ショート 森の中で暮らしたい
多種多様な文字の群集。原稿を木々が規則正しく並ぶ一つの森に見立てるのであれば、我々は冷静な狩人なのかもしれない。
木々を駆け抜けて獲物を探し出し、見つけたとしてもすぐには撃たない。周囲を警戒し、風向きや角度からそれを撃つべきかどうか判断する。近くに子供がいるのではないか、つがいではないのか。仕留めて問題がないかを自分の中で再度確認し、引き金を引く。命を育んでくれた環境へと感謝し、勝手に奪ってしまった事を謝罪する。
突然の「お先です」という同僚の言葉に顔を上げると、どうやら終電ギリギリまで没頭していたらしい。身支度を整えて部屋を後にした。ピークよりもやや減った群衆へと混ざり込みながら、活躍してくれた右手にご褒美を与えるよう、さすった。
生きる為に狩らなければならないのだ、と言い聞かせていた頃が懐かしい。美しい森を維持する為には頭数の管理も必要で、決して憎くて撃っている訳ではない。あの森の奥に居た大物をどうやって仕留めるかと計画を立てながら、改札をくぐった。