うわうさぎっょぃ
なんだか意味ありげなセリフを聞いた気がしたが、初めて体験したVRゲームの中は新鮮だった。『反転』とか言うから、おどろおどろしい街にでも放り出されるのかと思いきや——
澄み渡るような青空。石造りの街並み。笑い声の絶えない明るい街の人々。などなど。かつて『アイリス』として駆け抜けた街並みの面影を感じてウルっときた。まぁ、あの頃は街の人々も笑顔とか浮かべる余裕なんてなかったけどね……。おっと、いけないいけない。封印が弱まっている。このゲームをプレイするのは郷愁にひたるためじゃない。楽しむためなのだ。いきなりしんみりしてどーする、私!
パンっと両頬を叩いて気分を一新させる。
さて、まずはチュートリアルでも受けようかな。この手のゲームはチュートリアルで初期装備とかアイテムもらえるからネ! 説明書は読まない派だから助かるんだよねー。VRは初めてだから、特有の戦い方とかもわかんない。ので、フィールドとか怖くて出られたものじゃない。私はか弱いダークエルフさんだもの。
問題は何処にいけばいいか判らないって点である。初っ端くらいは読んでおくべきだったか、説明書。
まあ、こんなに沢山人がいるんだから聞いてみれば良いよね!
すーはー、すーはー。と、息を整える。ついでに心も落ち着ける。話の途中でどもったら嫌だし。そうして心の準備を終わらせて、
「……す、すみませーん、チュートリアルって何処で受けられますか?」
手近にいた第一街人に声をかけた。人の良さそうな年配のおじさまだ。
「ああ、新人の旅人さんかい。チュートリアルなら役所で受けられるよ」
親切にも地図まで描いていただき、お礼を言って別れた。
うーん、さすが最新ゲームのNPCさんはすごいね。会話の受け答えが自然すぎる。まるで普通に人と話してるみたいだ。これは接し方にも気をつけた方がいいかもしれない。若干コミュ障気味のぼっちにはハードルが高いけど、他のプレイヤーと話すよりは難易度低いはず……!
わたくし、最近の若者の話には着いていけないの……つーても私もまだ若者ですが。さって、役所でチュートリアル受けますかー。
*
チュートリアルは割と簡単だった。普通に現実世界と同じように動いて戦うこともできるし、コマンドを呼び出して技や魔術を使うことができるそうだ。
技の動きを忠実に再現したり、魔術を使う時に詠唱をきちんとすれば威力アップボーナスがあるらしい。ここは断然詠唱派になるべきだね! かっこいいし! 私は大魔導士になる! ……なんちゃって。
じゃあ、さっそくフィールドに出て実践してみようじゃないですか。
*
というわけでやってきました初心者向けフィールド、南の草原。
「まずは野うさぎ辺りが良いよね、初心者だし!」
野うさぎは皮と肉がドロップするから、初心者的にはオイシイのです。マネー的な意味で。しかも、そんなに強くないらしい。
あ、ちょうどこちらにネギ背負ってやってきたカモが! れっつぷれい!
「えーっと、初級の火属性魔術の詠唱は……」
チュートリアル特典でもらったメモスクロールに目を通してみると、比較的すぐに見つかった。まあ初級だしね。
「なになに? 『火の精霊よ我に力を。ファイアー』?」
初級の癖に長いなと思いつつ読んでたら、手のひらからなんか火の玉出た! 確認の意味が強く、残念ながら狙いを定めていなかったので、明後日の方向に飛んでゆく火の玉。
試しに呟いただけでも出るとか危なっ! しかも今ので野うさぎに勘付かれた。そりゃそうですよねー。
「きゅぅぅぅ!」
しかもなんかヤル気満々だ。野うさぎの癖に。よし、じゃあもう一度!
「『火の精霊よわれに−−ふぎゃっ」
噛んだーー!?
え、も一回最初から? いやいや、悠長に詠唱なんてしてたら、野うさぎの後ろ蹴りが、決まっ、て−−
*
死に戻りました。うん、嫌味なくらい澄んだ青空だね! まさか最下級モンスター野うさぎの一撃で沈むとか、魔族の紙防御ナメてたわ。
ワタシ、詠唱魔術師、諦メマース。
何処ぞの偉い魔術師も言ってた。「魔術使うより殴った方が早い。呪文は噛むからネ☆」って!!
当然コマンド選択方式も却下! チャージ中に攻撃受けて、死に戻りするのが目に見えている。……つまり魔術師でありながら、まさかの魔術が足手纏い状態!! ナンテコッタ。
普通のゲームであれば詰んだ状態。キャラメイクからやり直し事案だけど、私、このキャラ気に入ってるんだよー!
……いや、レベルさえ上がれば状況は改善するかもしれない。例えば詠唱短縮スキルとか、チャージ時間短縮スキルとか色々と出てきそうだよね?
……仕方ない。次善策として封印をちょっとだけ解くとしますか。幸いこのゲームはVRMMORPG。プレイヤースキルさえあれば魔術師でも剣士の真似事ができるんだよ。最終的に経験値さえ貯まればレベルは上がる。レベルが上がればステータスも上がるし、新しい魔術も覚えられるはず。スキル上げはそれからでも遅くはない……たぶん。
よーし、まずは野うさぎオマエからだ……。




