んだ。そしたらリアムさんは凄く嬉しそうな顔をしたから驚いた。


「フェローに名前呼ばれるの、結構好きみたい。2人の時は沢山呼んで欲しいな」


 こくこく頷いて、またリアム、と言った。

 彼は嬉しそうな顔を隠すことなく私に向けて、そっと私にキスをする。昨日のような情事を匂わせるものではなく、優しくて暖かいキス。


「昨日はあまり話を出来なかったからね。今日は沢山話そう」


 こくん。


 リアムさんと話せるのは私も嬉しい。彼の声はとても落ち着くし、話し方も穏やかでとても心地いいのだ。


「出来れば毎日こうして君と夜を共にしたいんだけど、どうかな?勿論毎日体を重ねる訳じゃないし、僕はこうして同じベッドに入るだけでも幸せに感じるんだけど、フェローはどう?毎日は少し多すぎるかな?」


 リアムさんに優しく問いかけられ、私は首を振った。

 毎日一緒に寝るくらい、夫婦なら当たり前だと思うし、まぁヤるのだって体が痛くなければいい。


 リアムさんと体を重ねるのは嫌じゃない。普段と違う彼の姿が見れるのは割と嬉しく感じてるし、彼からの愛を感じて幸せにも思う。

 きっと私も彼を愛しているんだろう。

 恋とかじゃなくて、多分愛。



「良かった。じゃあできる限りこうして毎日一緒に寝よう?」


 笑顔で頷けば、彼も嬉しそうに笑った。


 彼の他愛のない話や、私が沢山彼の名前を呼んだりして、最後は彼に抱きしめられながら眠りについた。


 この世界に来てから1番幸せな気持ちで眠りにつけた。


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