第02話 兄と俺が町へ入るまで
俺と一の意識が戻った時、俺達は、広い草原に立っていた。
「……一、これって、やっぱり夢じゃ無いんだよな?」
「さあ? まあ、こうやれば、すぐ分かるだろ?」
俺が一にそう訊くと、一は、そう言い、俺の頬を思いっきりつねってくる。
「痛ぇ! なるほど。分かった、分かったから、いい加減離せ!」
俺がそう叫ぶも、一は、なかなかその手を離さない。ならば、俺も反撃に出るしかあるまい。
俺は、一の頬を思いっきりつねり返す。
「痛い痛い痛い! 分かった! 悪かった! 俺が離すから、お前も離せ!」
一は、そう言うと、俺の頬をつねっていた手を離す。それにつられて、俺も手を離した。
「それにしても、こんな軽装で異世界に放り込まれて、大丈夫なのか?」
俺がそう言うのも、無理も無いと自分で思う。何故なら、今、俺は、作業服姿で、一は、ユニフォーム姿でいるのだから。しかも、女神様は、この世界を剣と魔法の世界って言ってたのに、剣は持ってないし、魔法も使えない。俺達が持っている物なんて、銅でできた百円玉のようなものが五枚と、銀でできた千円玉(?)が一枚、石ころが五個に、木の枝が三本、そして、それらをいれている、革のような素材でできたカバンくらいだ。この持ち物で、本当に冒険者ギルドまで辿り着けるのだろうか。
というか、そもそも、女神様は、冒険者ギルドに行くのが良いと言っていたが、よく考えてみると、
「そもそも、冒険者ギルドって、どこにあるんだ?」
という疑問が生まれることになる。このままだと、異世界最初のイベントすらクリアできずに、俺と一の異世界生活終了というハメに――と思ったのだが、流石にそうはならなかった。
「周二、あそこに、デカイ町があるな。きっと、あの町の中に、ギルドがあるんじゃないか?」
そう言いながら一が指差した方向を見ると、そこには、町とは思えない程大きな町があった。
「そうだな。多分、あんなに大きな町なら、どこかしらにギルドがあってもおかしくなさそうだしな。よし、行ってみよう。」
俺は、一と共に、その大きな町に向かって歩き始めた。
・・・・・・・・・
俺達が歩き始めて十分ぐらい立った頃、俺達は、この世界で初めて、俺達の生物を見た。その生物は、ウサギのような生物だった。俺は、その生物の愛くるしい姿に、すっかり油断してしまった。俺が、その生物の頭を撫でようとして、手を伸ばしたその時だった。
俺は、伸ばした右腕に、何かで引っ掻かれたような痛みを感じた。俺が驚いて手を引っ込めると、そこには、紛れもない切り傷が、くっきりと浮かび上がっていた。
「周二、大丈夫か?」
そう一が心配してくれる。傷口からは、血が滲み出て来ている。
「ちょっと、近くの川で傷口を洗って来る。その間に、可能なら、こいつをやっつけておいてくれ。無理はするなよ。」
俺は、そう一に言って、川に血を流しに行く。そんなに血がドバドバ出てくる訳でも無かったので、大丈夫だとは思うが、念のため、だ。
一、二分程走ると、川に着いた。こっちの世界に来て初めて触れる川の水だ。元の世界の川の水とは、特に感触の違いなどは無いようだ。傷口もきれいになった。
俺は、一の援護に入るため、急いで一の元に戻る。これで一が倒れてたりしたら、シャレにならないと思っていたが、流石にそんな事は無かった。
一は、戦況維持をしてくれていた。俺は、すぐさま、一の援護に入る。
俺は、ウサギに向かって、ずんずんと迫って行く。と、ウサギは、驚いたのか、ピョンと跳び跳ね、スタコラサッサと逃げていった。
「一、大丈夫か?」
「ああ。今の内に、あの町に逃げ込もう。」
俺と一は、全力疾走で、町に向かったのだった。
・・・・・・・・・
十分程走ると、町の入り口の門が見えてきた。どうやら、この町は、不審者の不法侵入を防ぐため、町の周りを高い塀で囲まれており、町へ入る手段は、いくつかある門で、手続きをするしかないようだ。
門には、広い門と狭い門の二つがあり、どちらの門の上にも、何かが書いてある。広い方の門の文字は、こっちの世界の文字のようで、読めないが、狭い門の方には、日本の文字で、『異世界人専用』と書いてあった。
俺達は、狭い門の方へと向かって歩いていく。周りの人々の視線が痛いが、気にせず歩く。
門の所まで行くと、一人の男性に声をかけられた。
「レイルへようこそ! 私、この門で異世界人の案内をしている、山本 隆司と言います。お名前をお伺いしても宜しいですか?」
「ええ、俺は、中野 周二です。」
「中野 一だ。隆司だったか? 俺達、一応は同胞だろ。敬語なんて使わず、気ままに話そうぜ。」
「分かりま……いや、分かった。今日は、何の用だ?」
「今日は、俺と周二で、冒険者ギルドに登録に来た。案内してもらえるか?」
「ああ。着いて来てくれ。」
こうして、俺と一は、無事、町の中に入ることができたのだった。