不思議の国からこんにちわ
拝啓。
現実世界のお父さん、お母さん。
私ことHNアイリスは、今日もログアウト不可なゲーム『ナーサリーテイル』のなかで元気に過ごしています。
敬具。
*
「アイリお姉ちゃん、お茶のおかわり要る?」
「もームリ。お腹たっぷたぷです」
「……そっかぁ。お姉ちゃんのためにいーっぱいお菓子も用意したんだけどなー」
チラッチラッと期待の眼差しが眩しい。やだーこんな可愛いしぐさ見せられたらやるっきゃないじゃないですかー。
「——もう一杯いただきます」
「わーい、お姉ちゃん大好き!」
そう言って抱きついてくる幼女。役得です。
「で、いつまで棒みたいに突っ立ってるつもりですか? リーダーさん」
視線の先には、そこそこイケメンな冒険者の青年——攻略リーダーの姿があった。
「いや、二人の間に割り込むのは無粋な気がして……いや、正直に言おう。この蔓解いてくれないかな? アリスちゃん」
そう言うリーダーの下半身は蔓で覆われて身動き出来ないようになっていた。台詞だけは格好つけてるけど、表情は涙目。相変わらずメンタル弱いですね、リーダーさん。
「いーやー! 解いたらお姉ちゃんを連れて行っちゃうつもりでしょ!」
そんな事させないんだから! と張り切るロリっ子の名はアリスちゃん。見た目は金髪碧眼青いドレスに白いエプロンをつけた幼女。だがかつては第1エリアのボスとして君臨していた、紛れも無い敵キャラである。その能力はバラの蔦を自在に操る事と、無理やりお茶会を開くこと。攻略時は無理やりお茶会の弊害で、始まりの町が死屍累々でした。あれは私の目から見てもアカンかった。ので、攻略リーダーに請われてアリスちゃんに戦いを挑んだ結果——懐かれました。……どうも私の対応がマズくてバグったらしいです。今では普通に始まりの町とかにもやってきてNPCの皆さんとも仲良しなのだとか。それで良いのか元ボスと思わないでも無いけど……まあ、特に害が無いから良いか。
ロリっ子と言えども元はボス。その迫力にしどろもどろになりながらも、リーダーは頑張った。
「いや、今回は攻略じゃなくて……」
「攻略じゃなかったら、お姉ちゃんに何させるつもりなの!」
「その、剣術の指南をしてほしいというか……」
「リーダーさんや。私、魔術師ですよ? なんで剣術指南しなきゃいけないんですか」
魔術師に剣術を習う前衛職がどこに……うん、ここにいるね。私の目の前に。
「撲殺改め斬殺魔術師ちゃんが今更何を言ってるんだい?」
「なんか名称が変更されている!? てか、一体誰がそれを広めてるんですか!!」
真顔で言われても困るわ! しかも心なしか猟奇色が上がっている。これ女の子に付ける二つ名じゃないと思うんですよ。というか、なんでも「ちゃん」付けすれば良いって話じゃねーぞ。
「誰が広めてる、というわけじゃなく自然と広まっている感じなんだが」
言外に「キミ、普段の素行がアレなんだよ」と言われている気がする。単に雑魚は魔術使うより、杖で居合斬りした方が早いし楽なだけなんですけど! まだ範囲魔術覚えてないし!
「まあ、これはチートすぎるプレイヤースキルを持ってしまったが故の弊害……ということで納得してもらうしかないかな」
チートじゃないやい。一応、血と汗と涙の結晶だよ、私の剣術! ……日常生活には不要だけどね!!
「——で、私が攻略組の皆さんに剣術指南するメリットは?」
「オススメ観光スポットの情報提供などいかがだろうか?」
「おーけー。話の続きといきましょうか」
さっすが攻略リーダーさん。短い付き合いながらも私の嗜好を掴んでいらっしゃる。アリスちゃんが涙目で「お姉ちゃんの裏切り者ぅ」とか呟いているのが心苦しい。だがなに、今度オススメ観光スポットで一緒にお茶会すれば良いんだよ! ……きっと楽しいよ?