第17話 謎の影と突然の死
アレスはこのまま獣人ゾンビの群れから逃げ切れると思っていた。
しかし、これはアレスの甘い考えであった。
アレスは北東にある時計塔を目指しながら隔離区画を走っていたのだが、彼は隔離区画の土地勘などは当たり前であるがなかった。
そのため、道なりに進んでいたのだが、アレスが進んだ先から先回りしたかのようにゾンビたちの新たな群れが自分に向かってきた。
アレスはこのまま正面突破するなどあまりにも無謀であったため、ゾンビの群れに挟まれないよう別の道へと進んでいく。
そうして、本来進む予定ではなかった道に駆け込むことでゾンビの群れに挟まれるという難を逃れたのだが、ゾンビたちは更に大きな群れへとなり、アレスへ襲いかかる。
更に大きくなったゾンビの群れからアレスは逃げるべく、駆け込んだ道を進み、ある程度時計塔に近づくと、再び新たなゾンビたちの群れに挟まれてしまった。
再びゾンビの群れに挟まれたアレスは挟み撃ちを回避するために残った道へと駆け込む。
このような行動をアレスは幾度となく繰り返していた。
そして、幾度となく進む道を強制的に変えられたことでアレスは自分がどこかへ誘導されていることに気付いた。
だが、誘導されていることに気がついたとしてもアレスは逃れることは出来なかった。
何故なら、この自分を誘導している者の思惑から逃れるためにはゾンビたちの群れに対処しなければならないからだ。
そのため、アレスは誘導されるがまま隔離区画を走り続けた。
そうして、アレスが走り続けていると、いきなり自分のことを覆い尽くす影が見えた。
と思った次の瞬間、アレスは教会の中にある生命の樹の前に立っていた。
アレスはあまりの出来事に思考が追いついておらず、しばらくの間はその場に立ち尽くした。
茫然自失アレスはしばらくすると、少しずつ状況を理解していき、自分がゾンビたちの群れから逃げている最中、死んだことさえ気づかせないほどの速度で殺されたことが分かった。
そして、アレスにはその心当たりがあった。
それは殺される前に見た自分を覆いつくすほど巨大な影だ。
アレスはあの影の元になったものによって、自分が即死させられたのだと考察した。
だが、あくまでも即死させられたことしか分からず、その正体などは皆目見当もつかなかった。
アレスはこれ以上考えても無意味だと思い、ため息をついた。
何故、アレスがため息をついたのかというと、彼がせっかく集めていた魂が何者かに殺されたことで全て失ってしまったからだ。
神父からの忠告をアレスは半信半疑であったのだが、実際に体験することで彼の言っていたことは本当なのだと身に染みて分かった。
せっかく苦労して集めたというのにその全てを失ってしまったことにアレスは意気消沈していたが、このまま気落ちしていても仕方ないので、無理矢理気分を切り替えようとする。
しかし、努力が全て無駄になったことをそうそう諦めきれないアレスは上手く気分を切り替えることは出来ず、引き攣っていた。
そうして、せっかく集めた魂を全て失ったことを諦めきれないアレスは外の様子を確認するために教会の窓から顔を出した。
窓から顔を出して外の様子を確認してみると、教会の前の道路には獣人ゾンビが大量に徘徊しており、徘徊しているゾンビたち全員が殺傷能力の高い武器で武装していた。
アレスが追いかけられていた群れに比べたらだいぶゾンビたちの数は少ないが、それでも今のアレスであの数のゾンビを対処するのは難しかった。
それに、今教会の前にいるゾンビだけでなく、他の場所から再びゾンビたちが集まって来る可能性もあり、再びゾンビの群れに追われるということにもなり得る。
アレスはゾンビの群れに追われるなど二度とごめんである。
そのため、アレスはゾンビたちの数が減るまでは教会の中で待機することにしたのだった。
そのようにして、アレスは教会の中で待機することになったのだが、気付いた時にはもうすでに日が落ちていた。
あれからアレスは教会の中で休息を取りながらも外の様子を定期的に伺っていたのだが、ゾンビたちは減るどころか、さらに増えていた。
減るどころかゾンビの数は増えたこともあり、アレスは外に出ることは出来ず、教会の中で足止めを喰らっていた。
足止めを喰らっていたアレスは最初こそ休息を取ることで暇を潰していたのだが、元から身体的な疲れはなかったこともあり、直ぐに暇を持て余してしまった。
何故、アレスが身体的な疲れがなかったのかと不思議に思うかもしれないが、彼は一度死んだことで体が新調されているため、疲れなどは残っていないためである。
だが、精神の方は違い、死ぬ瞬間までの記憶を持っていることから、それ相応のダメージを受けている。
そのため、精神的なダメージを癒すためにも休息をとっていたのだが、アレスの精神が強かったこともあり、直ぐに精神的なダメージの方は癒えたのだった。
そうして、暇を持て余していたアレスは神父からもらった魔術書のことを思い出し、この本を読み始めたのだった。




