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四羽、リアルな夢。

 

 母さんとお茶を楽しんだ後、自室に戻ろうと歩き出したけど、ふらふらと廊下の壁に寄りかかってしまう。


 人間界に行くのは楽しい。けれど翼を出したり実体化すると体力や魔力を、もの凄く消費するので疲れてしまうのが難点だ。


 しかも今日は異様な程の、眠気が襲ってくる……。



 意識が保てない……。





◇◇◇◇◇


 腕にはめた時計を見ると、既に待ち合わせの十九時を過ぎてしまっている。走るには邪魔なコートを脱ぎ手に持つと、僕は大切な相手と会う為に駅前の喫茶店に小走りで向かう。


カラン! カラン!


 喫茶店のドアを開け、店内を見回すと奥の席に座っている髭を生やした壮年の男性が、僕に気がつき手に持っていた茶封筒をヒラヒラと振っている。


「遅れてしまい、すいません! 残業が長引いてしまって!」

「いえいえ。急にお呼びしたのはこちらの方です。気になさらないでください。それに私も今来た所ですよ。さ、座ってください」


 お辞儀をして、対面側に座った。コートは膝に乗せておく。と言うより緊張のあまり握り締めている。


「それで兄の行方は分かりましたか?」


 僕に兄がいる事を知ったのは二十歳の時だ。東京へ転勤が決まり、田舎から都内へと引っ越す一週間ほど前に母親から「父さんには内緒にしてたんだけど、あんたには腹違いの兄がいるの」と聞かされた。気にはなっていたけど、新しい職場でバタバタしているうちに半年が経ってしまった。お盆に帰省した時に兄の居場所を聞こうと、母に尋ねたが教えてはもらえなかった。その二年後に母は持病が悪化し亡くなった。それからというもの僕は色んな探偵を雇って二十五年間、探し続けていたのだ。この男性もその探偵の一人で、探し人のエキスパートだと知人から紹介され頼んでみた。


「はい。見つかったのですが……」

「何かあったのですか?」

「まずはコレを」


 茶封筒をテーブルに置き、僕の方に滑らせる。手にはじっとり汗が滲み、震えながら茶封筒を受け取り開封して中の書類を取り出す。


 目を瞑り深呼吸する。


 再び目を開ける。手にした少し分厚い書類は、上部をホチキスでしっかり止められてバラバラにならない。綺麗に箇条書きされた内容を、ゆっくりと噛みしめるようにページをめくって読んでいく。


「……僕は……間に合わなかったんですね……」


 次第に瞼が熱くなって、文字がボヤけていき、双眸からポタポタと涙が溢れ出し、書類を濡らしていく。


「一年も前に……。独りぼっちで亡くなっていたなんて……」


 両手で顔をおおい、しゃくり上げ泣きはじめた僕を、探偵は静かに落ち着くのを待ってくれていた。


「すいません」

「いえ。私の方こそ、もう少し早くお兄さんの所在が掴めていたら良かったのですが……」

「いいんです。見つけられただけでも良かったと思います。ありがとうございました」


 頭を下げてお礼をする。今まで、どんな探偵を雇っても見つけられなかった事を考えれば、兄さんの生きてきた道筋が分かっただけでも十分だと思える。


「遺骨は僕が引き取りに行きます」

「ぜひ、そうしてあげてください」


 喫茶店のマスターは準備中の札を入り口にかけてくれたらしく、店内は静かな優しい音楽が流れて、僕と探偵とマスターの三人がいるだけだった。



◇◇◇◇◇





 風景や人物に全く覚えはない。オレのモノでは無い “誰かの記憶” けど、妙に気になって何かが引っかかる。


 あまりにもリアルな夢だったからなのか、頭の中がボンヤリしてしまう。



「ティアレイン様!」


 呼び声に、ハッとなり目をゆっくり開けると、心配そうにオレを覗き込むメリアがいた。目を擦りながら、ベッドから起き上がる。


「メリア?」

「良かったです! 廊下に倒れていたんですよ」

「心配かけてゴメン。もう大丈夫だよ。あと母さんたちには……」

「分かってます。内緒にしてあります」

「ありがと!」


 母さんたちを、心配させたくない気持ちを知っているメリアは、オレが屋敷を抜け出しても、命に関わらないのであれば一日くらいは誤魔化してくれるのだ。あとオメガでありながら自由に動けるのは、オレにヒートがまだ一度も起きていないからなんだと思う。


「まだ眠いから母さんたちには、もう休んだって言っておいてほしいけどいい?」

「はい。伝えておきますね。あとで軽食も届けます」

「ありがとう」


 ニコッと笑んでペコリとお辞儀をしてからメリアが部屋から出ていくのを見届け、再びベッドに仰向けに転がる。


 視線だけ動かし窓の外を見ると、夜の闇に包まれていた。随分と長い時間、眠ってしまったようだ。


 夢の中の”僕”と言う人物は、とても悲しそうにしていた。


 再び目を閉じて深く溜息をつく。


 探していた”兄さん”とは誰の事なんだろう?


 分からないけど、胸が騒ついてしまう。その時、不意に毛玉悪魔の事が頭をよぎった。初めて触れた時のあの不思議な感覚と、つい先程まで見ていた夢は、同じくらいの熱量と言うか匂いとでも言うのだろうか? なんとなくだけど無関係じゃ無いと思える。


 ……色んな意味で気になるんだよなぁ。


 最早、寝ている場合ではなくなってしまって、ベッドの上をゴロゴロ転げ回る。


「確かめるしかないよな!」


 夜の闇は魔の時間、天使にとっては色々な意味で危険があるし不利だ。けれどオレの一族は普通の天使とは違い、闇に近い存在なので気にする必要はない。


 よし! 行こう!


 ベッドから降りて、窓を開け翼を広げると外へ飛び出した。昼間の名残りで光の粒子が少しだけ漂ってはいるけど、天界の夜は思いのほか真っ暗闇に近い。気温は一定なので寒くも暑くもない。



 夜ということもあって、天界門の前は門番以外は誰もいない。静かすぎる暗闇で、疲れているのか、アディルが門にもたれかかって座り眠っている。


「アディル! 通してくれ!」


 肩をポンポンと叩くと、アディルが目をシパシパさせながら立ち上がり体を伸ばして頭をガリガリ掻いてアクビをする。


「起こして悪い」

「いや、気にするな。今日は夜も仕事か?」

「まぁ……そんな所かな!」

「分かった。気をつけて行けよ!」

「うん! ありがと!」

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