第18話 魔力の矢
教会の外を徘徊する獣人ゾンビたちの数が減るまでの間、暇を潰すためにもアレスは神父からもらった魔術書を読み始めた。
そうして、魔術書を読み始めたアレスであるが、最初の方に書かれている魔術の基礎理念についての説明で頭を悩ませた。
その理由は単純であり、魔術の基礎理念についての説明があまりにも専門的であり、難し過ぎたのだ。
アレスは記憶を失っているということもあり、魔術に関する知識を全く覚えていない。
そのため、専門用語が当たり前のように羅列されている魔術の基礎理念についての記述を理解することは出来なかった。
魔術の基礎理念について説明されている箇所を読むのを諦めたアレスは基礎魔術という章を読むことにした。
この章の初めの部分に大まかな章の説明が書かれていたのだが、その説明によると、この章は魔術の中でも基礎中の基礎の魔術がまとめられているとのことだった。
基礎の魔術がまとめられていることが分かったアレスはページめくってみると、次のページは魔力の矢という見出しのものであった。
魔力の矢という見出しのページを読んでみると、そこには魔力の矢についての説明や術式、使用方法などが丁寧かつ分かりやすく書かれていた。
魔術書の説明によると、魔力の矢はその名の通り魔力で作り出した矢を放つというシンプルなものだ。
これは魔術における基礎である体外に魔力を放出することを練習するのにうってつけの魔術である。
何故なら、最も初級の炎魔術であるファイアボールは魔力を炎に変換するという工程が挟まるのに対し、魔力の矢はただ魔力を体外に放出するだけであるため、魔術初心者でも扱いやすいからだ。
他にも体外にそのまま魔力を放出するだけであることから、失敗しても他の魔術に比べて安全であるという点も最初に習う魔術である理由でもある。
そして、この魔術の魅力はここだけではない。
それは汎用性の高さだ。
この魔術は術式があまりにもシンプルかつ短いことから発動までの時間が早く、下手な魔術を使うよりも相手を仕留めることができる。
他にもこの魔術は術式に流し込む魔力の量により威力が変化するというシンプルなものであるため、魔力量が多いものなら、上級魔術を軽く超える大きな火力を出すこともできる。
速い、威力の調整も出来るという汎用性の高さを誇る魔力の矢であるが、シンプルが故に術式の改変も簡単という利点もある。
例えば、術式を少し改変することで、散弾型の魔力の矢にしたり、大きな矢を天に向けて撃った後、その矢が拡散し、矢の雨を降らせたりなどそのアレンジは多岐に渡る。
そのため、この魔力の矢は様々な魔術を学び、実戦を積んだ魔術師でも当たり前のように実戦で使用している。
だが、魔力の矢にも弱点はある。
それは魔力防御の高い者には効果が薄いことである。
魔力の矢は魔力をそのまま矢の形に加工し、放つというシンプルなものであり、魔力をそのままぶつけているようなものなので、魔力防御が高い相手には効果が薄くなってしまう。
だが、この魔力防御の高い相手にも通用するまで魔力出力を上げたり、貫通術式を組み込んだりするなどして対策がとられている。
そのため、実は弱点と呼べる弱点はない。
一応、魔力の矢には威力上限があり、威力上限を超える魔力を込めたとしても威力が上がらないという弱点もある。
しかし、威力上限まで魔力出力を上げられるほどの魔力を持っている者など一握りであり、威力上限の魔力の矢を何度も放てる者は更に少ない。
そのため、威力上限は気にしなくても良い。
これはあくまでも熟練者かつ魔力を無尽蔵に保有している者の話であるため、今のアレスには当てはまらない。
今のアレスの魔力は無尽蔵からは程遠く、大火力を求めて魔力を込めすぎると直ぐに魔力切れを起こしてしまう。
それに、魔力の矢よりも魔力消費量が少なくて高威力かつ汎用性の高い魔術も存在しているため、魔力の矢に拘る必要もない。
魔力の矢の説明を読んだアレスは早速、この魔術を使用してみることにする。
魔術書通りに魔力の矢を使用してみると、体が覚えていたのか、アレスの掌の上に魔力で出来た白色の矢が現れた。
今は確かめるためにも掌の上に魔力の矢を出したのだが、これからは自分の周りであれば、魔力の矢を好きな位置に出すことができることなとアレスは思った。
案外容易に魔力の矢を使うことができたので、試しに魔力の矢を放ってみる。
狙いたい目標を決めると、アレスは集中し、狙いを定める。
そして、アレスが放った魔力の矢はその目標へ向けて一直線に飛んでいく。
だが、アレスの放った魔力の矢は目標に辿り着く少し前で消滅した。
これはアレスが中の物を壊すのはまずいと魔力の矢に込める魔力を抑えていたため、目標に辿り着く前に矢の形を保てず、霧散してしまったのである。
途中で霧散してしまうのもアレスの狙いでもあったため、これは決して失敗したわけではない。
そうして、魔力の矢の使用感を確認したり、様々な改変などの記述を読んでいると、気がついたら日は落ちていたのだった。




