第9話 二度目の死
影の正体が龍だと分かったアレスは更に走る速度を上げた。
何故なら、龍がアレスの方へ近づいてきているからだ。
このままでは龍に襲われかねないので、アレスは少しでも早く門を越えようと考え、走る速度を上げたようだ。
アレスは龍がこちらに近づく前に門まで走り抜けようと必死に足を動かしたのだが、その程度の努力は龍の前では無意味である。
アレスの頑張りも虚しく、龍は門の前までやって来てしまった。
そして、龍はそのままアレスの方へ向けて青白く光る息吹を放ちながら近づいて来た。
アレスは龍の放った伊吹から逃げるために方向転換しようと後ろを振り返ったのだが、後方にはアレスのことを追いかける大量のゾンビが走っていた。
それも道を覆い尽くすほどのゾンビが。
ゾンビの大群と龍に挟まれてしまったアレスは己の死を悟った。
己の死を悟ったアレスは先ほどまで全速力で走っていたのに、いきなりその場で立ち止まった。
その場で立ち止まったアレスは龍の息吹とゾンビの大群のどちらが先に到達するのかと考えているうちに彼は龍の息吹に全身が包まれた。
龍の息吹に全身が包まれたアレスは全身が高熱によって焼き爛れる激痛の中、アレスは息を引き取ったのだった。
息を引き取った次の瞬間、アレスは魂を捧げた生命の樹の木陰で仰向けの状態で倒れていた。
アレスは全身を動かしながらその場で立ち上がると、とある違和感に気付いた。
それは鎧を着た状態のまま生き返ったことだ。
それも鎧は新品かのように綺麗な状態で。
普通ならば、死んでしまった場合、その場に身につけていたものが残ってしまう。
しかし、アレスは目覚めた状態から鎧を全身に身につけている状態かつ、着ている鎧は傷一つない綺麗な状態だ。
これは普通に考えておかしな状況だ。
このことに疑問を感じていると、自分の足元に白い紙が落ちていることに気がついた。
自分の足元に紙が落ちていることに気がついたアレスは少し警戒しながらも紙を拾い上げると、それは神父からのメモ書きであった。
神父からのメモ書きを拾ったアレスは何が書いているのかと思いながら読んでみると、
『親愛なるアレスくんへ。
この手紙を読んでいるということは既に一度死を体験したことだろう。そして、君は疑問に思うはずだ。なぜ、自分は装備を身につけた状態かつ装備が新品のように綺麗になっているのかとね。ーーー』
それは今ちょうどアレスが疑問に思っていたことへの解答となるものであった。
神父によると、アレスが今身につけている装備の全てに魔術による加護を施しているらしく、アレスが死んだ時は自動で装備を回収した後、アレスが復活すると同時に装備されるようになっているそうだ。
それだけではなく、壊れたとしても自動で修繕する加護も施されており、龍の息吹で焼かれたのに無傷であったともこの加護のお陰であるようだ。
他に身につけていた盾と剣は収納魔術で作り出した異空間の中に修繕された状態で保管されているともメモには書かれていた。
そして、メモにはこうも書かれていた。
この自動修繕の加護は収納魔術の異空間に入れることで死ななくても武器や装備の修繕を行うことができるとのことだ。
しかし、この自動修繕は魔力の消費が激しいらしく、今のアレスでは良くて剣と盾を数回修繕するだけで魔力が枯渇してしまうとのことだった。
では、彼が身につけている鎧は完全に修繕されているのかと疑問に思うかもしれないが、これは生命の樹に理由がある。
アレスは生命の樹から加護を受けているため、この樹の近くにいるときは魔力のバックアップを無制限に受けられるらしく、そのお陰で全ての装備の修繕が行えたとのことである。
他にも生命の樹は癒しの効果もあるらしく、道中で怪我をしてもこの樹の近くに来れば、全身の怪我を癒してくれるそうだ。
それも腕や足が切断された場合や内臓が破壊されたとしても全て完全に治るとのことだ。
流石は生命の樹と呼ばれているだけのことがある。
そして、メモの最後には装備のメンテナンスや道中で拾った武器に加護を授けて欲しい時はいつでも言って欲しいと書かれていた。
そのメモを読んだアレスは心の中で、
(頼めって言ってもどうすれば良いんだよ)
どうやって、神父と連絡を取れば良いんだと心の中で愚痴をこぼしたのだった。
疑問も解決したところで、アレスは再び橋に向かって歩き始めた。
そして、森の手口付近に到着した時、先ほど自分のことを焼き殺した龍はいなくなっているかと視線を上に向けて探したが、龍の姿は見当たらなかった。
龍の姿もないので、アレスは再び橋のもとにやって来たのだが、橋は龍の息吹で黒焦げになっており、あれだけ大量にいた獣人のゾンビも一人もいなかった。
きっと、あのゾンビもアレスと同じように龍の息吹によって焼き殺されてしまったのだろう。
アレスは上空を警戒しながら焼け焦げた橋を渡ったのだった。