絶対許さない!
失業した主人公がむかつきすぎて雇用主をプッチしちゃう話。
「絶対許さない!」
ミーツ・ハント子爵令息はクッションを壁にたたきつけた。ペシャという音とともにクッションが落ちる。ここはミーツが借りている小さな部屋である。そして誰も聞いていないこの部屋でミーツは決意した。
「地獄を見せてやる」
この度ミーツは失業した。それはもう胸糞悪い失業の仕方で。
ミーツは国立学園を卒業後、大きい商会に1年契約で務めた。そこで資金をため、自分の勤めたい仕事に就こうと転職をした。その商会が問題だった。そこそこ大きい人材商業ギルドから出ていた求人なので微塵も疑わなかったのが悪かった。
【商業ギルド公認、職業斡旋所の求人】
未経験でもOK!魔法残渣の研究!社会問題を解決しよう!
引っ越し費用全額負担
給料300,000ゼニ
家賃補助20,000ゼニ そのほか、賞与2か月分
こんな感じの求人だった。
求人の職場環境は平均的で、給与についても、平均だった。
「それで、なんでそんな鼻息荒く、地獄に落としてやる!につながるの?」
国家呪術師の青年ルイがニヤニヤしながら聞いてくる。
「その商会で2か月仕事らしい仕事もなく、その後、何の相談もなく、君には辞めてもらいますだよ!ひどくない?一度も給料払われてないの!」
ミーツはこぶしを握り締めて吠えるように言った。そしてさらに声を大きくして言った。
「しかも、引っ越し費用も払われず、給料と引っ越し費用について払うように言ったら、逆切れして、そっちがその気ならもういいとか意味わからないこと言い始めて、商業ギルドへ雇人の離職証明を報告してもいないんだ。そのせいで商業ギルドの失業手当をもらえてないんだ」
ルイはへーと気の抜けた返事をして、ミーツに疑いの目を向けて聞いた。
「ミーツ、君が仕事できないからやめるように言われたんじゃないの?」
ミーツはその質問をしたルイに底の見えない闇を抱えた瞳で微笑むと、ルイに聞き返した。
「商会に雇われた人間全員どころか、雇い主の子爵本人が仕事もせず、商会そのものが商会としてなんの仕事もないのに、その状態で何ができると?僕以外にも給料含めて全く金銭が払われてないけど、これが僕のせい?」
ミーツはお茶を口にふくみ、喉を潤すとさらに言い募る。
「子爵の方は国から開業資金と、生活補助金の支給がされているんだ。あいつは詐欺を働いているんだよ。しかも、給料未払いの裁判費用をこっちが払えないことを分かっているんだ」
ミーツは目の前に憎っき雇用主がいるかのように睨みつけた。
「商業ギルドは離職証明を代理で発行してくれないの?そういう事例があるでしょ。もしくは裁判を民事じゃなく、国に告発してしまえば刑罰がかされるんじゃない?」
ルイが不思議そうに聞いてくる。
「一度でも給料が払われてたら、商業ギルドの入金表から離職証明が作成できるけど、一度も入金がされてないから、できないって言われた。
たった2か月給料未払いの仕事に就いただけで。そもそもの失業手当は前の会社の給料が参考にされるのにさ。
それと、国に告発すると、子爵はこっちに未払いの給料を回収できなくなるんだ。もうさ、なにそれ、こっちに死ねっていってる?と思ったね」
ミーツは壊れたように不気味に笑いながら言った。ルイはミーツとは逆に穏やかに笑いながら、さらに質問した。
「で、どうするの?」
「カンタンだよ。失業手当が支給されないなら、長期の仕事が見つかるまで日雇いの仕事をして食つなぐ。失業手当申請の期間中に今必要な生活費用全額を稼ぐともう失業手当もらえなくなるけど。もう失業手当はないものと考える。長期の仕事はまあ、何とか見つける。」
ルイはさっきまでの病んだ姿から一遍、まじめな青年の姿になった。
「そして、長期の仕事が落ち着いたら、あの子爵を国に告発する。この僕にケンカを売ってただで済むと思ってるとか、ほんとにあり得ないから。」
「あ、そこはそういう感じなんだ」
ルイは結局引いた。
「ついでにこの性善説の労働法を改善するよう訴えてくる。離職証明を発行しなくても実質訴えられない状態とかおかしい。法がないと行動しない人間なんてわんさかいるんだ。ずる賢い奴が得するなら、まだわかる。でもがっつり悪質な奴が得するのはまじめにありえない。それも、法の下に裁けない状況ってのがさ、消えろよくそがと思う。」
ルイが青いね~と言いつつ
「それで、愚痴を僕に聞かせたかったわけじゃないよね。この呪術師ルイにどうしてほしいの?」
ルイの問いかけにミーツは3本の指を立てて答えた。
「3つある。」
最高裁判所・法廷
「被告、ダボン・ブー子爵は、度重なる開業資金の着服を行った。また、会社雇人に対し給料未払い、および離職証明書の提出をしておらず、金銭的圧迫による生命の危機をもたらした。また、反省はなく、繰り返し行っていたことからも悪質なものであると判断した。よって被告を10年の懲役および商業ギルドにおいて罪状の公表を行う。また、今後、公私にわたり被告の契約時にはこれまでの罪状を明記することを必要とする。これを破った場合には懲役刑を課すものとする。」
ダボン・ブー子爵は醜い顔をゆがませ唾を飛ばす。
「ええい、煩い。私は軍に顔が効くんだぞ。私は大国から金が入ると手紙をもらっているんだ。その時に払うといったはずだ。たかだか雇人が雇用主に歯向かうなぞ、身の程を知れ。私は今までこの国を経済的に支えてきたんだ。」
ギルド職員がぼそっとつぶやく。
「いや、あんたのせいで正規雇用から日雇いになったやつが何人いたと思ってる。くそが。」
法律士
「被告はこれまで幾度も、金銭の踏み倒しを行っており、また、求人詐欺についても、各大手商業ギルドからもブラックリストに入っております。これまで、紹介した求人料の踏み倒しはもちろん、雇人への給料も踏み倒しております。その被害は雇人の生命を脅かすほどでした。借金を負ったり、病院へ行けず病状の悪化、さらには離職証明書の発行をしなかったため、雇人が新たな求人への応募ができない事態となりました。これは、人の人生を踏みにじる行為です。今後は損害賠償を行っていきます。」
「これでよかった?」
ルイはミーツにニヤニヤと笑いかける。
「うん。ありがとう。」
「どういたしまして。まあ、法律内の呪術だからね。【商業ギルドの人間に対して求人の嘘を言えなくなる呪い】【契約するとき違法なことをしない呪い】【反省をしているときはその反省を示す努力をする呪い】何というか、あまりにも当たり前なことなんだけどね。」
「まあ、それを守れない奴が意外といるんだよ」
「ミーツこれからどうするの?」
「明日は仕事ないから、祝杯をあげに行こうかと、ルイも来る?」
「いいね!労働の後の酒はうまいんだ」
完
ミーツ・ハント(子爵令息)
ブー子爵の商会で働こうとしたが、初月から給料未払いが発生した。その後、ブー子爵本人から解雇通知を受ける。国営商業ギルドへいうも、ブー子爵が離職票を提出していないため失業保険がもらえず、次の仕事へつくための資金がなく途方に暮れる
ダボン・ブー(子爵)
他国とのつながりがあることを宣伝し、投資詐欺、求人詐欺を行う。様々な企業へ資金の踏み倒しを行っており、そのたびに国から補助金を得て生活している。反省の色がない。
法律士
ミーツから国法裁判所へ国家事業違反の申し立てを受ける。いくつかアドバイスを授ける
呪術師 ルイ(国家公務員)
ミーツ・ハントからブー子爵へ呪術の依頼された。いいとも精神の持ち主。ドンドン遣っちゃってーの人。
なんか勢いで書いてみました。