義兄のいる風景 ~日記はスマホにつけるもの~
最近ハマっているアニメに……先週に引き続きインスパイアされて書きました。
女として生きる事の煩わしさが骨身に滲みていた私だから、義兄との事はもっと気楽に考えていた。
『“半端オンナの私”だからこそ!オトコの子とはうまくやれる』って
ああ、ゴメン。話、分かんないよね!
父は私が小三の時に、妻(私の実母)の側の不貞が原因で離婚し、それ以来、一人で私を育ててくれた。
だから父にはとても感謝しているのだけど……いざ自分が女だと言う事を意識する年頃になると……色々と大変だ。
一方、父は……いつ知り合って、いつから深い仲になったのかは訊ねもしなかったが……私が高校に上がるのをきっかけに大木さんと結婚する事になった。
あ、いや……
それは私の独善だ!
大木さんには私と同い年の息子さんが居るのだから……「ふたりの子供が高校に上がるのをきっかけに結婚した」と言うべきだろう。
とにかく……母が出て行った後、がらんどうだった家は……“人”が住む空間になった。
嗅覚で表現するなんて動物的だけど……優しい女性のにおいと……時には戸惑ってしまう“オヤジではない”男の子の汗っぽいにおいがしている。
もっとも義兄は……そのにおいをなるだけさせない様な気を遣える人なので、私がそれにたまたまぶつかってしまったのは……彼が自分の脱いだ物をわざわざ分けて入れてあった籠を持ち上げた時だ。
私がなぜそんな事をしたのかと言うと……
彼が義母と二人暮らしの時は……義母のものはキチンと洗濯ネットに入れて別洗いしていたというくらいの家事上手だと義母から聞いていて……
家事下手というより家事を知らな過ぎる自分に危機感を覚え、家事を積極的にやろうと思い立ったからだ。
とは言え、ついこの間までは見ず知らずだった男の子のものを洗濯するなんで、まともな女子ならためらってしまうだろう。
でも男やもめに育てられた私は“女子”がぶっ壊れていて……この時も義母の声を裏返させてしまった。
「奏ちゃん! それは私に任せて!!」
「でも、お義母さんも日勤夜勤明けで大変でしょ?! 私だってお父さんの下着を洗った事もあるし、洗濯乾燥機なんだから回しておけば勝手に仕上がるし……」
「じゃあ聞くけど……悠耀が奏ちゃんの下着を洗濯するって言ったら?」
「……それは……」
「ねっ!恥ずかしいでしょ?!」
「……うん」
「男の子ってね。意外とナイーブなのよ。隼人さんだって最初はそうだったんだから」
とウィンクする義母は可愛らしくて……
『ああ、私はこういうのが著しい欠乏しているのだ』と、また落ち込んでしまう。
でも、この気持ちは恥ずかしくて悟られたくはないから
「私、ホント!家事が全然ダメで知らない事が多過ぎるんです」と言い換えたら
「来月の15日からだけど、新しい人が来るの! そしたら私もシフトを減らせるから、もっとお家の事もできると思う。だから奏ちゃんさえ良かったらお手伝いしてくれる?」
こう声掛けをしてくれる義母は本当に優しい。
そしてこんな人を母に持ち、ふたり身を寄せ合って生きて来た悠耀くんが優しくない訳は無い。
例えば4日前の日曜日
その日の朝は私達の両親はどちらも仕事で家には居なかった。
前日、苦手科目の攻略で夜更かししてしまった私は……まだまだ強い晩夏の日差しに焼かれてようやく目を覚ました。
運動部みたいなショートの私だけど、汗でおでこに前髪がくっついていて、ワシャワシャと髪を掻き上げた。
そんな体たらくでリビングダイニングに入って来た私を一目見た悠耀くんは席を立ち、キッチンへ入った。
「ちょうど僕も……朝飯これからなんだ! 庄野さんも食べるでしょ?!」
「えっ?!ええ……」
冷蔵庫が開けられ、程なくハムと卵が焼ける香ばしい匂いがして、まず二つのお皿がテーブルに並んだ。
次にチン!と音がして、これまた香ばしく焼けたキツネ色のトーストがやって来て、最後にアイスコーヒーのグラスと牛乳パック、ガムシロップがふたつ置かれた。
「庄野さん、カフェオレ派だから、コーヒーは少な目にしたよ」
「大木くんは?? ガムシロも1個使う?」
「僕はブラック派だから」と笑いながら悠耀くんはバターナイフを先に使う。
いつもは決まって自分の事を一番後回しにするのに……
今日に限ってバターナイフを先に使ったのは……
トーストを前にして
私が恐縮してしまっていたからだろう。
こんなさり気ない優しさを向けられた事の無かった私は……
それだけでもう!涙が零れそうになる。
でも、そんな事をしてしまったら、悠耀くんを戸惑わせてしまうから……
私はこちらに渡されたバターをしっくいを塗るみたに大げさにトーストに塗ってガブリ!と齧ってみせた。
「ありがと!美味しい!」
「そう!良かった!」
さもない幸せほど……
手放す時は辛い!!
私はそれが身に滲みている。
だから私は……これからもカレの事を苗字で呼び続けて行くのだろう。
そして
溢れてしまいそうになるこの想いを『悠耀くん』の名前にのせて
誰も開ける事の無い
スマホの中の日記に今日も記すのだろう。
どうでしょうか??(^^;)
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