「解せぬ!」 漢字:百日紅
私は漢字が苦手だ。
植物、魚介、動物……大昔のヤンキーが考えたんちゃうやろか?
思うような、当て字みたいなものや、矢鱈と画数の多い漢字。
意味がわからん。
そんな中、ひと昔……いや、3昔とちょっと前、
当て字でも、訳の分からん漢字でもないのに、
「解せぬ!」
という漢字に出遭った。
◇◇◇
「お代官さま、どうか、この者たちの争いを収めてくだせぇ」
合併したての村の代表が、村人を2人連れて奉行所へとやってきた。
なんでも、植物の名前について揉めているらしい。
村人O:「うちの村では、この木ぃのこと『猿滑り』言うてたんですわ」
村人K:「うちの村では『百日紅』言うてたんどす」
目の前に置かれた植木鉢を見る。
色鮮やかな花が咲いていて、心まで華やぐではないか。
村人O:「取り敢えず、枝のとこ、よう見たってください。めっちゃツルツルでっしゃろ? あの滑り知らずの木登り名人の猿でも滑りよるから『猿滑り』ちゅ〜わけですわ。スベリ知らずをスベらすとか恐ろしい名前やけど、これほど、的を得た名前は他に無い思いますわ!」
村人K:「いやいや。こない、可愛らしい花 咲かせたはんのに、猿やて。ホンマどないな感性したはるんやろ? お代官様、聞いとくんなはれ。この、紅うて可愛らしい綺麗なお花、なんと百日も咲き続けて楽しませてくれはるんどすえ。『百日紅』以外の名前、ありゃしまへんわ!」
興奮して猿のように、顔を真っ赤にして言い争う村人たち。
村長:「こんな調子で……どっちも譲らんのです。せっかく合併したのに、仲悪なってもうて……ほとほと困っとるんですわ。どないかなりまへんやろか?」
お代官様:「ふむふむ、どちらの言い分も分かるの。ふ〜む、では、こうしてはどうだ。『百日紅』と書いて『さるすべり』と読むのだ。『猿滑り』と書いて『ひゃくじつこう』と読むよりは、歌を詠むのにも良かろう。どうだ?」
―― 猿のよぅに 頬に紅させ 百日紅 ――(字余り)
村長:「さすがお代官様。見事な解決策にございます! お前達もそれで良いな?」
村人OK:「「 ははあ~! 」」ペコリ
◇◇◇
こうして、ツルツルの枝に紅いお花を百日も咲かせる植物の名前は『百日紅』と書いて『さるすべり』と読むことになったのです。めでたし。めでたし。
って、全然めでたないわっ!子々孫々、漢字テスト受ける身にもなってみぃ!
『百日紅』と書いて、『さるすべり』?! こんなん覚えられるワケあらへんやん!! 小手先やのぅて、未来のことも考えた策を弄さんかい!
自分の妄想に、そうツッコんだ瞬間 私は……
心ならずも、『百日紅』をちゃんと覚えてしまった。
ほんま、漢字って……便利やけど、ややこしいなぁ〜。