きゃらめいく
「よっしゃあっ、発売日ゲットぉ!」
──おっと、ついつい心の声がでてしまった。今日は楽しみにしていたゲームの発売日。正直、一週間前から楽しみにしていた。VRMMOの最新作『ナーサリーテイルオンライン』。童話をモチーフにしたファンタジーだそう。
ちなみにVRゲームは初めてのプレイです。最近は専用端末もお手頃な価格で手に入る様になったおかげで今回の購入と相成りました。これ頭に被るタイプの機械なんだけども、被るだけで五感丸ごと全部異世界に行った様なゲームプレイが可能とか、世の中便利になりましたねー。
とゆーわけで、ゲームのROMをセットして……いざ、ゲームの世界へ!
*
ふと気付くと何も無い空間の真ん中に浮いていた。なんか浮遊感がすごい! これプールに行くか無重力体験とかじゃないと味わえないやつだ! ……あ、人によっては夢の中でも味わえるかもね。実際、似たような経験が私にもある。あれはそう──
『ナーサリーテイルの世界へようこそ!』
思い返しつつ無重力のフワフワ感を楽しんでいたら、手のひらサイズな女の子の妖精さんが現れた。ゲームのパッケージに載ってたナビゲーターさんだ。まずは彼女の言葉に従ってキャラメイクをする必要があるそうな。まぁ、VRMMOの醍醐味のひとつだね!
『キミのお名前は?』
妖精さんがそう言うと、私の目の前の空間に入力欄のような物が現れた。キーボードみたいな入力装置は無いから、音声変換なのかな?
──と、思ったら。
ピコンと音がなって、入力端末が目の前に現れた。端末と言っても機械とかではなくて、レーザーみたいな光でできた入力ボードとでも言えばいいのか……なんかそんな感じなやつである。地味にサイバーちっくでカッコイイ。すたいりっしゅ。……でも困った。ゲームが楽しみすぎてプレイヤーネーム考えるの忘れてた。やばい。こんな序盤で詰むなんて……!
いや、こんな時こそ使える名前があるのだけど、アレは封印した過去なのよ。言うなれば過去の遺物。いやでもこのゲーム、ファンタジー物だし……うわぁぁぁっ、他に候補が浮かんでこないぃぃっ!
しばらく葛藤する私。でも他に選択肢なんて無いのだ。悩めば悩むほどプレイ時間が減っていく……! それは嫌だ!
仕方がない。封印を解く時が来たのだ。……やっすい封印とか言わないでほしい。それだけこのゲームをプレイするのが楽しみだったんだよ!
「…………『アイリス』で、いきます……」
『わかった。アイリスだねー、よろしく!』
あ、ご丁寧にありがとう妖精さん。そして音声入力オーケーでした。無駄にかっこいいキーボードの意味ェ……。
『ところでキミの種族は何なのー?』
ちなみに性別は変えられないので、一昔前のネットゲームみたいにネカマさんプレイとかは出来ないんだそーな。技術的な問題らしい。ホルモンバランスがどーとか。ただ、えるじーびーてぃーだっけか? その問題に配慮して、見た目だけなら限りなく近くする事は可能なんだって。女装・男装で対応してネって事らしい。容姿は根気と技術さえあればいくらでもいじれるからねぇ……。わたしは面倒だから、デフォで用意されてるパーツ使うけど。
さて、選べる種族は、っと。人間・エルフ・ドワーフ・獣人・魔族の五種類か。……うーん、ゲームなんだから普通じゃ出来ない事をしたいよね! 後で決める職業との兼ね合いも考えなきゃだし、難しいところだ。人間はオールマイティ。エルフは魔法特化。ドワーフは戦士向き。獣人は素早さ特化。魔族は紙防御以外はハイスペック……か。
とりあえず人間はやめとこう。ゲームの中でくらいは夢を見たいです。獣人のケモミミとか尻尾とか惹かれる。あ、でもモフるのは好きだけどモフられるのはな……。ドワーフは背の低さと動く速さに制限があるのがネック。
となると、王道のエルフか邪道の魔族という事になるんだけど……。魔族でヒールプレイっていうのもイイかも。……決してストレスが溜まってるとかそういう訳ではないですヨ? まー、このゲーム的には悪役って訳でもないんだよ、魔族。それにしても……パラメータ的にぼっち専用にしか見えない残念仕様ですね。
「──私はあえて魔族を選ぶ!」
──理由? そこに浪漫があるからサ! ファンタジー世界を放浪する、特に邪悪でもないはぐれ魔族とか浪漫があるじゃん? あと攻撃が当たりさえしなければ最強です。
『魔族さんなんだねー。そういえば職業はどうするー?』
あ、きたきたー。昔のMMORPGとかだと、一定のレベルまで無職とか冒険者見習いだったりするけど、このゲームは最初から職業を選ぶタイプのやつだ。他の職業に転職できると言う情報が今の所ないので、割と重要な選択。
しかーし! 私はすでに決めているッ!
──それは魔術師。比較的初期から一対多数に対応できる、歩く大量破壊兵器! 私、しばらくぼっち確定だから火力が必要なんだよ、火力が!
……はい、ウソつきました。たぶんずっとぼっちです。だって知らない人にパーティー申請するの怖いじゃん? まったり勢の私が、まかり間違ってガチ勢に申請しちゃったりしたら事件じゃん? ニンゲンコワイ。私にゃ秒数単位でバフデバフ管理とかMP管理とか攻撃魔法ブッパとか無理ぃー……。マイペースなんで。同じ理由で効率優先の狩りとかもムリ。マイペースだからね! あとね、前衛職はもうお腹いっぱいなんだよ。例え前衛職に高い適性──プレイヤースキル的な意味で──があったとしても、私は魔術の道を選ぶッ!
「──という訳で、魔術師でおねがいします」
『うんうん。なんかボクには判らない葛藤があったみたいだけど……魔術師さんだねー』
おや? なんだか妖精さんの視線がカワイソウなものを見る感じになっている? 最近のAIすごいね。しかもまさかのボクっ子とはあざとすぎるよ運営!
『じゃあ、最後は向こうでの君の外見はどんな感じなのかな?』
最後の大詰め、キャラメイク最大のお楽しみが来たよ!
目の前にはビジュアル作成用のウインドウが現れた。これを弄って見た目を調整していくワケだね。デフォだと、現実の自分に近い背格好と顔パーツが選ばれているんだけど……流石にないわー。せっかくのVRゲームなのに、何の調整もしないとかないわー。
──さて、どうしたものか。
つるぺた幼女とか奇をてらってて惹かれるものがあるんだけど、紳士にストーキングされそうでやだな。いくらイエスでノータッチでもやだな。というワケで、銀髪褐色エルフ耳な狙いすぎパーツを選んでみる。目もちょっとつり目気味にしとこう。なんかクールでカッコいい女って感じだ。他の調整はいらないかな。自慢になってしまうんだけど、両親に恵まれたおかげで現実の見た目とかも割と悪くないんだよ私。しかし、ぼっちである……おうふ。何がいけないのかわからない。……もしかして女子力低いのが駄目なの? アウトドア活動なら凄く自信あるんだけど! 野宿とか狩りとか!! ……………………低いですよねー女子力。せめて料理くらいはしておくんだった……焼くか煮るくらいしかできない。
「うぅっ、じょしりょくぅぅ……」
自分の思考で自分に大ダメージ。思わず地面? に膝をついてしまった。
『あのー。君、本当に大丈夫? 主に頭的な意味で』
「地味に失礼だこの妖精!?」
あ、いまチッて舌打ちしたよこの不良妖精! しかも、こほんって咳払いして、無かったことにした上で仕切り直そうとしてる……だと!?
『とりあえず──改めてようこそアイリス。今から君をはじまりの町に転送するよ』
妖精さんがそう言うと、足元が光りだした。魔法陣みたいな模様が浮かび上がっていて、これからファンタジーの世界へ行くんだと否応無く感じさせられる。
『これから始まるのは君の物語。反転した世界での君の活躍を楽しませてもらうよ』
「反転……?」
とても愉しそうに嗤う妖精。背筋に冷たいものが走るが、後の祭りだ。気付けば既に魔法陣の外の景色は変化していた。