第23話 違和感
そうして、ゾンビたちの群れを迎え撃つための作戦を考えたアレスは下へ戻る前にもう一度窓から外の様子を確認してみる。
下へ視線を向けてみると、相変わらず時計塔の周りには大量のゾンビが湧いており、先ほど見た時よりも多くなっている。
そんなゾンビたちを見ていると、アレスはとあることに気がつく。
それはこれほど多くのゾンビが集まっているのに、時計塔の中へ入ろうとするゾンビが一人もいなかったことだ。
普通ならば、時計塔の鐘が鳴ったことからその犯人は時計塔の中にいると分かるため、捕まえるなり殺すなりするために中へ入ってきてもおかしくない。
だが、外で集まっているゾンビたちは時計塔の中へ入ろうとしなかった。
このおかしな点に気づいたアレスはこのことが気になり、少し試してみたいことをやってみることにした。
アレスは魔力の矢を自分の前に作る。
この魔力の矢は普段使用しているものとは違い、明らかにそのサイズは大きかった。
それもそのはずだ。
この魔力の矢はアレスの魔力のうち半分以上を使用して生み出したものである。
魔力の半分以上を使った魔力の矢を生み出したアレスはその矢を下に群がっているゾンビへ向けて放ってみる。
放たれた魔力の矢は勢いよく下へ向けて落下していき、地面に着弾すると同時に魔力の矢は大爆発した。
魔力の矢による爆発はアレスの想像よりも大きなものになり、魔力の矢を放ったアレス本人も驚きを隠せていなかった。
魔力の矢はその爆発で多くのゾンビたちを木っ端微塵に吹き飛ばしたのだが、他のゾンビたちは左右に視線を向けるものの上へ向ける者たちはほとんどいなかった。
中にはアレスの方へ視線を向ける者も存在していたのだが、ゾンビたちはアレスの存在には気づいていないようであり、不思議そうな態度をとっていた。
だが、ほんのわずかであるが、アレスの存在に気がついているゾンビも存在しており、その者はアレスの方へ視線を向けはするもののそれだけであった。
これらのことから、ゾンビたちは時計塔の中へ入ってくることができないのではないかという憶測が立った。
しかし、アレスはこの憶測をすぐに納得することは出来なかった。
何故なら、この時計塔に入る前、中から巨体のゾンビが出てきたからである。
あのゾンビは時計塔から出てきたことから、普通に時計塔の中にいたことが分かる。
そして、これはゾンビたちが時計塔の中へ入れないという憶測を否定する十分な根拠となる。
そのため、アレスはゾンビたちが時計塔の中へ入れないとは断定できなかった。
ゾンビたちが時計塔の中へ入れないということを断定できなかったアレスはもう一度、魔力の矢でゾンビたちの群れを吹き飛ばした後、エレベーターを使って下の階へ向かっていた。
エレベーターの中にいるアレスはとても気怠げであり、とても疲れているようだ。
これは魔力を大幅に消費してしまった影響であり、アレスは魔力欠乏症手前まで魔力を使ったようである。
魔力欠乏症はその名の通り魔力を消費しすぎることでなる症状であり、立ちくらみや激しい疲労感、頭痛など様々な症状に見舞われる。
そして、魔力欠乏症は最悪の場合、死に至るなど到底無視できるような症状ではない。
アレスは魔力欠乏症になるギリギリのラインまで魔力を消費したために相当疲労しているが、魔力欠乏症にはなっていない。
ここまで細かく魔力の操作ができるのは彼の体が今までの経験を覚えているためだろう。
そうして、エレベーターが生命の樹がある階へ到着すると、先ほどまで枯渇していた魔力が一気に回復する感覚に襲われた。
これは生命の樹からのバックアップにより、魔力が急速に回復したのである。
生命の樹からのバックアップで魔力を回復させたアレスはそのまま螺旋階段を降りようと思ったのだが、ふと生命の樹に視線を向けた時、違和感を覚えた。
この違和感は何なのかと生命の樹を観察してみると、違和感の正体が分かった。
それは生命の樹に何かの果実が実っていたことである。
この果実はリンゴのような見た目によく似ているのだが、色が青色と明らかにリンゴではないことが分かる。
青色のリンゴには他に特徴と呼べるものはなく、生命の樹の幹に何個かのリンゴが実っていた。
この果実は一体何なのかとアレスは不思議に思ったが、生命の樹から生えていることから、毒などの有害なものではないことは何となく分かった。
有害なものではないことが何となくではあるが分かったアレスは試しに一つ食べてみることにする。
青色のリンゴを一つ生命の樹から取ると、早速アレスは食べてみる。
そうすると、体の中心から魔力が湧き上がってくる感覚がした。
このことから、この青色のリンゴは魔力を回復する食べ物であることが推察できる。
青色のリンゴを食べると魔力が回復することを知ったアレスはこれは使えるなと思い、今生命の樹になっているリンゴを全て取ると、収納魔術でしまったのだった。




