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三羽、光の毛玉悪魔。


「くぅ?」


 小さな首を傾げながら、オレを心配そうに見つめる毛玉と目がバッチリ合った。

 

 ペタンと地面に座って、オレの頬を小さな手でペチペチと叩いていたのは毛玉悪魔。好奇心いっぱいで、思ったより元気そうに見える。


「触ってもいい?」

「がぅ〜?」


 “触る”の、意味がよく分からないのか、再び首をコテンと傾げオレを見つめる。驚かさないように、ゆっくりと起き上がり、ソッと触れる。


「くるるぅぅ〜……」


 最初は頭を撫でる。次に首筋をくすぐるようにすると、金色の目を細め気持ち良さげに喉を鳴らし、オレの手に体を擦り付けてきた。


 抱き上げてみようか? 逃げられるてしまうかな? ドキドキしながら、両手で掬い上げる。


「がぅ!」


 意外にも逃げたり暴れたりする事もなく、オレの両手の上にちょこんと大人しく座った。


「さっきカラスに突かれていたけど……」


 体は人型の男児で目は金眼、小ぶりな尻には黒いフサフサしっぽが生えて、耳はふわふわ三角で犬のよう、背中の黒い翼はまだ小さすぎて飛べそうにもない。雰囲気はフェンリルとかケルベロスの獣人に近い感じだ。ただ放つ気配は悪魔の闇魔力ではなく、やっぱり天使の聖魔力だ。


「うん! 良かった。怪我は無いみたいだ」

「がぅ!」


 じっくり診てみたけど元気そうだ。けどカラスに、突かれいじめられた時に少し汚れてしまって全体的に艶はない。


 最初にこの子に触れた時、オレの中に入ってきた熱い濁流みたいな感覚はなんだったんだろ? 前世の記憶だけじゃ無い気がする。もしかしたら、この子とオレは何か関係があるとか? などと、悩み考え込みながら地面に座り込んで、毛玉悪魔を膝に乗せハンカチ代わりにしている布を尻ポケットから出すと、まず小さな手足を、次に体、最後に翼と尻尾を拭いていく。


「ぷすぅ〜。ぷすぅ〜……」


 触られるのが気持ち良かったのか、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 保護するのが今回の仕事とは言っても、見た目が悪魔となると指示を仰がなくてはならない。


 とりあえず今日は帰ろう。


 ハンカチを自販機の隣に敷いて、その上に毛玉悪魔を起こさないように、ゆっくり乗せ撫でてから立ち上がる。


「明日また来るからな」




 

 アディルへのお土産は、オレの一番の大好物ダブルシュークリームを買う事にした。そうと決まれば、すぐに行動。と、言う訳で路地裏へ行き人間の気配が無い事を確認してから、全身に魔力を巡らせ身体を実体化させ、表通りにあるお気に入りのケーキ屋に向かう。


「いらっしゃいませ! 今日は何になさいますか?」

「ん〜……。シュークリームでお願い。数は十個で」

「少々お待ちくださいね」


 店員はニコッと微笑み、手早くシュークリームを箱に詰めてくれた。そのあと会計も済ませる。人間たちが使うお金は、天界からの仕事を成功させれば得られるので問題は無い。


「いつもありがとうございます。コレ試作品だけど食べてみてくださいね」

 

 シュークリームの箱とは、別の箱にアップルパイを入れてくれた。


「ありがとう」

「良かったら感想聞かせてくださいね」

「分かった」


 常連客になっているからか、顔まで覚えられてしまったみたいだ。


 ケーキ箱を受け取り店を出ると、再び路地裏へ行って実体化を解いて、白い翼を羽ばたかせ天に向かって飛び立つ。 




 門の前にはアディルが待っていてくれた。以前、何故オレが帰って来るのが分かるんだ? と聞いたら、門番は自分が人間界に、送り出した人物が戻ると感覚で分かるんだと言っていた。不思議な能力だと思う。


「おかえり」

「ただいま! コレお土産、今日中に家族と食べてよ」


 シュークリームの入った大きな箱をアディルに渡す。


「こんなに貰って良いのか?」

「もちろん良いに決まってる! オレのイチオシのデザートなんだ」

「サンキュ! 味わって食うよ」


 心底嬉しそうにニカッと笑むアディルを見ると、オレまで嬉しくなってしまう。魔天回廊を抜け、天界への扉の前で「またな」と手を振って別れた。




 自宅である屋敷に戻ると、着替える手間も惜しんでテラスに向かう。


「ただいま帰りました」

「ティアレイン、今日は早かったですね」


 キラキラ輝く光の粒が木々の隙間から差しこむ、居心地のいいテラスの中をキョロキョロ見回す。母さんはテーブルに本を数冊置き揺り椅子に座って読書をしているけど、父セイランの姿が見当たらない。


「母さん、父さんは今日いないの?」

「えぇ。急な仕事で出掛けてますよ」

「う〜ん……。どうしたらいいのかなぁ」

「何か問題でもあったのですか?」

「うん。今日の仕事の事なんだけど……」

「わたくしで良かったら話してくれませんか?」

「分かった。あとコレお土産」

「いつもありがとう」


 アップルパイの入った箱を渡すと、母さんは顔をほころばせお茶の準備を始めた。オレは母さんの反対側の椅子に腰掛け今日、出会った毛玉悪魔の事を話して聞かせた。


「そのような強い光を持っているなら、天界に連れて来た方が良いかもしれませんね」

「だよね。それでさ家に連れて来ていいかな?」


 母さん右手を頬に当て少し悩む素振りをしてから「そうね」と頷く。


「いいの?」

「えぇ。光の子は魔界には連れて行けないものね」

「うん」


 香り高い紅茶を淹れアップルパイを皿に乗せ、オレと母さんの前に置くと「いただきましょう」と、嬉しそうにフォークを手に取りアップルパイを食べはじめる。


「セイランには、わたくしから言っておくので、ここに連れてきなさい」

「ありがと母さん! 明日、連れて帰ってくるよ」

「そうなさい」


 天使の放つ光は眩し過ぎて、悪魔や魔族にとっては毒にしかならない。逆に魔の者が放つ闇は、天使には毒なのだ。だから普段は魔力をコントロールして、光や闇が漏れないようにするのが礼儀だったりする。でも生まれたての野良悪魔にはコントロールは難しい。


「ふふふ! あなたのお土産はいつも美味しいわね」

「オレのお気に入りの店だから、そう言って貰えるのは嬉しいよ。父さんとメリアにも残しておきたいけど良いかな?」

「もちろんよ。喜ぶと思いますよ」


 サクサクのパイ生地も、トロッと煮込まれたリンゴもカスタードが絡んで、紅茶と相性が良くて、とても美味しかった。

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