歌旅人(うたびと)
彼は歌旅人(うたびと)。
歌を歌い旅をする。
彼は最高の歌旅人だった。
彼の歌は子供たちに、夢を、若者たちに愛を、お年寄りに懐かしかった日々、思い出を、すべての人々に想うことの素晴らしさを教えた。
彼の行く先々、人々はとても幸せな気持ちになった。
みんな彼にはこの町に留まって欲しい、行かないでくれと止めたものだ。
しかし、彼は歌旅人。
ふわり、ゆらり、風のように旅に出る。
やがて彼がたどり着いたところは、年中花がいっぱいの春の町だった。
そこに、一人の美しい少女がいた。
少女は耳が聞こえない。
彼は一目で少女に恋をした。
少女は大抵、広場で花を売っていた。
彼は少女が見えるところ、広場の真ん中にある噴水の前で歌を歌った。
晴れの日は、愛しい人とめぐり合えた喜びを。
風の日は、恋する楽しさを。
曇りの日は、もどかしいこの気持ちを。
雨の日は、会えない切なさを。
しかし、少女に歌は聞こえない。
それでも彼は毎日、毎日少女の為に歌を歌った。
やがて少女も彼の愛に気づき、ようやく二人は結ばれた。
。。。そして彼は。。。歌旅人じゃなくなった。
彼はもう旅をしない。
少女に愛を歌う為、春の町に留まった。
しかし、歌旅人でなくなった彼にはもう、歌が歌えなくなっていた。
毎日の歌で、彼の喉は、これ以上二人の愛を歌うことを許さなかった。
そのことに気づいた夜、彼は初めて自分の為に歌を歌った。
悲しい、とても悲しい歌を。
そして、一人、静かに泣いた。
それでも彼は歌を歌う。
ある日、少女はこう言った。
『あなたの歌は音のない私の世界にちゃんと入ってくるの。これからもずっと私の為に歌って。』
少女は知らない。
彼の声が出ないことを。
それでも彼は少女の為に歌を歌う。
町外れの一軒家。
可愛らしい花々に囲まれた小さなお家。
彼らの家は、
いつだって、
優しい静けさに、
包まれていた。。。
最後まで読んで下さってありがとうございます。本当に一言でもいいのでご意見頂けると、嬉しいです。あなたの言葉が、私の生きる力になる!本当です!笑
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