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15/30

十五羽、表と裏。


 やっぱり自分の部屋は落ち着く。などと思いながら実家で、まったりのんびりとしていたらアッと言う間に5日ほど過ぎてしまっていた。




コン! コン! コン! コン!


「ティアレイン様、お客様が参りましたがどうなさいますか?」


 午後の昼下がりベッドに転がって、ダリウスの図書室から借りてきた本を読んでいると、メリアがノックと共に来客を知らせてきた。


「誰が来たの?」

「アリスティーナ様と、レミアーデ様です」

「分かった。中庭に案内してもらっていい?」

「はい。ではお茶もご用意しますね」

「ありがと! よろしくね」

「はい」


 引っ越しの準備で自室は、木箱だらけだから客人を招く事が出来ない。なので今、丁度見頃をむかえた中庭の薔薇を見ながらお茶会するのが良いと思ったのだ。くつろぐ為のTシャツとジーパンを脱いで慌ててドレスに着替え、ベッドでぬいぐるみと遊んでいたシャルを肩に乗せ部屋を飛び出した。


 早足に中庭に向かうと、丸テーブルを囲んで座る二人が楽しそうに談笑していた。


「こんにちは。お久しぶりですわね。ティアレイン」

「お久しぶりなの。ティアレインが元気そうで良かったの」

「こんにちは! アリスティーナ、レミアーデ、久しぶり元気にしてた?」

「見ての通りですわ」

「レミィも元気なの」

「お座りになったら? メリアの紅茶とクッキーとても美味しいですわよ」

「うん。ありがと」


 空いている椅子に腰掛ける。そして多分絶対、今日の話題はこれしかないと思いながら、オレから切り出す事にした。


「もしかしなくても一ヶ月前の夜会の事だよね?」

「えぇ。もちろん夜会の事ですわ。とても驚きましたもの」

「レミィもビックリしたの」

「あはは。うん。私も驚いたけどね」


 やっぱりと思いながらも背中に冷や汗がつたう。頬をカリカリ指先で掻きながら、どう説明しようかと目を泳がせてしまう。


「ふふふ。焦らなくてもよろしいのですわ。それにわたくしたち怒ってませんもの」


 アリスティーナに同意するように、レミアーデがコクコクと上下に首を振る。


「でも! でもさ! 妃になるのを目指してるライバルだと思ってたから、あんないきなり抜けがけしたみたいになって本当ごめん!」


 頭を下げて謝ると、レミアーデが立ち上がってオレの手を握る。


「あのね。レミィたちは本当に怒ってないの」

「そうですわ。むしろ王様に感謝してるくらいですもの」

「え? 感謝ってどうして?」

「そもそもわたくしは、妃には全く興味はありませんでしたもの」

「レミィも妃に興味ないの。アリスティーナといられるだけで幸せなの」

「わたくしもレミィがいてくれたら、それだけでいいのです。理由はこれですわ」


 アリスティーナは、首からネックレスを外しテーブルに置いて見せてくれる。


「これって珠?」

「えぇ。わたくしは珠持ちのオメガですの」

「じゃ! もしかしてレミアーデと?」

「そうなの。レミィはアリスティーナの運命の番なの」

「わたくしのアルファはレミィだけですわ。レミィ以外の主は必要ありませんもの。だから気にする必要は全くないのですわ」


 レミアーデはオレの手を離すと、アリスティーナの膝にちょこんと座る。アリスティーナはレミアーデを愛おしげに抱きしめた。なんとも幸せそうな二人は恋人同士にしか見えない。しかも二人共、可愛くて美人だから絵になる。


「全く気がつかなかったんだけど……」

「ふふふ。女は隠し事くらい出来なくては、夜会の数多の女性たちと渡り合う事など出来ませんもの。表の顔と裏の顔があるのは当然なのですわ」


 呆然としてしまう。この二人は今まで妃を目指す為に自分磨きをしてるとか、殿方にアピールするにはどうすればいいかとか、オレの前ではいつも話していた。それが全部、表向きの顔だったとか驚きしかない。


「うわぁ〜! 凄すぎるよ。二人共」


 頭を抱えて手足をジタバタさせるオレを見て、アリスティーナとレミアーデは顔を見合わせながら笑いあっている。


「もう一つ、わたくしたちに隠し事なさってますわよね?」


 そう言ってアリスティーナは、持っていた扇子の先で自らの喉元を指ししめしてみせる。


「やっぱり男ってバレてた?」

「ふふふ。首はリボンで隠されてますけど、身長もわたくしたちより高くなってきましたし、声変わりもなさったのではなくて?」

「うん。その通りだよ。声は最近だけどね」

「何か事情があっての事なのでしょう? ですから理由は聞かないでおきますわ」

「レミィも聞かないでおくの」

「ありがと! 二人共」


 きっとオレが天珠を持っている事もオメガである事も、勘の鋭いアリスティーナとレミアーデなら気がついているに違いない。


「そのかわり王様とご結婚された後も、わたくしとお友達でいてくださると嬉しいですわ」

「レミィもお友達でいたいの」


 優しい幼馴染二人に、これからも友達でいたいなんて言われたら嬉しいに決まっている。


「もちろんだよ! それからまたお茶会もしよう」

「約束ですわ」

「約束なの」


 三人で手を握りあって約束を交わす。


「ところで、この子を紹介してくださらないのかしら?」

「紹介して欲しいの」


 アリスティーナとレミアーデが、テーブルの上で一心不乱にクッキーを食べ続けるシャルに注目していた。


「この子はオレの弟でシャルだよ」

「がぅ!」


 シャルはクッキーの屑を顔中にくっつけながら、立ち上がって二人に向かってペコリとお辞儀をして挨拶をする。


「とても可愛いらしいですわね」

「すっごく可愛いの」


 握手を交わした後は、撫でられたり抱っこされたりとシャルは二人にもみくちゃにされ続けた。けどかまってもらって嬉しいのか、尻尾をブンブン振って大興奮している。


 結局メリアが、夕刻を告げるまでアリスティーナとレミアーデはシャルと遊んだ。男だとバレたので、オレも気を張ることなく心から楽しんでしまった。





 夜の真っ黒に染まった窓を見ながらベッドに横になる。


「ダリウス今頃、どうしてるかなぁ……」

「がぅ〜」


 枕を抱えてゴロゴロ転がる。シャルもマネして黒猫のぬいぐるみを抱えてコロコロ転がる。


「そろそろ戻ろうかなぁ」

「がぅ?」


 強気で強引にみえるけど、それは表向きだと分かってしまった。天上界の広すぎる屋敷にリトリントと二人きりで、妹にも中々会うことが出来ない。だからなのかダリウスは時折とてもさみしそうな表情を浮かべる。


「天珠はさ。ただ繁栄とかそんなモノをもたらすだけじゃ無いとオレは思う」


 アリスティーナとレミアーデは、心まで繋がって見えた。ダリウスとオレもそんな優しい関係を築いていけたらいいと思う。


「出来る事ならダリウスの光になれたら良いな」

「がぅがぅがぅ!」


 心臓と共に穏やかな温かさで脈打つ天珠。長い時間オレの内側にあったからなのか、しっかり同化してしまい取り出す事さえ出来ないけど、この温かさをダリウスにも分け与えたい。さみしさを孤独を癒したい。


「これからの千年、ダリウスと共に過ごしていく覚悟は……まだよく分からないけど楽しい毎日にしたいって思うんだ」

「がぅがぅん!」

「よし! 明日ダリウスの所に帰ろう」

「がぅ!」


 無意識のうちに”帰る”と口にしてしまったのに気づいて、何だか照れくさくなり手足をジタバタさせる。シャルも一緒になってジタバタする。

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